人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

村の現状

 アロ村に入ることができたナタリーだが、中の様子は外から見るよりも悲惨だった。ケラース教会に報告が言っている間に襲撃を受けたのだろう。あちこちで生々しい戦禍の跡が残っている。無事な家は全体の半分ほどしかなく、壊れた家のほとんどが突破された壁部分に集中している。村の中央では横にされた村人の遺体が並べられていた。今も運ぶ作業が続いているようだが現状でも50人以上の遺体が並んでいる。

「……昨日だ」

 ぽつりと、呟いたのは物見やぐらにいた男だ。アースという名前の彼は村長の息子で今村を指揮しているという。本来村をまとめるべき村長である彼の父親は遺体の一つに混じってしまっている。ほかにも村をまとめるべき者たちの大半が死んでしまっているという。

「昨日の朝に突然魔物が襲ってきたんだ。みんな寝てたから直ぐには対処できなかった……」
「……見張りは?」
「真っ先に死んだ。魔物を指揮しているやつがいるみたいで矢で殺されてた」

 悔し気に、そして悲し気に絞り出すような声で言うアークがどんな気持ちなのか推して知るべしだろう。彼のほかにも同じように家族を失った人たちが悲しみに暮れている。

「……魔物の数、種類をわかる範囲で教えて」
「数は分からねぇ。確実に100はいたと思う。ほとんどがゴブリンとか吸血狼ブラッドウルフとかだったが群れのボスらしいでっけぇオーガが一体た。そいつが村の壁を破壊したんだ……!」
「……」

 アークの言葉を聞きナタリーは考える。現状、考えられることは一つだが念の為に2、3個ほど質問を行い確定させていく。その結果、ナタリーが出した結論はシンプルだった。

「魔王軍が関係している」
「魔王軍!?」

 アークは驚愕する。アロ村はわざわざ襲撃するような価値のある村とは思えない。実際、この村は一般的なサジタリア王国の村であり特別な物は何もない。この村や地域でしか栽培や採掘、採取出来ない物もないし偉人と呼べるような者の出生地や居住地でもない。強いてあげるならケラース教会の支所が存在するくらいだ。それゆえに、襲撃理由が内部にあるとは思えない。となれば理由は外部にしかないだろう。 

「……狙いは外からの援軍、サジタリア王国への嫌がらせ」

 ナタリーがそう呟いた時だった。その予想の」信ぴょう性を上げるように叫び声が聞こえてきた。

「ま、魔物の襲撃だぁぁっ!!!」

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