人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

見習い業務

 そんなナタリーだが、教会に泊まっている以上宿代を払う必要がある。しかし、重傷者が一月二月で完治するわけがない。治るまで払っていれば途方もない金額となるだろう。それに加えて今のサジタリア王国は国家の建て直し中であり、物価は値上がりし続けている。ナタリーが支払える額には限りがあった。
 そこで教会が提案したのが雑務の手伝いをする代わりに宿代を無しにすることである。簡単に言えば和人が回復するまで教会で住み込みの見習いとして働くことである。
 病院を兼ねるこの世界の教会は常に人手不足である。魔法を用いて治療できる神父には限りがあり、なかには病院の機能を果たせない教会も存在している。
 その点で言えばケラースの教会は充実していると言える。回復魔法を使える神父がおり、人手不足こそ問題ではあるが人当たりがよく、地域に馴染んでいる。血だらけで運ばれてきた和人を事情も聞かずに助ける人の良さもある。

「……」

 それゆえに、顔が整ったナタリーが手伝いを始めるとそれまで滅多に訪れなかった若者が集まるようになり、教会は軽く混乱する賑わいを見せ始めていた。

「ナタリーちゃん! この後一緒にご飯食べに行かない?」
「ナタリーちゃん! 僕が好きなものを買ってあげるよ!」
「ナタリーちゃん!」
「ナタリーちゃん!」
「ナタリーちゃん!」
「……」

 普段は表情筋が死んでいるのではないかと思えるほど無表情のナタリーだが、今回は始めて会った人でも分かるくらいに辟易としていた。

「ははは、ナタリーさんは大人気ですね」
「……別に望んでない」
「ふふ、そうですか。……とは言えこの混み具合は何とかしないといけませんね」

 ナタリー目当ての男達によって教会の礼拝堂は埋まっている。このままでは普通に礼拝目的の者達が入ることは出来ないだろう。ナタリーを見たいだけで礼拝する気のない男達に司祭も強行手段に出ることにした。

【礼拝及び教会に用事がある人以外来訪禁止】

 そう書かれた看板を扉前に立て警告を行った。文字が読めないものに対しては職員が口頭で説明を行い、ナタリー目当ての来訪者を厳しく制限した。
 中には礼拝や相談と言って中に入ろうとするものもいるがそう言ったものにはナタリーが礼拝堂から見えない位置で手伝いをさせ、相談は他の職員が対応することで対処を行った。
 これにより、ナタリー目当ての来訪者は大きく減り、元の状態へと戻っていくことになったのである。

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