人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

神の試練~ダンジョン攻略⑳~

 カドミエルの上半身が支えを失って後ろに倒れるがそうなると本来下半身に向かうはずの血が前方に降り注ぐことになる。無論、俺の体はカドミエルの血で真っ赤に染まった。少し鉄臭いにおいが俺の鼻を麻痺させる。
 しかし、その瞬間俺の体は吹き飛ばされた。同時に視界を覆いつくす莫大な光に視力を一時的に奪われた。俺の背中は再び見えない壁に叩きつけられた。意識を失いそうになるほどの衝撃と激痛が俺を襲ってくるがそれを耐えてカドミエルの方を見る。
 カドミエルは上半身と下半身を切断したにも拘わらず傷は全て修復されていた。そして先ほどまでとは違い別人と見間違えそうに成程神々しい姿をしていた。これはあれか? 本来の力が解放されたのか?

「おめでとうございます。貴方は見事第100階層をクリアする事が出来ました」
「っ! 本当か!?」
「はい。こうして本来の姿になれましたので。それにしてもあなたは凄いですね。私としてはまだまだ戦闘が長引くと思っていたのですが……」
「一種の賭けだったな。あまり長引かせたら俺は劣勢になったはずだ」

 あれで決着がついてくれたのは本当に良かった。そう思っていると空間が割け、そこからアポロン神が現れた。相変わらずホストのような風貌で美女を侍らしている。

「おめでとう。まさか攻略するとは思っていなかったよ」
「そうか」
「さて、じゃぁ君の意識を下の体に送るよ。勿論君がここまで手に入れた力も体に直接反映されるし武器屋防具もね」
「それは有難い」

 ここで手に入れた物はどれも素晴らしい一品ばかりだ。手放すには惜しかったからな。そんな俺の思いも分かっていたのだろう。ニヤニヤとこちらを見ている。

「それじゃ送るよ~」

 その言葉と共に俺を中心に地面に魔法陣が形成される。これが転送のようなものなのだろう。

「それで鈴木和人君。最後に何か言っておきたい事はあるかい? 神と対話できる機会なんてもうないと言ってもいいよ?」
「……なら一つだけ。この世界に転生者、つまり俺と同じような世界から来た者はいるのか?」
「勿論だよ。時には赤子から始まり時には肉体はそのままに転移する。そう言った者達はこの世界に体躯さん存在する。この世界は1000年くらい前まで人間優勢の世界でね。魔王の配下の魔族たちは惨めな思いをしていたんだ」
「……まさか、それをたすけたのも?」
「そう! 俺が気に入り神の断りを変えてまでこの世界に転生させた最強にして全てを飲み込むカリスマを兼ね備えた初代魔王さ。今の魔王には武力では敵わないかもしれないがそれ以外の全てで勝っていたよ」
「それほどの人物が魔王に転生か……」
「そうだよ。で? 聞きたい事は以上?」
「そうだな。大分時間が経った気がする。ナタリーに会いたいからな」
「なら送るよ。精々その力を生かしてこんな死にかけの状態にならない事を祈っているよ」
「ああ、俺もそう思っているさ」

 俺がそう言うと同時に、視界は再び光に包まれた。

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