人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

神の試練~ダンジョン攻略③~

 地響きと共に上がって来たのはオーガよりもデカい図体を持ち、最低限の防具だけにも関わらずちっとも防御力が低そうには見えない鍛え抜かれた肉体。そして、特徴的な一つしかない目。ギリシア神話に登場するサイクロプスだ。巨人という言葉に相応しい巨体だ。俺の身長と比較するとサイクロプスの足首をちょっと超える程度だろう。あれほど広々とした部屋が少し狭く感じる程だ。

「オオォォォォォォォッ!!!!」

 そんなサイクロプスは俺を見つけると雄たけびを上げながら拳を振り下ろしてくる。オーガの棍棒よりも威力がありそうだがそれと同じくらいには早いスピードで迫って来る。当たれば圧死は確定だな。というか掠っても殺されそうだ。
 その為俺は少し大げさに避けるがそれは正解だった。俺がいたところに着弾した拳は地面を陥没させ、石畳の床にクレーターを発生させた。あんなのを喰らったら肉塊すた残りそうにないな。

「ふっ!」

 俺は砕かれた石畳の床の破片の中で持ちやすそうな石を拾うと全力でサイクロプスの足に向けて放った。160キロは軽く超えているであろう俺の剛速球で投げられた石は甲高い音を立ててサイクロプスの足に命中した。しかし、当の本人にはダメージが入っていないようで次の攻撃の動作に入っている。
 分かってはいたが巨人という巨体を支える足の筋肉に生半可な攻撃は効かないようだ。ここまで来ると鉄よりも堅いんじゃないか? とは言えこいつを倒さないと次の階層にはいけない。……あれ? 確かボスモンスターって10層後の階層と同じくらいの強さと言っていたよな? つまり11階層にはサイクロプスと同等の実力者ばかりという事か。改めてこのダンジョンが厳しいという事が分かるな。神の試練というだけの事はある。
 そんな事を思っているとサイクロプスの左腕が迫って来る。俺はそれを避けると地面に着弾した拳に向かって走る。途中で破片がいくつも飛んでくるが多少の痛みは堪えてサイクロプスの左腕に乗ると一気に走り抜ける。サイクロプスは俺を振り払おうと右腕で俺を押しつぶそうとして来る。手に止った蚊を手で叩く動作に似ているな。
 とは言え俺は普通の人間よりも早く走れる。それを生かして手が落ちてくるより先に着弾範囲から脱出する。そして一時的に両腕が使えなくなったサイクロプスの目に向かって跳躍すると瞳をこちらに向けるサイクロプスの目に曲刀を深々と突き刺した。

「ッ!!?? ーーーーーッ!!!!」

 瞬間、サイクロプスの声にならない悲鳴が部屋中を揺らした。

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