人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

対神聖ゼルビア帝国戦争ⅩⅣ

 サジタリア王国軍の壊滅はあっという間に本国に伝わった。というのも国境線にある砦、ベアード砦に敗残兵が雪崩れ込んだからだ。砦の最高指揮官レナード・ウィルトニアは直ぐに情報を集めて王都に報告した。そして、詳しい出来事が明るみになったのだ。
 序盤は神聖ゼルビア帝国の兵に優勢に進み、半包囲状態にまで追い込んでいた。しかし、魔王軍の介入により王太子と国王は戦死、更に挟み込むように魔王軍の更なる増援が現れ完全に逆転した。その状態でも王国騎士団は増援の魔王軍を打ち倒そうと動くも返り討ちに遭い団長代理ミュレイ、副団長パルパロイは行方不明となり5千の騎士団は百名弱を残して全滅。更に方位を形成する軍勢の支援を行っていた軍勢の一部が裏切り包囲を崩した結果神聖ゼルビア帝国軍の攻撃も受けてサジタリア王国軍は完全に敗走したという事だった。そこからベアード砦近くまで執拗な追撃を受け10万いた軍勢は1万前後にまで減っていた。歴史に名を刻めるほどの大敗だった。
 国内の農民すら動員したこの征伐に敗北したサジタリア王国は今後混乱していく事になるだろう。更に国王と王太子の両方を失った事で後継者争いも発生し始めていた。その手始めと言えるエミリー・フラン・サジタリアが国王の命令を破り表舞台へと再び姿をあらわしていた。更に今回の責任を押し付け合うように宰相と軍務卿が水面下でやり合い始めており少なくない犠牲を出していた。
 国内から出ていく人も増えており王国東側の人口は大きく減り始めている。今のところ魔王軍も神聖ゼルビア帝国も動きはないがサジタリア王国併合に向けて動き出す事は誰もが予測できた。

「今の我らはまさに建国以来初の国家存亡の危機と言えます」

 王都民に向けての演説でエミリー・フラン・サジタリアが言ったこの言葉はまさに現状のサジタリア王国を表していると言えた。12大国へと分裂する際もこのような事は無かった。
 更に、同盟国のリブラ帝国は西側諸国の国と一進一退の攻防を未だに続けており助けを求めても動く事は出来ない。スコルピオン帝国は魔王軍が動くならともかく神聖ゼルビア帝国が動くのならサジタリア王国に侵攻を受けた事もあって助けようとはしないだろう。ヴァーゴ王国は勇者と兵に甚大な被害が出たばかりな上に東側の情勢には無頓着な所があった。
 つまり、サジタリア王国はこの状況に対し一国で立ち向かう必要があったのである。

「私は、生まれ育ったこの国の滅亡だけは何としても防ぎます」

 エミリーは自室にてそう覚悟を決めるとサジタリア王国初代以来初の女王戴冠に向けて動き出すのだった。





 そして、そんなサジタリア王国の西部に位置する都市ケラースにて一人の少女が約半年に渡り眠ったままの男の回復を待ち望んでいた。教会が運営する医院のベッドに寝かされた男の腕を握り幼さが残る顔を涙でゆがめ、必死に祈る少女。

「和人……」

 少女、ナタリー・ダークネスは男、鈴木和人の回復を願い今日も祈り続けた。

 そんな少女の願いは、

「……ナタリー?」
「っ!!!! 和人!!!!!」

 それから数カ月後に適う事になる。

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