人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

対神聖ゼルビア帝国戦争Ⅴ~ライオネス街道野戦Ⅲ~

 王国騎士団の団長代理であるミュレイ・ムー・ラングルトは自軍の本陣にて不貞腐れていた。両翼では既に戦闘が始まっているにも関わらず幼い少女の我儘の様な態度を取る彼女に側近たちはたしなめるもそれは表面のみで心の中では彼女と同じように不満が溜まっていた。
 王国騎士団はサジタリア王国第二王女エミリー・フラン・サジタリア直轄の兵士でありミュレイとエミリーは幼い頃から共にあった友人の様な存在であった。しかし、神聖ゼルビア帝国との戦争に反対した事で彼女の指揮権ははく奪され彼女と対立関係にある王太子ウィスターに与えられた。
 出兵時にウィスターは

『諸君らは愚妹によって洗脳された哀れな兵士たちである。余はそんなお前たちを憐れみ洗脳を解くチャンスをやろう。我が軍の先鋒として戦い余の功績の為に戦え。さすればお前たちは愚妹より植え付けられた洗脳から解き放たれサジタリア王国に忠誠を誓う真の騎士として生まれ変われるだろう』

と宣言した。
 これにはミュレイ以下王国騎士団の顰蹙を買う結果となったが王太子に歯向かう訳にもいかずにこうして中央軍の先発として最前列に位置させられた。スコルピオン帝国との戦では嫌われ、今回は大切な主と引き離された上で肉壁の如き命令を受けた。
 敵中央は2万もいるのに対し彼女ら王国騎士団は僅か5千。損害を与える事は出来ても退ける事は難しいだろう。そうなれば傷ついた敵をウィスターが討ち取り自らの功績としてしまうだろう。その事が分かったミュレイはこうして不機嫌を隠さずに面に出して不満げであった。

「……なんで僕たちばっかりこんな目に遭うのかな」
「それは……」

 ぼそりと呟かれたミュレイの言葉に側近は答えられない。元々王族を守る騎士の役割りの為に創設された王国騎士団。幾人かの王族の指揮下に入り漸くたどり着いた最高の主、エミリー・フラン・サジタリア。彼女は現在存在する王族の中で最も知略に優れ思いやりのある人物だった。王国騎士団は彼女と出会った事で歴代の中で最も忠誠にあふれ、実力のある組織となった。
 しかし、その結果訪れたのは最愛の主と引きはがされ無能な王族の盾としての役割りだ。誰もが怒り狂うが彼らの本来の役目はこれである。対象が最愛の主エミリー・フラン・サジタリアから元凶の一人の無能ウィスターに代わっただけである。
 それでも、無能の為に死ぬなどまっぴらごめんだった。故にミュレイを始め王国騎士団は不満を貯め込んでいたのである。

「ほんと、エミリーがこの国の王になってくれればいいのに……」

 ミュレイのボソッと呟かれた言葉に反応する者はいなかった。しかし、その言葉はこの場の誰もが思っている事でありサジタリア王国にとって一番最善の事だと思っている事だった。

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