人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

吸血姫

「二重帝国は終焉の時を迎えた」

 魔帝国帝都となったラ=サルヴァーグにあるとある館にて一人の少女が椅子に座り、目を閉じながら何かを考えていた。銀色の、シルクの如き髪を腰辺りまで無造作に伸ばし、人形の如き整った容姿をする少女、いや幼女。彼女は黒を基調としたゴシックドレスを身に纏い幼い体には不釣り合いの大きな椅子に座っている。
 その周りではむせかえるような血の匂いが充満しており耐性の無い者ならトラウマになりかねない光景があった。匂いの下である血の池に沈む人間たち。裸にされ、老若男女問わず血の池に浮かぶ彼らは皆絶望した表情で息絶えていた。ここで何が起きたのかを、悪い方向に向かせるには充分な光景だった。
 そんな悲惨な部屋の中央に座る彼女は何も気に下様子を見せずに再び口を開く。

「お父様は死んでしまったようですし吸血鬼は私が率いる必要がありますね」

 彼女はくすくすと笑いながら目を開ける。目の前に広がる血と同じ色の瞳には愉悦と歓喜の感情が入り混じっていた。

「さぁ! 始めましょう。私の、私達の時代を!」

 幼女はそう言うと椅子から立ち上がり両手を広げる。すると周囲の血が全て彼女の両手に集まっていき取り込まれていく。それを受け入れる彼女は、幼女とは思えない程艶のある声で喘ぎ顔を赤らめる。

「ああ! いいわ、凄くいいわぁ。私が”増えていく”。”私達”が強く成る。やっぱりこの瞬間はとてもいいわぁ!」

 すべての血を吸い取った彼女は手に少しだけ残っていた血をなめとると再び笑い声を上げるのだった。







【全魔帝国軍に告げる。今日より新たに幹部となる人物を発表する。第五将ヴァープ、第六将クレイナス、第十将ゴルガに代わり幹部となるのは第五将アダリーシア・フォウル・ヴァープ・・・・! 第六将イグラシア! 第十将マ=ムー! 以上である! 我らは偉大なる初代魔王の悲願を叶えねばならない! そのためにも敵を潰せ! 村を焼け! 敵を殺すのだ! 我ら魔族に栄光を!】
「「「我らに勝利を! 人類に終末を!」」」

 ラ=サルヴァーグにて開かれた式典で魔王ルグスは高らかにそう宣言するのであった。

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