人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

デネブ・アルゲディ攻防戦・急

「放てぇ!」

 イェスターの叫び声に少し遅れて雨の如き矢が降り注ぐ。その先にあるのは外で包囲する魔帝国軍ではなく中の、数万の規模に膨れ上がったアンデットの集団に対してである。肩や胴に当たった個体は何事もなく動くが頭部に当たった個体は崩れ落ち死体に戻っていく。しかし、それはあくまでゾンビやスケルトンに対してのみである。デュラハンには鎧で弾かれ、新たに発生したレイスの体を通り抜け、リッチは自慢の魔法で防いでしまっていた。
 これがただのアンデットなら苦戦はしつつも時間をかけて殲滅する事は出来る。頭部を破壊すればゾンビやスケルトンなどの”下級アンデット”と言われる者達は簡単に倒す事が出来る。レイスなどの”中級アンデット”は厄介だが弱点をつけば簡単に倒せるしデュラハンやリッチも数で押せば被害は出ても問題はなかった。しかし、ゾンビが文字通り肉壁となり武器を扱えるスケルトンたちが”隊列を組み”レイス達が上空から援護を行いデュラハンやリッチが文字通り化け物染みた力を使い叩き潰す。こんな前代未聞の連携を取って来るせいでアンデット討伐は失敗し死体すら取り込み数を爆発的に増やしていた。
 かつては世界最大の繁栄を誇ったと言われる帝都デネブ・アルゲディは今や死の都ネクロポリスと化しつつあった。中央に聳え立つ皇族の住まう城は孤立無援となりつつも衛兵が絶望的な防衛戦を行っている。一人衛兵が死ぬごとに敵が一体増えていくので数の差は開き直ぐにでも城内にアンデットが雪崩れ込むだろうことはイェスターにも察しがついていた。しかし、そこに向かう事は出来ず城壁の上から見ている事しか出来ないのが現状だった。

「こうなっては逃げるほかないが……」

 先に逃がした市民の大半は討ち取られた。護衛を務めた聖ロリエル騎士団は全滅した。残った兵と市民で逃げるなど不可能に近かった。

「それでもやるしかないのが現状か……」

 イェスターは百人でも逃げきれれば充分か、と覚悟を決めた時だった。空が光り地上を覆いつくす。

「な、なんだ!?」

 目を開けていられない程の光に目を閉じ光る方に手をやったイェスターは思わず叫ぶがこの場において状況が分かっている者などいなかった。
 十数秒それが続いたが次に感じたのは巨大な爆発音と自分が吹き飛ばされる感覚でありイェスターは城壁を落ち、アンデットで埋め尽くされた都市内部にそれなりの速さで落ちていくのだった。






 約百人の魔族の魔力全てとフリードリフの冷静な判断力と適確な射撃能力が合わさり決戦魔法は無事に発動された。空を光らせ天よりいくつもの光る剣が降り注いだ。剣は物質と衝突すると大爆発を起こし周囲の物を瓦礫や塵に変えていく。それが剣一本で起こる現象でありそれが何十、何百、何千と降り注いだデネブ・アルゲディは僅か数分で更地へと変えていく。

「周囲に展開する兵にもあたりそうですが良いのですか?」
「構わん。オーガとオークは既に危険を察知して逃げている。降り注いでから逃げたゴブリンも補充は簡単に出来る」

 雨の如き勢いで降り注ぐ決戦魔法は十分に渡り行われた。デネブ・アルゲディは更地と化し都市があったとは思えない景色となっていた。アンデットは一体残らず消え去り人間は原型をとどめない程塵となり建物は根本から消え去っていった。
 それを確認したフリードリフは指示を出す。

「ゴブリンにデネブ・アルゲディだった場所を調べさせろ。地下があればそこで生き残っている者もいるかもしれん。あれだけの攻撃を防いだ者も、いるとは思えないが一応調べる。生存者は一人として残すな」

 フリードリフの命令によって徹底的に調査が始まった。その結果、地下で生き残っていた者が数名だがおり特に城の地下部分には十数単位で生き残りがいた。その者たちは全員抵抗する間もなく殺されゴブリンの餌となっていった。
 調査を終えた魔帝国軍はその後放物線上に広がり二重帝国領の掌握を開始した。デネブ・アルゲディ以外に主要な都市がない二重帝国は抵抗も許されず魔帝国軍の占領下におかれ抵抗した村や町はゴブリンの餌や性奴隷として連れて行かれるのだった。
 二重帝国は事実上滅び飛び地となっていたアリエス王国領は独立する事となる。とは言え今の彼らはポラリス伯国以下の国力しかない。彼らは今後、ポラリス伯国や魔帝国の侵略に怯える日々を送る事となった。
 一方のポラリス伯国は魔帝国と同盟を結び最大の脅威を取り除き建国の原因となったかつての玉姫の仇を取るべくアリエス王国への侵攻を繰り返すようになった。

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