人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

デネブ・アルゲディ攻防戦・破

「な、なんだ!?」

 イェスターは敵の本陣から向かってきた突風に思わずそんな声を発した。敵の魔法か!?と身構えた彼だが体に異常はなくそれは周りの兵も一緒であった。内側の城壁から外の様子を伺っていた彼は何もない事を確認すると兵士に聞こえるように声を張り上げて言った。

「諸君!敵はどうやら我らを吹き飛ばす事も出来ない程度の力しかないようだ!このまま粘っていれば我らの勝利だ!」
「「「おおぉぉぉぉぉっ!!!」」」

 イェスターの言葉に兵士たちは雄たけびを上げるが炎の球体による攻撃や聖ロリエル騎士団壊滅は確実にデネブ・アルゲディが不利な状況にあるという事を知らしめていたが彼らは心を守るためにイェスターの言葉を無条件に信じ自国の勝利を願っていた。
 しかし、そんな彼らをあざ笑うように”それ”は起きた。デネブ・アルゲディの比較的広い噴水のある広場に突然黒い水が出現した。そしてそこから大量のゾンビが姿を現した。

「ぞ、ゾンビだぁ!」
「きゃぁぁぁっ!!??」

 ゾンビを見た市民は恐怖で逃げ出すがそんな彼らをゾンビは追いかけていく。黒い自ら出てきたのはゾンビだけではなくスケルトンなどの比較的弱い魔物だけではなくデュラハンと言った騎士でもてこずるような存在が大量に出てきていた。
 既に千は超えているアンデットの大軍を前に城壁に上らずに治安維持に努めていた兵がやって来る。

「いいか!基本的にアンデットは連携を取らない!一体ずつ確実に処理をしていくのだ!」
「「「はっ!」」」

 隊長の言葉に兵士たちは威勢よく返事をしてゾンビたちに切りかかる。首を寸断したり頭部を損傷させて処理していくが次第に劣勢になっていく。数の違いもあるが一番の原因は先ほどの隊長の言葉とは反するアンデットの動きが原因だった。ゾンビが盾のように前に出るとその後ろから弓矢を放ったり槍を突き出してくるスケルトン。それらが突破されそうになると動物型のゾンビが牽制したりデュラハンの力で吹き飛ばしたりしていく。連携の取れた攻撃は兵士たちを追い詰めるには充分だった。

「馬鹿な……!アンデットが連携するなど……!」

 隊長はデュラハンの巨大な剣で体を縦に二つに切り裂かれる直前にそう言って絶命する。帝都のほぼ中央で起きたこの出来事はデネブ・アルゲディを内側から崩していく。中と外の城壁の間の場所に逃げようと市民たちは門に殺到するがその後ろをゾンビが襲い掛かりゾンビの数を増やしていく。
 既に黒い水は消えアンデットの自然発生は終わっていたがそんな物関係ないとばかりにゾンビの数は増えていく。

「何という……!」

 城壁からその様子を見ていたイェスターは数万ものゾンビが誕生するのを見ている事しか出来なかったのだった。









亡者の津波ヴェイザー・ナルヴァヴィルですか……。随分と古い魔法を用いるのですね」
「こういった場合には効果は絶大だからな」

 部下の魔族の言葉にフリードリフは簡潔に答えた。亡者の津波ヴェイザー・ナルヴァヴィルは発動時に込められた魔力の分だけ指定された場所にゾンビなどのアンデットを召喚する魔法である。しかし、一体のアンデットを召喚するのに膨大な魔力を必要とするためクレイナスは本来なら数年で発動するはずだったが十数年もの時間を要してしまっていた。
 しかし、フリードリフは魔王に匹敵する魔力を保有しており簡単に発動する事が出来た。それだけではなく上位の存在であるデュラハンの召喚すら可能にしていた。
 悲鳴が聞こえてくるデネブ・アルゲディの方を冷めた目で見るフリードリフ。

「クレイナスが王都西部の村で発動したと聞いたが完全に場所を間違えていたな。こういう魔法こそ王都で行うべきだった」
「十数年の潜伏が無駄になったのですね」
「そうだ。全く、この術を教えてやったと言うのに無駄にしやがって……」

 フリードリフは吐き捨てるように言った。ヴァープの推薦で彼女、クレイナスは”魔国残党の性奴隷”から魔族となって幹部へと上り詰めた。あのクソ野郎を上手く誑し込んだな、と当時は思っておりその気持ちは今も変わっていなかった。それ故に彼女に魔法を教える事に忌避感があったが仕方なく教えていた。その結果がクレイナスの死亡なので教え損だとフリードリフはいら立った。

「どちらにしろデネブ・アルゲディは終わりだ。デュラハンも召喚できた以上精鋭を失ったやつらに勝てるわけがない」
「……万が一という可能性もありますが」
「だからその”万が一”を確実に消すのだろうが」

 フリードリフはそう言うと後方を振り向き魔法を使用中の魔族たちを見る。

「魔法攻撃停止せよ」
「攻撃停止!」

 フリードリフの指示に従いピタリと魔法がストップする。彼らは直立不動になりフリードリフからの新たな指示を無言で待つ。

「これより我らは敵の最後の抵抗を挫くために”決戦魔法”を発動する。その準備に取り掛かれ」
「「「はっ!!!」」」

 フリードリフの命令に彼らは威勢よく返事をするのだった。

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