人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

建国と同盟における各国の状況2

 西方諸国はその名が示す通り大陸西側にある国々の事でそこには大小さまざまな国家が存在している。千年前に一度西方諸国は魔王によって滅ぼされたが魔王死後に再び独立を宣言した。12大国を支配していた全盛期のサジタリア王国も西方諸国全てを併合する力はなく千年に渡り小さな国が出来ては滅び、大きな国が出来ては分裂を繰り返していた。
 そんな西方諸国は近年では五つの勢力を中心に大きく変貌を遂げようとしていた。

 一つ目が12大国の一角であるヴァーゴ王国

 二つ目が魔帝国とは別の魔族による国家である西方魔族連合

 三つ目がその西方魔族連合よりさらに西、極西と呼ばれる位置にあるダタル帝国

 四つ目が西方諸国南部にあるハン帝国

 五つ目がハン帝国よりさらに南にあるロマ共和国

 この五つの大国により中小国家ばかりだった西方諸国は急速に数を減らしていた。
 ヴァーゴ王国とハン帝国は衛星国家や傀儡国を作り少しづつ勢力圏を作り上げ、西方魔族連合やダタル帝国は互いに争いながらも武力によって領土拡大を行っていた。ロマ共和国だけは周辺諸国と同盟や友好関係を築き共和を図っていた。
 そんな変動の時を迎える西方諸国にも魔帝国と神聖ゼルビア帝国の件は届いていたが中小国家は大して気に留めていなかった。彼らに取って大事なのは遠い地にある強大な敵ではなく近くにいる同程度の国力の中小国家である。故に五大国以外で今回の件を考えている国は存在しないと言ってよかった。
 とは言え距離的に遠いダタル帝国やハン帝国、ロマ共和国と言った国々は魔王の勢力が強大になったというだけの認識であり12大国の動向を注視するだけという結論に至った。
 しかし、この五つの国の中で最も近い位置にあるヴァーゴ王国では頭を悩ませる結果となった。何せ、少し前に西方魔族連合と戦い三万もの兵を失った上に勇者フルーラ・ヒソナタは顔に深い傷を負ってしまっていた。今では痛みが引いたがかつての美貌は酸によって溶けてなくなってしまった。その事で心に深い傷を受けたフルーラは部屋に閉じこもっていた。
 ヴァーゴ王国の王国政府は西方魔族連合が攻めてくる可能性を考えて西方諸国に存在する衛星国家に兵を多数配置していた。その状況でこれである。直ぐに何かが起こるわけではないとはいえサジタリア王国、ジェミナイ連邦を超えれば自国である以上油断も出来ない。ヴァーゴ王国は急遽ジェミナイ連邦との国境に要塞を建設する事になるのだった。






「では諸君、これより定例会議を行う」

 西方魔族連合帝都デモングラードの連合行政府の一室にて幹部を集めた定例会議が開始されていた。議題に上がる内容は様々であり今回は魔帝国と神聖ゼルビア帝国の件に関してだった。
 司会とを務め、最終決定権を持つ連合皇帝ヴァン4世が幹部を見渡す。そんな彼の横には皇后であるナタリヤ・ヴロフヴィッツが優雅に座りお茶を飲んでいる。この場において最も最年長・・・であり影響力・・・を持つ彼女だが定例会議では毎回興味なさげに参加しているのみだった。故に定例会議にただ参加しているだけの彼女に話しかける人物はいなかった。

「議題は魔帝国に関してだ。知っての通り奴らは我らと同じ魔族、という事になっている・・・・・・・・・・。我らの本質は全く違うが一応共闘関係を築いてきた」

 だが、と皇帝は続ける。

「今回の件は看過できない。魔帝国、魔国の後継国家を名乗る以上我らが国家を認める事はないだろう」
「とは言え距離があるから直ぐには攻めて来ないのでは?」

 皇帝の言葉に意見を言ったのは幹部の一人であるラグーチンである。様々な魔法を使えることや人に取り入るのが上手く政界入りして僅か数年で幹部の一人にまでのし上がってきていた。能力主義の西方魔族連合でもここまで早く出世する人物はいなかったほどだ。
 そんな彼だが幹部としてやっていくには充分な実力を持っている為他の者達はあっという間に出世した事への嫉妬はあれど不満は特になかった。

「直ぐに攻めて来ないというのは同意ですが私としては対応する事はたくさんあると思いますよ」

 そんなラグーチンに答えたのはニコライと言う人物である。彼はノームと呼ばれる精霊族の族長であり西方魔族連合においてドーマと呼ばれる議会のトップに君臨していた。

「例えば工作員による妨害工作。種族間の対立を煽ったり暗殺や施設への攻撃など我が国の国力を削ぐ方法は存在します」
「それについては私から報告があります」

 ニコライのたとえ話に続き話すのは西方魔族連合の諜報機関”魔族委員会”を指揮するリビヤである。好青年の様な顔立ちをしたその男は紙の束を持って立ち上がった。

「まず魔帝国の工作員と思われる者をこれまでに20名、捕縛しています。捕縛できずに殺害した数はその倍以上の52名。逃がしてしまった者も30名以上います。これらは今年に入ってからの数字であり特にこれらの半数は魔帝国建国前後に起こった出来事です」
「何か情報は得られたか?」
「残念ながら今のところは。拘束した20名中8名は死亡、4名は尋問薬の過剰投与により廃人になったため処分しました。残った8名に関してはこれから尋問する予定です」
「魔帝国の工作員をいくら尋問したところで大した情報は持っていないだろう。最終的に殺すような方向で尋問を行え」
「かしこまりました」

 リビヤは自分の報告を終えると席に戻る。
 その後も様々な報告が上がっていき会議は滞りなく進んでいった。そして、最後にヴァン4世が立ち上がって言う。

「魔帝国の介入はこれで明らかとなった。12大国を滅ぼした時はその力が我らに向けられるだろう。その時、我らは返り討ちにするだけの力を持っていなければいけない。各々、西方魔族連合の国力増大の為に心血を注げ!」
「「「はっ!」」」

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