人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

吸血鬼軍団との死線・肆

「ご、ぉほ……!?」

 喉をやられ血が吹きだすヴァープが何が起きたのか分からないような顔で必死に喉を抑える。俺を支えていた腕はなくなりその場に倒れ込む。自分とヴァープの血だまりに沈むように倒れた俺は目だけを動かしてヴァープの様子を伺う。

「ゴホ、ゴホ……!ヒュー!」

 ヴァープは俺を睨みつけてくるが既に喋れなくなったようで喉から空気が漏れている。やがて血の勢いが収まると出血しすぎたのかヴァープは白目をむいて倒れ込んできた。クレイナスに続き魔王軍の幹部を討ち取ったのである。その代償は瀕死の重傷という決して倒すのに見合った状況とは言えないがな。
 俺は最後の力を振り絞り近くの壁に体を預ける。止血しないといけないがそれを行うだけの力はもう残っていない。先程よりも遠くから司会の声が聞こえてくる。ナタリーが時計塔から降りてきている様だ。もし、彼女が俺を見たらどんな反応をするのだろうか?いつもの無表情を崩して泣いてくれるだろうか?それとも淡々と、冷静に対応するのだろうか?泣き顔は見たくないなと思いつつも見てみたいという矛盾の気持ちを感じながらいつの間にか本気で好きになっていたんだなと思う。
 最初の出会いは凄まじかったな。まさか殺し合いから始まったんだからな。その後は魔王軍との戦闘で共闘したりアレフの街で襲われたり……。気づけば隣にいる存在になっていた。

【……はっ!み、皆さま!今年の天使の降臨は例年には素晴らしい結果となりました!では今年の天使の降臨、メインイベントはこれにて終了となります!改めて、優勝者と惜しくも優勝を逃してしまった他の参加者に盛大な拍手を!】

 そんな司会の言葉が聞こる。どうやらイベントは終了したようだ。結局、ナタリーの姿を見る事は出来なかったな……。来年、またナタリーと来ようかな。そうすれば今度こそ、彼女の、姿を……見れるだろう。から……。

「……ああ、ナタリーか。ごめんな。お前の雄姿を、見る事は……できな、か……た……」
「和人!」











「総員!傾注!」

 勇ましい女性の声が響き渡る。その声にその場の誰もが直立不動のまま声を傾ける。一糸乱れる事のないその動きは洗練されているだけではなく女性の指示に慣れている様子だった。

「これより我らはレオル帝国に侵攻する!我ら竜騎士団の攻撃後に魔物による襲撃が開始されるがあくまで主力は我らである!我らの働きで全てが決定する!
我らは魔王軍・・・最強の戦力である!我らの力をレオル帝国に見せつけよ!我ら魔王軍に栄光を!」
「「「「「我らに勝利を!人類に終末を!」」」」」

 数分後、エイザ=ルート率いる魔王軍最強の龍騎士団が侵攻を開始した。魔王軍が世に出て以来初の竜騎士団の出撃であった。

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