人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

吸血鬼軍団との死線・弐

 左右から向かってきた吸血鬼の攻撃をしゃがむ事で避ける。同士討ちを避けるためか剣と剣がぶつかり合い甲高い音を立てる。これなら剣にのみ負担がかかるから同士討ちは避けられるのだろう。こちらにしてみれば嬉しくない状況だが。
 とりあえず右側の吸血鬼にフルパワーのパンチを繰り出す。俺の拳は見事吸血鬼の腹にめり込み内臓や骨を破壊する感触が伝わって来る。しかし、普通の人間なら確実に貫通していた俺の攻撃は腹にめり込むところで止っていた。吸血鬼が人間よりも堅い存在と言う事が判明したがさすがに完全に防ぐことは出来ないようだ。

「ぐぁ、ぁ……」
「まずは一人!」

 体の内部を破壊され、その場にうずくまる吸血鬼の頭を思いっ切り踏み抜く。堅い物を砕く感触を感じた後に柔らかい物を潰す。頭部を完全に破壊した俺はその場を離れる。そこを先ほどとは別の吸血鬼が槍を持って襲い掛かってきていた。

「ぐっ!」

 そうして攻撃を加えようとした時、俺の背中を炎が襲った。柔らかいボールが高速でぶつかる感覚の後に背中に焼ける痛みが走る。魔法によるロングレンジ攻撃でさらに続けて氷の槍と雷が向かってくる。これを動き回る事で避けていくが背中に受けた攻撃のせいで痛みが走る。我慢できない事はないが何発も喰らう事は出来ないし長時間の戦闘も無理だ。
 ステージの方からはイベントが始まっている様で歓声が聞こえてくる。そのせいかこちらの異変には誰も気づいていないようだ。……もしくは吸血鬼にありがちな洗脳を受けてこちらの異変に気付かないようにされているのかもしれない。どちらにしろ現状は俺一人で対応するしかないという事か。

「ヴァープ!よく狙え!避けられてるじゃねぇか!」
「そう思うのなら無策で突撃させるのを止めさせろ!味方に魔法が当たるぞ」
「そうならないようにアイツに当てろ!」
「無茶を言うな!」

 俺に対して攻撃を繰り出しながらマインラートが吼える。内容は仲間同士でいがみ合う形となっているがそれで同士討ちに発展してくれないかなとは少し希望を持ち過ぎか。現状だと相手は脱落者は一名のみ。だが俺によって成すすべなくやられている事を考えれば同士討ちに走る可能性は皆無だろう。それに、そんな事をするような奴をこの場に連れてくるはずがないからな。
 そんな事を思っているとマインラートともう一人が向かってくる。同じ方向からの攻撃だがその上空を炎の球体が三つ飛んでくる。更に左右から雷の魔法が飛んでくる。魔法に気を取られて避けるのに夢中になっている好きにマインラート達が仕留める気なのだろう。
 とは言え俺もそれをまともに受けるつもりはない。俺は近づいてくるマインラート達に接近する。

「なっ!?」
「ふっ!」

 驚くマインラートの前に立つとタックルを繰り出す。体制を崩したマインラートを放置してもう一人の方に近寄る。

「く、来るんじゃねぇ!」
「それは無理だ」

 恐怖の為か無茶苦茶に剣を振り回す吸血鬼にぬるりと近づく。その頃には同胞を助けるためか攻撃魔法がこちらに向かって飛んできていた。俺は吸血鬼の胸に拳を叩きつけ動けなくすると吸血鬼を持って盾代わりにした。

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!????」
「ライマー!」

 仲間の攻撃を背中に受けた吸血鬼は絶叫を上げて絶命した。背中を見れば皮が焼け消えており背骨が露出していた。その骨もボロボロで例え生き延びていたとしても一生歩く事は出来なかっただろう。
 二人目を排除した俺は改めて周囲を見る。残りは18人。前衛を二人倒したがまだまだ劣勢には変わりないな。

「……仕方ない。前衛は我らの援護を!範囲魔法で叩き潰すぞ!」

 そしてヴァープの指示が飛ぶがそれは俺にとっては非常に良くない指示だ。今までは向かってくる相手を返り討ちにしていたが今度はそうではない。くそっ、こんな事になるのなら銃を持ってくればよかった。刀が強くなったからと言ってそれに頼りきりになってしまった。
 俺がそんな後悔を覚えていると一斉に魔法が放たれた。すべてが俺への直撃コースではなく避けられる事を想定してその周りにも着弾するものばかりだ。これでは被弾する可能性があるがそこは無問題だ。俺は最初に来た俺を狙った魔法を避けると一番最初に到達する魔法に触れないように避ける。その後は茶kづ庵下場所に行き残りの魔法を回避する。これだけで回避が出来る。

 しかし、俺がそれを実行した時だった。俺の左の脇腹に重い衝撃が走り次いで、激痛が走った。あまりの痛みに俺はその場に留まる事が出来ずに少し吹き飛び仰向けで地面に倒れ込んだ。痛みのある部分に触れれば岩のようなものが脇腹にめり込んでいるのが分かる。どうやら、敵の中に岩を用いた魔法を使える奴がいたようだ。雷と炎、氷しか見ていなかったからつい油断した形となってしまった。

「未だ!前衛は俺と共に来い!止めを刺す!」

 俺が倒れ込んだのを見て好機と捉えたのだろう。マインラートが先頭に立ち向かってくる。
 確かに脇腹に喰らった上に痛みがまだある背中から叩きつけられたのだ。背中にも痛みが走ったがこんな事で負けるほど柔な体ではない。俺は鞘を杖代わりにして立ち上がる。鞘を用いた戦闘はあまり得意ではないが現状素手よりはマシだろうな。
 そう思いながら俺は向かってきた氷の塊を鞘で破壊する。そのまま鉤爪が付いた腕をこちらに向けて来たマインラートの顔面にたたきつける。鞘の半分ほどがめり込み目を見開いた状態で仰向けに倒れていく。そんな彼を踏み台に前進して彼の後ろをついてきていた吸血鬼の首に鞘を振るう。ゴッ!と言う鈍い音と何かが折れる音が響き地面に倒れ込む。

「馬鹿な……!」
「こいつは化け物か!?」

 立て続けに二人を無力化した俺に周囲の吸血鬼の間で動揺が広がる。俺は痛みでどうにかなりそうな体を動かしながら笑みを浮かべて言った。

「次は……、誰だ?」


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