人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

世界を混沌に導くモノ・魔王

 サジタリア王国の北部には魔王軍が支配する地域が広がっている。この地域は元々とある国が納める場所だったが魔王によって滅ぼされて以降は魔物が蔓延る危険地帯となっていた。その中心地にある大都市ラ=サルヴァーグが魔王軍の中心地となっている。そこに住んでいた人間は全て魔王軍に捕らえられるか殺されるか、勢力圏外に逃げるかしていた。捕まった人間は魔王軍の魔物たちの食料となり生きながらえているが明日への希望もなくただただ絶望に染まっていた。
 そんなラ=サルヴァーグを治めていた領主の館は改築され魔王の居城、魔王城と呼ぶにふさわしい、禍々しくも巨大な城へと変貌していた。

「では、ゴルガに続きクレイナスまで討ち取られたのか……」

 魔王城の中にある大広間には11の異形の存在がいた。楕円形のテーブルを囲み座る彼らは魔王軍の最高権力者であり実力者である魔王と10人の将軍たちである。豪華絢爛という言葉が似あう椅子に座り左右に座る将軍たちを一瞥する魔王はそう言うと深くため息をつく。

「クレイナスが行っていた亡者の津波、ヴェイザー・ナルヴァヴィルは失敗に終わった。召喚されたゾンビはクレイナスの死により消滅。そのゾンビらに噛まれゾンビとなった者も元々の少なさから三日で夜明け前には駆除された。……サジタリア王国への侵攻はゴルガの件と合わせて大失敗だ」

 魔王は平坦な口調で言うがその声には怒気が含まれていた。加えて魔王の表情は険しく、いつも全てを見下し馬鹿にするような笑みを浮かべている事から相当怒っているのが将軍たちには伝わってきた。

「……ヴァープ」
「は、はっ!」
「クレイナスを魔王軍幹部に推薦したのは貴様だったな?」
「そ、その通りでございます」

 ヴァープと呼ばれた吸血鬼の男はおびえた様子で魔王に頭を下げる。汗をかき、体を震わせながら魔王の次の言葉を待つヴァープの姿は何かをやらかして叱られる子供のようであったが現実はそれ以上に酷かった。

「性処理用の人形だったアイツを気に入り幹部にさせた貴様には責任を取ってもらう。クレイナスとゴルガを殺した奴らを殺せ。数は二人、片方は男で勇者並みに強いが魔法は使えない。片方はナタリー・ダークネス。レオル帝国の勇者だ」
「……必ず、必ずや抹殺して見せます」
「失敗は許さん。奴らはジェミナイ連邦の方へ向かっている。最悪ヴァーゴ王国を超えられると手出しが難しくなる。それまでに必ず仕留めろ」
「はっ!」

 ヴァープは滝のような汗を流しながら必死に頭を下げた。そんなヴァープに興味を失ったように次の内容を話し始める。

「ギ・ハ。クレイナスが拠点としていた孤児院の人間を全て殺せ。何時も通りだ」
『りょうかーい』

 ギ・ハと呼ばれた水のような流動体の体を持つ魔物は軽い口調で答える。将軍の中で唯一魔王に対し軽口で接する事が出来る魔物は指令を受けるとその体を崩し床の隙間から消えていった。
 一人かけたが魔王は続ける。

「ナタリー・ダークネスがレオル帝国を離れた今こそ攻め時と言える。加えて敵は2万近い兵を失っている。エイザ、我が直下の竜騎士団を引き連れて侵攻せよ。サジタリア王国はスコルピオン帝国に無謀に挑み戦力を失った上に勇者はリブラ帝国に向かい直ぐには戻ってこれない。スコルピオン帝国もピスケス共和国へ侵攻中であり我らの動きに迅速に対応は難しいだろう」
「了解した。直ぐにでも出発しよう」

 第一将のエイザ=ルートは凛とした表情で頷いた。魔王はそれを確認するよ改めて将軍たちを見てから言った。

「我ら魔王軍は1000年前の偉大なる初代魔王の志を引継ぎし者達である。初代魔王が願った『人間世界の消滅』を叶えるぞ!我ら魔王軍に勝利を!」
「「「「「我らに勝利を!人類に終末を!」」」」」

 彼らの言葉は城の外にまで届きそこに住まう魔物たちも雄たけびを上げて共鳴するのだった。

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