人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

王都出発

 王女が俺に会いに来た日の翌日、俺は荷物を止めて宿を出る準備をしていた。今日から王都の門が開放されるのだ。予定より数日遅れての出発となってしまったがそれに見合う収穫があったので良しとしている。
 王女が言った言葉の意味については、ある程度の推測を立てたが真相は次に会った時で良いかと思っている。正直に言えば王女が転生者かどうかなんて今の俺には関係ないからな。そんなわけで王都を出るべく荷物を背負い女将さんのもとへ向かう。

「女将さん、今までありがとうございました」
「おや、もう行くのかい?」
「はい、別に急ぎの旅ではないんですが王都の混乱もおさまっていないしまた何時門が閉じるか分からないので」

 王都はスコルピオン帝国から戻ってきた兵も動員して混乱の終息を行っているらしいが上手く行っていなかった。その為今門が開いているからと言ってずっとこのままと言う訳ではないだろうとナタリーと話し合ったのだ。結果、俺達は早朝と言う日も昇りきっていない時間帯に出発する事となったのだ。

「女将さんにはいろいろとお世話になりました」
「別に構わないよ。次王都に立ち寄った時はまたここに来な。空いていれば多少色を付けておくよ」
「それは嬉しいです。もし王都にまた来るときは立ち寄らせてもらいます」

 こうして宿を出た俺とナタリーは王都の西門に向けて歩き出す。目指すはサジタリア王国西端の都市ケラースだ。そこからジェミナイ連邦を通りヴァーゴ王国に向かう。サジタリア王国ではあまり聞けなかったがヴァーゴ王国も含む地域は西方諸国と呼ばれており奴隷制や冒険者制度と言った独自の制度が存在しているらしい。サジタリア王国を建国した人が奴隷だったらしくこの周辺では奴隷は一切存在していなかった。……表向きは。
 いきなり奴隷にされる事はないだろうけど気を付けないといけないことに変わりはない。魔王と言う存在が近くにいるサジタリア王国の周辺よりも西方諸国は危険がたくさんあるらしいからな。
 とはいえ俺の目的は世界を旅して様々な経験を得る事だ。その為に危険なところに向かう事だってあるだろう。それを毎回避けていては経験も偏ってしまう。そんなのは俺は嫌だった。

「さて、今日から数日はまた野宿生活だ。ナタリー、耐えられるか?」
「……愚問」

 頼れる相棒であるナタリーの言葉を聞き俺はケラースへの道を進み始めるのだった。

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