人体強化人間の異世界旅路

鈴木颯手

探索

「スコルピオン帝国に攻め込むらしいが活気は結構あるな」
「ハムハム」

 アレフの街並みを見ながら俺はそう呟く。俺の隣では露店で売っていた具材を挟んだパンを頬ばるナタリーがいる。服を着て宿を出た俺たちは言っていた通りアレフを探索していた。アレフの大通りは人であふれており少し離れればはぐれてしまいそうだ。まぁ、ナタリーがパンを食べながら片手で俺の服を掴んでいるからはぐれる事は無さそうだけどね。

「次は何処に行こうかな」
「モグモグ」

 大通りを端から端まで見た俺は噴水のある中央広場にて次の行先を考えていた。隣では相も変わらずパンを頬張っているナタリーがいる。というか三つ買ったパンがもうなくなったぞ。一つは俺用だったんだけどな……。
 そう持っていると門の方が騒がしくなる。方角からして……、王都に向かうための門か?このアレフには門が三つある。王都に向かうための門とベアード砦、レオル帝国との国境がある方面に続く門。そしてスコルピオン帝国との国境がある方面に続く門の三つだ。アレフを離れた後は王都であるアポロンに行こうと思っていた。これから攻め入るスコルピオン帝国の方に行くなんて御免だからな。

「王都方面の門という事は、軍勢か?」
「多分」

 俺の疑問にパンを食べ終えたナタリーが答える。やがて広場を突っ切るように鎧で身を包んだ騎士たちが通る。
 ……歩兵5000、騎兵2000か。まさかこれだけで攻める訳ではないだろうが少なくないか?レオル帝国も一万で攻めてきたし魔王軍に至っては三万だ。それらと比べると少し見劣りするな。歩兵は少し疲労しているのか揺ら就いている者の姿も確認できる。一方で騎兵の練度は高そうだ。具体的には分からないがベアード砦の騎士たちよりも強いんじゃないか?いかにも精鋭と言った感じだな。
 ふと、騎兵の中心にいる一人の少女に目が行く。明らかに十代後半、最悪前半くらいの子が混じっている。誰だあれは?

「……ミュレイ」
「……あの少女の名前か?」
「そう。サジタリア王国中央騎士団長の娘」
「へぇ」

 俺は納得とばかりに頷く。中央騎士団というのがどういう感じだか分からないが名前からして王都などにいる騎士団だろう。となると練度は弱い若しくは強いのどちらかだろう。貴族などのボンボンの箔付けの為にあるのなら弱いだろうがそうじゃないなら強いだろう。権力者は精鋭を手元において起きやすいからな。だがあの騎兵を見る限り確実に後者だろうな。となるとあれはサジタリア王国の精鋭か。それを出すという事は本気でスコルピオン帝国に攻め込む気なのか……。
 ベアード砦を見捨ててスコルピオン帝国に攻め込もうとしているサジタリア王国に俺は複雑な気持ちになるのだった。

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