青春クロスロード

Ryosuke

騒動の裏側で② ~凜と忍の宣戦布告~

 9月10日水曜日。二郎達が勇次と対峙した2日前。2学期が始まってから心ここにあらずの成田忍は放課後一人である人物を探して校内をさまよっていた。その探し人はもちろん黒パンツ事件で醜態を見られ気まずい関係になっていた二郎だった。
 
 事件発生当時、忍は勝手に家に上がり込んで来た二郎に怒りを覚えていたが、事情を母や姉に聞き、親友である歩から事実確認がとれると二郎は何も悪くないということを知り、また二郎なりに自分を心配してわざわざお見舞いの品まで持ってきてくれた優しさを嬉しく思う傍ら、そんな二郎に酷い仕打ちをしてしまった事への後ろめたさを感じて、それがさらに気まずさを深めて普段の様に二郎に接しづらくなってしまっていた。

 そんなモヤモヤとした気持ちを数日もの間抱えていた忍は、今回ばかりは自分から謝らなければいけないと思い至り、二郎と二人で話せる機会を求めて放課後に二郎を探していた。しかしながら30分程掛けて校内を一周してもなかなか二郎を見つけられずにいた忍は泣きそうな声で弱々しく無意識につぶやいた。

「どこにいるのよ・・・・二郎・・・ばか・・・」



 それからしばらく二郎を探して別館から本館につながる渡り廊下2階を歩いていると三階につながる階段から一人の女子生徒が降りてくる事に忍が気付き足を止めた。

「あんたは、あの時の浴衣女・・・二階堂凜!」

「うん、何よ、あなた。あぁもしかして女子バスケ部の成田さんだったかしら。花火大会の時はお邪魔させてもらったわね。それよりもこれでも私はあなたの先輩なのよ。フルネーム呼びはどうなのかしら」

「それは、・・・すいません、二階堂先輩。それよりこんなところで何をやっているんですか」

 忍は思わず危険視する凜を敬称をつけずに呼んでしまいマズいと思うも、イヤな予感がしてすぐに相手の動向を疑うような目で問い詰めた。

「何って、あなたには関係ないでしょ。・・・・ふん、まぁ別に教えても良いけど。二郎君を探しているのよ。あの子ったら、新学期が始まって一週間以上経つのに全然生徒会に顔を出さないし、それどころか私に会いにも来ないから、こっちから会いに行ってやろうかと思ってね。まぁ成田さんには全く関係ないことだけれどもね」

 凜は忍が二郎に対して普通の友人以上の感情を持っていることを察しつつも、素直になれずに二郎に対してツンケンしている忍をおちょくるように堂々と二郎に好意を示すような言葉を言ってのけた。

(この子は確か二郎君と同じクラスで仲の良い子だったわよね。結城さんほどではないにせよ、二郎君にまとわりつく女は牽制しておかないとね。それにまだ自分の気持ちに正直になれていない感じだし、少しからかってあげようかしら)

 そんな言葉に反射的に二郎を魔の手から守ろうと忍は凜の挑発の様な言葉にムっとした表情でこれまで二郎が部活をさぼる原因を作ってきたであろう張本人である凜にこれまで溜め込んでいた不満をぶちまけた。

「二郎は今噂の犯人捜しで忙しいんです!だからあなたに構っている暇はないので邪魔しないでください。それにそもそも二郎はバスケ部の人間で生徒会の仕事を手伝う必要はないのですから、面倒な事を押しつけるような事は今後はやめてください。二郎が部活をさぼるようになったのはもしかしてあなたの責任なんじゃないですか。二郎の面倒はあたしが見ているのですから、二階堂先輩はこれ以上二郎を誑かすことはやめてください!」

(この女はダメだわ。二郎を惑わす悪女だわきっと。結城さんの存在は気になるけど、それよりも目の前のこの女の暴挙から二郎を守らなきゃいけないわ。ここはあたしがガツンと言ってやる)
 
 忍の突然の攻撃的な言葉に決戦のコングを聞いた凜は、その挑戦受けて立つと忍の目を真っ直ぐに見て言い返した。

「あらあら、これはいきなり酷い物言いね。いつ私が二郎君を誑かしたって言うのよ。あの子が自分の意志で私に会いに来ているだけなのよ。まぁ確かに稀に校内をふらついているところを私が声を掛けて保護してあげることもあるけど、それはあくまで親切心からのことで部活をサボらせようなんて私が思う前に彼はサボる気満々でしょ。それに二郎君が部活をサボるのは誰かが今みたいにいつもカリカリしているから行きたくないんじゃないのかしらね、まぁあくまで私の私見だけどね」

「その親切心とやらがダメなんですよ。二郎はもともと遅刻はしても何もなければサボらず大人しく部活に来る奴なんです。だからあなたが何もしなければちゃんと部活に参加するんですから、変に声を掛けたりしないでください。同じ部活の人間からすると良い迷惑なんですよ。それに二郎が新学期始まってから生徒会に行かないのは、先輩のことを面倒だと思っているからじゃないですか、ねぇ」

「それはどういうことかしらね、成田さん」

「言葉通りの意味ですかが、何か」

忍と凜は対抗するようにお互いが原因で二郎から避けられているのではと言い張り、バチバチとメンチを切っているところに、脳天気な明るい声が二人の間に割って入ってきた。

「あれ~?もしかして忍ちゃんデスカ?それに副会長サン?二人はこんなところで何しているのデスカ?」

「レベッカ、あなたこそこんな時間にどうしたのよ」

「私はこれから部室に行くところデスヨ!忍ちゃんは何してマスカ?」

 レベッカと忍は1年の頃に同じクラスであり、二人とも二郎と仲の良い数少ない女子生徒だったこともあり、学年内の中では距離の近い友人関係にあった。

「あたしは二郎を探しているところで、二階堂先輩に会って少し話していた所よ」

 レベッカが凜にも目配せをすると、凜も忍の言葉に便乗するように「そうね」と返事した。

「そうだったんデスカ。私今さっきまでジローとお話してマシタヨ」

「それ本当?!二郎はどこに居るの、教えてレベッカ」

「いきなりどうしたデスカ、忍ちゃん。ジローなら話が終わったら、どこかへ行ってしまいマシタヨ」

 前のめりにくる忍に残念と言った表情で答えたレベッカを追うようにもう一人の人物が2年の教室のある本館2階フロアからやって来た。

「ちょっとレッベカ、置いていかないでよ。あれどうしたの。・・・・・あなたは・・」

レベッカ、忍、凜の3人の前に現れたのはいつも通りのマスクにメガネ、そして前髪を前に下ろした地味スタイルの四葉だった。

「四葉ちゃん遅いデスヨ。部室に行っておせんべいでも食べましょう」

 そのレベッカの言葉に凜が素早く反応した。

「四葉ですって。レベッカさん、もしかして彼女が結城さんなの」

「オー、ソーデスヨ。この子が結城四葉ちゃんデース。この前はちゃんと「よろしく」って伝えておきましたヨ」

 笑顔で答えるレベッカに今度は忍が声を上げた。

「嘘でしょ、あなたがこの前祭りの日に会った結城さんなの?」

「は、はい。・・・私が結城四葉ですが、もしかしてあの時二郎君と一緒にいた成田さんですか。それとあなたは・・・二階堂先輩でしたよね。私に何か用・・ですか」

 四葉は予想だにしなかった二人からの突然の問いかけに恐る恐る答えた。

「冗談でしょ、あなたが私から二郎君を奪っていった屋台の女だっていうの。うーん・・・・信じられないわ」

「まさかとは思ったけど三佳が言っていたとおり、本当に普段とは全く違う格好しているのね、あなた。普段の姿に三佳が気付かないわけだわ」

凜と忍が思い思いの感想を述べていると、レベッカは不思議そうに四葉に話し掛けた。

「四葉ちゃん、二人と何かあったデスカ?」

「私は特に何もない、はずだけれど・・・」

 そんな四葉の言葉にメラメラと嫉妬心と対抗心を燃え上がらせる2人の女が噛みついた。

「あらあら言ってくれるじゃない。あたしらなんて眼中にないってことかしら。二郎君と仲良く花火を見た子が言ってくれるじゃない」

「二郎の奴、一体いつどこであなたと仲良くなったって言うのよ。あの女ったらしめ。こんな地味ッ子から年増の先輩にまで手を出すなんて全くとんでもないわね」

「えっ、いや、私は別に二郎君とはただの友人でお二人が思うような関係ではないですから、そんな怖い目で見ないでください」

 値踏みするような目つきで睨んでくる二人に四葉は後ずさりしながら何とか言葉を返した。

「あなたそれじゃ花火も一緒に見る事が出来なかった私らは二郎君に取っては友達どころか、ただの用済みの女だと言いたいのかしら。全く良いわねぇ、仲良くラムネとカレーパンを食べながら見た花火はさぞかしキレイだったでしょうね」

「ど、ど、どうして、そんなことまで知っているんですか」

「私は何でも知っているのよ。結城さん」

「ひぃ・・・・」
 
 凜の四葉を呪い殺すような問い詰めに半泣き状態になる四葉を見て、ドン引きする忍が流石にこれ以上は体裁が悪いと凜に待ったを掛けた。

「恐っ、これだから二郎が逃げ出すわけだわ。先輩、まるでヘビに睨まれたカエルみたいに結城さんがなっていますけど、生徒会の人間が後輩を苛めるのはマズいんじゃないですか」

「おっと、これはごめんなさいね。二郎君に言い寄る女がどんなもんか気になってついつい熱くなってしまったわ。でも、女の私が言うのもなんだけど、格好や化粧で随分雰囲気が変わるのね。あなたがあの時の女とは到底思えない地味っ子だったから、思わず凝視してしまったわ」

「そうですよ。私なんてただの地味っ子で全く目立たず静かに過ごす村人その1みたいな生徒ですから、校内のスーパースターの二人が気にするような人間じゃないのでお構えなく、ハハハ」

 どうにか二人の追撃を躱したい一心で乾いた笑いを浮かべた四葉に凜が一息ついて言った。

「ふぅ、まぁ今日のところはこれで見逃してあげるわ。でも、これ以上二郎君に近づくっていうなら手加減しないわよ。それじゃ、結城さんまた」

 捨て台詞とともに去って行った凜に冷や汗をかきながらも一先ず危機を乗り切った四葉は自分を庇ってくれた忍に感謝を述べた。

「あの、成田さん。さっきはありがとう。助かったよ」

「別にあなたを助けたわけじゃないよ。ただ流石にいきなり二人であなたを追い詰めるのはカッコ悪いと思っただけ。それにあなたに恨みはないけど、二郎は大事なバスケ部員だから、あまり色恋沙汰とかで周囲に迷惑を掛けないように見張っているだけよ。だからあなたも二郎に思わせぶりな態度を取らないように気をつけて。健全に友人として付き合う分には別に文句はないからそれだけよ。それじゃ急にごめんなさい」

 全くもって理解できない理屈で二郎に色目を使うなと四葉に釘をさした忍は四葉とレベッカの前から去って行った。

「何だったんデスカ?二人ともめちゃ怖いですネ。四葉ちゃん何かしたんデスカ」

「イヤ私は別になにも・・・ただ二郎君と偶然お祭りの日に会って、一緒に花火を見ただけなのだけど・・」

「オォ、四葉ちゃん、ジローとデートしたですカ。それはグッドデスネ」

「別にデートなんかじゃないよ、ただ偶然会っただけだよ」

「詳しいことは部室でゆっくり聞きますから、早く行きまショウ♪」

 レベッカはニヤニヤとしながら、四葉の手を引いて写真部の部室がある別館2階の地学準備室へ向かうのであった。

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