青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㊵ ~ゲスの極みと地味の極み~

 二郎の推理を聞いた瞬と亜美菜は二郎達から視線を逸らし何も反論も出来ずにいた。それは二郎の考えが的を射ていたことを証明していた。そして、エリカやすみれ達もそれを敏感に感じ取り、遂に二転三転としたこの噂を流した犯人捜しの推理劇の終幕を迎えたと思った。しかし、その空気に水を差すかのような聞き苦しい笑い声が教室を包んだ。

「ぎゃはっはっはっはっはっは、ひひひひひひひ、ふー、あぁ、たいしたもんだぜ。さすがは名探偵だな。まさかここまで追い詰められるとは思いもしなかったよ。素直に君を褒めたいよ。おめでとう、君の考えたとおり俺はあの日祭りの現場に居て、君たちを見ていたよ。それから、噂をそこに居る二人と協力して広めたよ。君の推理は概ね正しいよ」

 品のない笑いの後、乾いた拍手をしながら淡々と二郎を賞賛したのは勇次だった。

「それはお前が五十嵐と共に鈴木に協力して今回の騒動を引き起こした犯人の一員だって認めたって事で良いんだな、佐々木」

 二郎は冷静を保ちながら勇次に言質を取るように自白を確認した。

「山田君、僕はこう言ったんだよ。『君の推理は概ね正しい』って。僕ら3人で噂を流したのは君の言うとおりだけど、この計画を考えたのはこの女なんかじゃなくて僕だ。そこを勘違いして欲しくないな。こんな複雑な計画を彼女が思いつけるわけがないじゃないか。彼女は僕の言ったとおりに動いたに過ぎない。もちろん、五十嵐君にも協力してもらうように説得したのは僕だし、このゲームの支配者はこの僕だよ」

 その勇次の言葉を聞いたすみれが二郎の反応よりも先に言葉を投げかけた。

「どうしてなの、どうして佐々木君はこんなことしたのよ。何か仕方なくこの女に協力をしただけじゃなかったの」

 すみれは今日までこの騒ぎには無関係だと思っていた勇次の言葉に驚きよりもショックを受けている様子だった。それはすみれにとっては一年生の頃からクラスメイトとして、また同じ部活の友人として信頼をしていた勇次が自分や自分の友人を傷つけるような事をして平然としていたからに他ならなかった。

「橋本さん、それはね。僕が君を愛しているからだよ。気付いていたかな、僕は一年生の時からずっと君のことを想っていたし、今でも誰よりも君を愛しているんだよ。だけど君は僕の事を男として全く見てくれない。だから、君が傷ついて、追い込まれて誰も信頼できなくった時に、僕が近くで君を守って、支えて、それで僕の存在がいかに大切なのかを教えてあげようと思ったんだよ。どうかな僕が用意した悲劇のヒロインのための舞台を少しは楽しめたかな」

 勇次はまるで言うことを聞かない子供に対して説教でもするようにすみれをジッと見つめながら答えた。

「何を言っているの、佐々木君」

「こいつ、イカれてやがる。何様のつもりだっての」

「あなた、それはつまり自分の片思いの相手を振り向かせるために、周りの人間を巻き込んでこんな真似をしたって言うの」

 すみれが信じられないといった表状で、二郎が心底軽蔑した風に、そしてエリカが理解できないと言った口調で勇次を問い詰めた。

「何をそんなに驚いているんだい、橋本さん。むしろこの僕と一緒に学校生活を過ごしていて、どうして僕の事を好きにならないのかそっちの方が驚きだよ。山田君、僕は至って正常だよ。むしろ橋本さんの方が異常なんだよ、僕はそれを正してあげようとしているだけだ。それに周りの人間なんてどうでも良いだろ。僕が受けた屈辱に比べれば、周りのくだらない連中がどうなろうが知ったことではないからね」

 すみれとエリカは勇次のあまりの言い草に空いた口が塞がらないといった様子で絶句した。その横で大きなため息をつきながら二郎は事の真相を探ろうと勇次に問いかけた。

「はー、とんでもない奴だな。確かにお前がこんな奴だったとは流石に読み切れなかったわ。すっかりお前の普段の振る舞いに騙されたみたいだ。それで、結局あの日お前達は何をしたんだよ。どうせ今更隠したところで意味もないだろう。だから是非俺の推理がどこが合っていてどこが間違っているのか教えて欲しいのだがな、どうだ、佐々木」

 二郎は勇次の常軌を逸した言動に呆れつつも、今回の騒動の一連の真相を教えて欲しいと懇願した。

「うーん、まぁあれだけの推理をしたならば、真実を知りたがるのも無理はないかもね。いいよ、僕も君の頑張りには報いてあげなくちゃね。楽しませてくれたお礼にこれから答え合わせをしてあげよう」

 勇次はどこか余裕をもって二郎の要求を飲み一連の噂話の真相を語り始めた。

「まず僕は君たちがあの花火大会に行くことを事前に知っていたんだよ。本当は僕が橋本さんを誘おうと思っていたのに、バスケ部の連中が先に誘ってしまったせいで僕は彼女を誘えなかったんだ。まったく余計な事をしてくれたよ。そんな時に鈴木さんから祭りに一緒に行きたいと誘われて、その時に思いついたんだよ。彼女を使って何か面白い事が出来ないかってね。初めは鈴木さんをけしかけて橋本さん達のグループにでも喧嘩をふっかけさせてその場の空気をぶち壊しやろうと思っていたけど、当日に偶然面白い人物に会ってね。それで何か起こると思って君たちの行動を監視することにしたんだよ」

「一体誰を見たって言うんだよ。と言うか、どうして俺らにそんなにちょっかいを出そうしたんだ。意味が分からないぞ」

 勇次の話に二郎が率直に疑問を呈した。

「どうしてかって、そんな事は決まっているだろう。僕を差し置いて橋本さんと楽しく遊ぶなんて許されるわけがないだろう。そんなモノはぶち壊すのが当然だ。それと誰に会ったかだって、それはあいつだよ、俺が一番嫌いな男、工藤だよ」

「剛だって、どうして剛に会ったことが今回の話につながるんだよ」

「何を言ってるんだい、君だって知っているだろう。橋本さんが工藤にずっと片思いをしていることを。それと彼が馬場さんに興味を持っていたことも。僕は一年の頃から僕以上に橋本さんに想われている工藤が心底嫌いだったんだよ。あの日偶然会場に向かう途中であいつを見かけてね。どうやら行き先が同じだと気がついてピンときたんだよ。おそらくバスケ部の連中と祭りに行くんだと。そして、その本当の目的は馬場さんに会うためだってね。あの日、工藤は遊びに行くと言うよりも何かを覚悟したような張り詰めた顔をしていたから、何かやるんだろうなって感じたんだ。それで会場で鈴木さんと合流した後で、工藤が会場に居ることを話して、面白いモノが見られるかもしれないと話して僕の計画に協力させることにしたんだよ。あーそうだった。あの時会場で工藤を探しているときに、ちらっと話したあいつがバスケ部の小野だったんだな。全く気付かなかったぜ。あの時はどこかで見た事があるような奴と急に目が合って、思わず声を掛けてしまったんだよな。アレは俺のミスだったかもな」

 祭り当日、大和が忍と尊を見送った後、一人で場所取りをしていた夕方6時半頃、巴に盛大に振られて一人傷心していた大和はどこか見覚えのある男子に急に声を掛けられていた。

 その男は亜美菜を連れて剛を探し回っていた勇次だった。

「やぁ、君は確か同級生の・・・・」

 そんな言葉にようやく記憶の中から名前を引っ張り出した大和が被せるように答えた。

「お前は確か1組の佐々木だったか。なんだデートしてるのか、うらやましいことだぜ」

「まぁね、君も誰かと待ち合わせなんだろ」

「まぁな。それよりどうしたんだ、急に声を掛けてきて。何か俺に用か」

「いや、実は今日バスケ部の人とか5組の橋本さんとか、僕のクラスの工藤君とかも来ているって聞いたから、誰かに会ったかどうか教えて欲しくてさ」

「あぁなるほどな。俺はまだバスケ部の連中くらいしか会ってないけど、橋本って子は屋台の方に居るって聞いたぜ。それがどうしたんだ」

「そうなんだ。いや、特に何でも無いさ。ごめんね、邪魔して。それじゃ、夏祭り楽しんでね」

「お、おう」

 大和はよく分からない勇次の話を疑問に感じつつも、今はそれどころではないと再び一人落ち込むのであった。

 その一方で勇次の隣を歩く亜美菜が大和と一定の距離が出来たことを確認して声を掛けた。

「ねぇ勇次君さっきの人誰なの」

「実は僕も誰なのかよく分からないんだよね。でも、たまに教室前の廊下で顔を見る気がして、多分2組か4組の生徒じゃないかな。彼は僕の事を知っていたしね」

「そんなの当たり前じゃん、勇次君は吹奏楽部のスターだし、カッコイイのだから誰でも知っているよ。それに比べてさっきの彼は1度くらい名前を聞いてもすぐに忘れちゃいそうな地味で特徴も無い感じの人だったし、勇次君が名前を思い出せなくても当然だよ」

「まぁそうだね、俺に比べればどいつもこいつもただの凡人だから仕方ないか」

「やっぱり勇次君はカッコイイよ。そんな台詞自分に自信が無くちゃなかなか言えないよ」

「俺を他の奴らと一緒にしないでくれよ」

 そんな状況があって地味を極めた大和のおかげで、二郎は勇次の目撃情報を勇次に警戒されることなく知ることが出来たのであった。

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