青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㊴ ~二郎の推理~

 二郎以外の5人が驚いた反応を見せる一方で、一は自分の役回りに不満そうに言った。

「全く、毎度毎度こんな役ばかりじゃんかよ、二郎」

「何言ってんだよ、ヒーローは遅れて登場するんだろ。お前がいつも口癖で言ってるじゃんか」

 二人の緊張感のないやり取りに勇次が噛みついた。

「何だよこれは。一ノ瀬君もいたずらが過ぎるだろ。生徒会の君がこんなことをしていいのかよ」

「佐々木君さ、今の状況を理解しているか。今俺が君に電話を出来たのは、君があの日屋台の彼女に電話番号を渡してそれを二郎が教えてくれたからなんだぞ。つまり、今の電話が成立した時点で、君はあの日現場に居たって事が証明されたって事だぜ」

 一は勇次に自分の立場を理解させるように事実を突きつけた。

「いや、そんなことはでたらめだ。それくらい別の人間から連絡先を聞けば誰でも分かることじゃないか。それにその紙切れだって誰が本当に書いたかなんて分からないだろう。そんなモノお前達が作った偽の証拠だ。所詮そんな物は僕が認めない限り本当かどうかなんて誰にも分かるわけがないからな。まぁ残念だったな。良い線付いたけど証拠不十分で不起訴ってところだな」

 勇次は二郎と一のトッリキーな推理のアプローチには確かに焦ったが、結局のところ噂に関する確たる証拠や証人などこの場で証明できるはずがないと初めから割り切っており、最後は自白さえしなければ逃げ切れると考えていたため、折れそうな心を何とか持ちこたえてしらを切り続けた。

 確かに勇次の電話番号はすみれも知っているモノであるし、誰かしらに聞けば調べが付くモノだった。連絡先の書いてある紙も実際の犯罪で警察が筆質鑑定でもすればそれが勇次のモノだと言えたかもしれないが、そんなことが出来るわけでもないため、実際のところ勇次の言うとおり自白だけが唯一の現場に居た証明だった。

「なかなか粘るな。まぁ確かに心を折るにはちょっと弱かったかな」

 一が少し残念そうに独り言を言っていると、すみれが我慢できずに話し掛けた。

「それよりも一君がどうしてここに。今日帰るときに用事があってこの場には来れないって言ってたじゃん。ずっと廊下に居たの」

「いやー、ごめんな、すーみん。二郎がもしもの時のために待機していてくれって言うから、皆がここに集まってからこっそり外で話を聞いて待っていたんだわ」

 一がすみれに謝っている横でもう一人の女子が二郎に噛みついた。

「もう二郎君ってば、私達にも黙っておくなんて酷いよ。本当にビックリしたんだから」

 エリカが二郎を恨むように言うと、二郎が全く悪びれずに言い返した。

「何を言ってんだよ。戦いの基礎だぜ。敵を騙すときはまず味方からってな。出来ればここで勝負を決めるつもりだったから、インパクトを持たせるためにサプライズ登場させるのが良いと思ってな。でも、まぁ佐々木も流石になかなか口を割らないから困ったもんだわ、こりゃ」

 二郎はそう言いながら改めて、勇次に目線を移した。

「勝手に盛り上がられても困るんだけどね。これで君の推理も終わりかな。もう諦めてくれよ。いくら適当な話を積み上げても君たちの間違いは変わらないのだから」

 勇次が額に溜まる汗を隠し平静を保ちながら話を終わらせようすると、二郎がそれに待ったを掛けた。

「たしかに当初はこれが俺の用意したお前が黒幕である証拠だったけど、今さっき確たる証拠をお前がくれたんだわ。今度こそ言い逃れは出来ないぞ」

「本当に諦めが悪いね、僕が一体何を言ったのかな。僕は君たちが話していることを聞いてそれを確認として述べたまでだよ。そこに証拠なんてあるわけがないだろう」

 勇次が馬鹿馬鹿しいと二郎の言葉を切り捨てて言った。

 すると二郎が急に自分の噂話について話し出した。

「お前はこう言ったな。凜先輩とデートをして、その後忍とパン屋の店員と修羅場になって三股疑惑が掛けられた、だったか。なぁ佐々木」

「はぁ、だから何度もそうだと言っているだろう。当人の君が一番よく分かっているだろ」

 勇次は何度も同じ事を聞いてくる二郎に呆れながら言い返した。

「なるほど、確かにこれは実際に俺が経験したあの日の出来事だ。でもこれを知っているのはあの日の俺の行動をよく見ていた奴かそれを詳しく聞いた人間だけしか知りようがないんだわ。なぁ佐々木。どうしてお前が俺の三股の相手が凜先輩と忍とパン屋の店員だって知っているんだ。どう考えてもおかしいんだよ」

 二郎がしつこいように勇次に問いかけた。

「何を言ってんだ、お前。この噂を聞いた人間なら誰でも知っている話だろ。頭おかしいのか」

 勇次が苛つくように答えると二郎がにやりと一笑して核心を突くように言った。

「いや、おかしいのはお前だぞ。なぜなら、俺が何人もから聞いた噂の内容では全員三股相手は凜先輩と忍と『屋台の店員』だって答えたんだからな。お前だけなんだよ。『パン屋の店員』だって言ったのはな」

 二郎の言葉にずっと黙っていた亜美菜が声を上げた。

「それが一体どうだって言うのよ」

「だから噂では出回っていない三股相手の三人目の正体をどうして佐々木が分かったかって事だよ。言い方を変えようか、つまり、あの日、忍と彼女が会う前から俺をずっと見ていなきゃ彼女がパン屋の店員だって事を知りようがないって事だよ。だから、それを佐々木が知っていたと言うことは、俺の事をあの日現場で見ていたって事の確たる証拠だって言うことだ。俺の言っていることの意味が分かるか」

 二郎は亜美菜にわかりやすく説明しながら、勇次の首元にナイフを突きつけるように鋭い目つきで睨み付けた。

「それは・・・僕の聞いた噂ではそうなっていたんだ。お前だって校内の全員から噂を聞いたわけじゃないだろ。だから俺が君の知らない噂を知っていてもおかしくないだろう」

「ばーか、そもそも彼女がパン屋の店員だって事を知っているのは、当人の俺とその現場を直接見た忍、それと忍からその話を聞いた三佳、凜先輩、それに加えて俺が話をしたバスケ部の一、大和、尊この7人しかいないんだよ。もちろん噂の関係者のこいつらがわざわざ自分達の噂を広める訳が無いよな。だったらどうやってそれをお前が知ったんだ。それはお前もあの日、彼女がパン屋で働いているところを見た以外にないだろ。と言うか、お前はちゃっかりナンパまでして連絡先を渡すくらいなのだから、今更しらばっくれても意味が無いだろう」

 二郎が逃がすまいとこれ以上無い決定的な証拠として数分前の勇次の発言の矛盾を指摘した。
 
「それは、そうだ。俺が聞いた噂を言った奴が適当にパン屋の店員だって言ったに違いない。だからそれを聞いた俺も勘違いしただけなんだ」

 勇次が苦し紛れに言い訳をすると一がそれを許さじ反論した。

「佐々木君さ、普通言い間違えるにしてもパン屋はないだろ。お祭りの屋台でパン屋があるなんて普通の人間が考えないぜ。そうだな、言い間違えるにせよ俺ならたこ焼きとかお好み焼き、他にはチョコバナナに綿飴、いくらでもお祭りの定番の屋台があるだろう。誰がパンの屋台の店員なんてバカな事を言うんだよ。それこそそんな証拠も証人もいない適当な話を誰が信じるのかな」

 一はエリカが瞬や勇次から推理を否定されたときのように勇次の戯言を一刀両断した。

 その言葉に遂に反論できなくなった勇次に二郎が最後の推理を言って聞かせた。

「まぁこれでお前があの日現場に居て、俺の行動をしばらくの間観察していたのは証明できたはずだ。これでさっきエリカが話した推理が生きてくるわけだ。どういうわけか俺らの予定を知ったお前らは何かしらすみれの弱みを握るために俺らを監視することした。佐々木と鈴木はツーショットになった忍と尊、三佳と剛の告白現場を二人で別れて目撃したことを良いことに、他の参加メンバーの俺や一の行動も監視することにした。今の話しの流れで言うと佐々木が俺を、鈴木が一をそれぞれ見ていたけど、鈴木は運悪く宮森に出くわして正体がバレないようにすぐに現場から逃げ出したから、噂の内容が曖昧だったわけだ。俺が聞いた噂でも、一が女泣かせていたとか、公衆の面前でイチャついていたとか色々あったが、噂を流した鈴木本人も実際何の事だかよく分からずに広めたから話がハッキリしなかったんだろうよ。そして佐々木は自分の存在を隠すために五十嵐に噂を広めさせたが、実際には屋台の店員という事だけが広まった。おそらく五十嵐が佐々木から話を聞いたときに屋台の店員だと言うことをだけを記憶してパン屋の事を忘れていたのか、もしくは、話をシンプルにするためにあえて屋台の店員だったと話したのか、それは分からないが、そのせいで噂と佐々木の認識の違いが生じて、墓穴を掘ることになったと。まぁこんな感じだろうな。でも一番分からないのが、すみれと仲の良い佐々木がどうして鈴木のこんなバカな計画を手伝ったかだな。鈴木はここまで上手く噂話を広めてバレないような工夫をしていた訳だから相当計画を練っていたと思うけど、まさか協力者にすみれの友人を上手く引き込むとは流石の俺でも初めは思いつかなかったよ。まぁこれも大和のおかげで気づけたんだけどな」

 二郎の推理を聞いたエリカが驚くように言った。


「二郎君は初めから佐々木君に狙いを定めて、ずっとその言葉を言わせるために、余計な無駄話をしていたって言うの」

「まぁ可能性はあったからな。ヤケに俺の話と一の話は曖昧な事が多い気がしていたから、もしかしたら噂を見た人間とそれを広めた奴が違うかもしれないと考えていたんだ。だから、何度も佐々木に噂の内容を言わせるように話を振っていたら、見事俺のエサに食い付いたって訳だ」

 二郎が勇次を追い詰めるためのプランについて説明するとエリカが呆れた様に言った。

「本当に二郎君って何者なのよ。漫画とかに出て来る探偵とかじゃないよね」

「何をバカな事を言ってんだよ。そんなことよりも話の続きをさせてくれ。おい、佐々木。これが俺の推理だが、反論はあるか。何なら五十嵐でも、鈴木でも言いたいことがあるなら自由に言ってくれ。こっからはお前達のターンだぜ」

 二郎はエリカの言葉をさらっと受け流し、対面する勇次、瞬、亜美菜を見据えて攻守交代とボールを渡すように言った。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品