青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㊳ ~ラストチャンスとサプライズ~

「山田君、橋本さんに感謝してくれ。こんな茶番僕だっていつまでも付き合っていられないからね。速やかに話してもらおうか」

 勇次の言葉通りすみれの懇願によりラストチャンスを手に入れた二郎はエリカの前に出て、瞬と亜美菜を一瞥して勇次に向けて言った。

「佐々木、気付いていないかもしれないが、お前は3つの大きなミスをした。3つの内の2つは夏祭り当日のお前の行動、そしてもう1つは今さっきのお前の証言だ」

 勇次はその指摘を無言で受け止めて話の先を促した。他の4人も二郎の言葉の真偽を確かめるように黙って話を聞く態勢を保っていた。二郎はその様子を見て推理の続きを語り始めた。

「夏祭り当日、あの日、お前は現場に居た。お前は誰にも気付かれていないと思っていたかもしれないが、残念ながらお前を見た生徒を俺は見つけ出した。誰だか思いつく当てはあるか、佐々木」

「さぁ何のことだか、僕は知らないね」

 しらを切るように捨て台詞を吐いた勇次の代わりにすみれが二郎に問いかけた。

「二郎君、もったいつけずに早く誰なのか教えてよ」

「分かったよ。そう焦るなって。佐々木、あの日お前を見た生徒はバスケ部の小野大和だ」

「小野・・大和?すまないけど、さっきも言ったとおり僕はバスケ部の生徒はあまり詳しくなくてね。わからないな。でも、バスケ部の生徒が君たちに有利な証言をするために嘘をついているだけでしょ。そんな証拠もない話をどう信じれば良いのかな」

 勇次は興味を失ったように二郎の主張を否定した。

「お前まだ気付いていないんだな。大和はお前を見ただけじゃなくて会話もしたんだぞ。しかもお前から話し掛けたらしいじゃないか。なんでも、場所取りのために一人で待機していた大和とお前は多くの人が行き交う中、偶然目が合ったと。それで少し会話を交わしてすぐにその場を立ち去ったと聞いたぞ。あいつも突然の事だったからビックリしたけどよく覚えてるってよ。それに一緒に居た女の顔もしっかり覚えていたみたいだぞ、鈴木」

 二郎が亜美菜の目をガンと見つめて言った。

「!!」

 二郎の突然の名指しに体をビクッとさせた亜美菜が驚きの表情を見せると此処ぞとばかりに追い打ちを掛けた。

「正直俺もこの話を聞いたときは驚いたけど、おかげで俺は今までノーマークだったお前を中心にして聞き込みが出来たわ」


 勇次は二郎の揺さぶりに対して亜美菜に余計な事を言わないように視線を送り、平静を保って反論した。

「ふん、そんな話何の証拠もないでしょ。この程度で僕を犯人だと言っているなら話にならないよ」

「まぁそうだな。じゃこれはどうだ。お前、その後、俺の三股相手の屋台の店員に会いに行っただろ。余程気になったんだな。あれこれ歳やら名前やらを聞かれたからよく覚えているって彼女が言っていたぞ。お前も思っていたよりも女好きみたいだな。でも、それが命取りになったな。まさか彼女が俺らの同級生だったなんて思わなかったんだろう。もしかして本当に俺が軟派でもしてデートに誘ったとでも思ったのか」

 その追求に勇次は落ち着かない様子で言った。

「な、何のことはさっぱり分からないな。何の証拠もないのに好き勝手言わないでくれよ」

「おうおう、まだ言い返す元気があるか。そんじゃこれはどうだ」

 そう言って二郎はある紙切れをポケットから出した。

「そ、それは・・・・」

 勇次は上ずった声で二郎が手に持つ紙切れを見た。

「随分手慣れた手つきだったって言っていたぞ。ほれ、いらないから返すだってよ。よくも人を三股野郎のゴミクズ呼ばわれしてくれたけど、お前も随分なナンパ野郎みたいだな、佐々木」

 二郎はやり返すように言葉をぶつけ、持っていた紙切れを丸めて勇次に投げつけた。その紙切れには勇次が四葉を口説こうと渡した勇次の携帯電話の番号が書かれていた。
 
 あの日、四葉が花火を見に行く準備のために、二郎が屋台から離れたタイミングで勇次は屋台に立ち寄り、二郎が仲良さげに話していた美人店員の四葉を口説こうとしていた。その時、なかなか話に食い付いてこない四葉に連絡をして欲しいと慣れた手つきで電話番号を書き渡していた物が正に今二郎が投げ捨てた紙切れだった。四葉は初め自分と同じ学校の生徒だとは知らず勇次と話をしており、全く相手にしていなかったためその場で捨てようと思ったが、個人情報が書いてある紙を捨てるのは気が引けたため、捨てられずに家に持って帰っていた。そんなところで、二郎に当日の事を聞かれ、紙に書いてあった佐々木という名前を思い出して勇次だと気がついたのだった。そして、今回の一件の黒幕である可能性を二郎から聞いた際に、その証拠として是非とも利用して欲しいと四葉から二郎に渡されたのであった。

「なんだこれは、こんなの僕は知らない。君の作り話も大概にしてくれよ」

 勇次が取り乱すように叫んでいると、どこからか携帯の着信音が鳴っていることに、エリカが気付いた。

「ちょっと何か聞こえるけど、・・・もしかして佐々木君の携帯じゃない」

 その言葉に教室内の全員の視線が勇次に集中した。

 勇次は鳴り響く携帯電話に体を硬直させ黙り込んで頑なに携帯に出ようとしなかったところで、その様子を見て二郎が言った。

「佐々木、お前の携帯が鳴っているぞ。こっちは気にせず早く出てやれよ」

 その言葉で無視を決め込むことが出来なくなった勇次が恐る恐る携帯をポケットから出し着信先を確認したところ無登録の相手だった。

「知らない連絡先だから、出る必要は無いよ」

 そう言うと勇次はすぐさま電話を切った。しかし、2秒もせずに同じ電話番号から着信が入った。その明らかな不自然さに勇次が携帯の画面を凝視していると、二郎が携帯を奪い取り電話に出た。

「はい、もしもーし・・・・はいよ。ほれ、お前を出してくれだとよ」

 思いも寄らない展開に付いていけなくなっているすみれやエリカ、瞬と亜美菜と同じく固まっていた勇次に二郎が携帯を差し出して電話に出るように迫った。

 その勢いに負けて恐る恐る携帯を耳に当てると思いのほか明るい声が聞こえてきた。

「もしもし、君が佐々木君。いつもウチのがお世話になっているみたいだね。でも最近は君も随分色々とやってくれたみたいじゃないか。俺もこのまま黙っておく訳にはいかないし、これからお礼参りに行くからよ・・・・ツーツーツー」

 謎の相手からの一方的な言葉に勇次が絶句していると、数秒後突然教室のドアが開かれた。

 それに一番初めに反応したのが瞬だった。

「お前、どうして」

 続けて亜美菜が。

「え、どういうこと」

 その声に反応してエリカが。

「もしかして今までそこに居たの」

 そして最後にすみれが一言。

「は・・・一君!」

 そこにサプライズ登場したのは一ノ瀬一、今回の噂話の当事者の一人であり、二郎の唯一無為の親友で、そしてすみれの恋人となったその男だった。

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