青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㊲ ~ちゃぶ台返しとすみれの啖呵~

 勇次の下した結論に悔しさを滲ましていたエリカは助けを求めるように二郎に目線を向け、それを受けた二郎が勇次に話し掛けた。

「佐々木、お前の結論はこの上なく正しいよ。良くこんな面倒な役回りを押しつけられた割にちゃんと話を聞いて判断を下してくれたよ」

 二郎の反論に期待していたエリカとすみれはその言葉にがっくりと首を折った。そして二郎の諦めとも言える言葉を聞いて勇次は安心したように答えた。

「そんなことないさ。僕は客観的に話を聞いて公平に判断したつもりだから。君が素直に僕の結論を受け入れてくて良かったよ。それじゃ、まずは疑った二人にちゃんと謝らないとだめだよ。それと初めに言ったとおりこんな犯人捜しはもうやめて、不用意な争いはしないように頼むよ」

 勇次はその場を丸く治めようと双方に和解するように言って聞かせた。

「いや、ちょっと待ってくれ。一つだけ佐々木に確認したいことがあるんだが良いか」

 二郎は最後のお願いというように勇次に問いかけた。

「なんだい、確認したい事って」

「実は俺の噂に関して曖昧な事しか聞いてなくて。佐々木がさっき言った俺の噂についてもう一度教えてくれないか。それとお前はどこでその噂を聞いたか教えて欲しいんだよ」

 勇次は二郎のその問いに不満そうに言った。

「山田君、今更そんなこと確認したって意味がないし、もう犯人捜しはしない約束なはずだよ」

「ごめん、これが最後だよ。まぁ俺の興味本位だからそんな気にするなって」

 二郎の軽い口調の懇願に犯人捜しとは関係がなさそうだと判断した勇次は呆れたように答えた。

「仕方がないね。山田君の噂だね。確か二階堂副会長とデートをした後で、成田さんとパン屋の店員さんと修羅場になって、それが三股疑惑として噂になった、だったと思うよ。まったくあんな美人3人と関係を持てるなんて羨ましい限りだよ。まぁ今回の噂もほぼ事実で良い思いをしたのだから、多少は痛い目に遭っても仕方がないと思うよ、山田君」

 勇次は先程説明した通り二郎の噂を述べて、最後は二郎の行いを批判するように皮肉を言った。

「全く酷い言われようだな。それでこの噂をお前は誰から聞いたか覚えているか」

「誰だったかな。僕も色々な人から聞いたからよく覚えてないな」

「そうか、じゃこれはどうだ。バスケ部の奴とか5組の生徒から聞いたとかそれは分かるか」

「いや、それはないと思うよ。バスケ部には特に仲の良い友達もいないし、5組には橋本さんくらいだけど、流石に彼女から噂を聞くことはできなしね。確かクラスか部活の友達だった気がするけど、これで満足かな、山田君」

 二人が淡々と会話をしていると二郎と勇次のやり取りを黙って聞いた瞬がしびれを切らして二郎に怒鳴りかかった。

「おい、山田!そんなことどうでも良いだろうが。舐めてんのか、お前。ここまで人を疑っておいて謝罪の一つもないのかよ」

 その言葉を二郎は完全に無視するように言った。

「犯人捜しの推理はまだ終わってない!」

 二郎はこれまでの話の流れを全てなかった事にする見事なちゃぶ台返しをかました。

「あぁ、今更何を言ってんだよ、てめぇは!」

「山田君、それは流石にルール違反だよ」

 二郎の突然の宣言に瞬が怒りを全開に出し、勇次が横暴を引き留めるように言った。

「まぁ待て。俺が正しいと言ったのは、エリカと鈴木と五十嵐の論戦の結論のことだろ。俺の推理をまだ聞いてないはずだ。だから、今度は俺の話を聞け」

「ふざけんな、お前らの代表で飯田が話したんだろ。今更お前が何を言っても証拠も証人も何も変わってないのだから意味ないだろうが。お前ごときがあれこれ推理したって犯人が分かるわけがないだろう、バカが!」

 瞬の怒りが頂点に達したところで、そろそろ頃合いと見た二郎がある人物を指さして言った。

「五十嵐、残念だったな。もうごちゃごちゃした推理なんて必要ないんだわ。だってもう犯人が自首してくれたんだからよ。なぁ佐々木。お前なんだろ。この騒動の黒幕は」

 その言葉にエリカとすみれが信じられないと言った驚愕の表状で勇次を見た。一方で怒り狂っていた瞬は息を止めて絶句し、それまで静かに男達の口論を見守っていた亜美菜がおびえるように体を怯ませた。

 そして突然、犯人として名指しされた勇次は平静を保って二郎に問いかけた。

「山田君、一体全体何を急にバカな事を言っているんだい。これじゃ僕ももう君たちを庇えないよ」

 勇次の呆れたような言葉をたたき切るように二郎が言った。

「庇うだと、お前こそ何を言ってんだ。今から始めるのはお前の断罪裁判なんだぞ。覚悟しておけよ、佐々木」

 二郎の明らかな自分への挑戦を受けて、勇次は人が変わったような棘のある口調で言い返した。

「はぁ、馬鹿馬鹿しい、何が断罪裁判だよ。僕は第三者としてこの話を聞いていた無関係者だよ。少しは話の分かる奴だと思っていたけど、やっぱり君は噂通り三股するようなゴミクズ野郎みたいだね。皆もこんな奴相手にしないで早く帰ろうよ。橋本さんもこんな奴とは早く縁を切った方が良いよ」

 勇次は戯れ言だと話をさっさと終わらせようとしたが、それをすみれが引き止めた。

「待って、佐々木君。二郎君は君が言うようなゴミクズなんかじゃないよ。二郎君は普段は確かに根暗でやる気が無くて何事も斜に構えるあまのじゃくみたいな変わり者だけど、友達を大事にする優しい人だよ。それに二郎君が佐々木君を疑う理由を私はちゃんと聞きたいし、それが間違っているなら私が責任を持って二郎君を否定するし、その時は私達三人、きっちり土下座でも何でもするわ。だからお願い。二郎君の話を聞いて下さい、お願いします」

 すみれは短い付き合いながらも二郎を友人のために行動できる頼り甲斐のある男子だと思っており、また何よりも自分の愛する一が誰よりも信頼する男である二郎ならば、この土壇場で最悪の状況をひっくり返してくれるだろうと考え、全力で勇次を説得しようとこれでもかと頭を下げて言った。

「橋本さん、やめくれよ。君がそんなことする必要なんてないよ」

「いや、お願いだから佐々木君」

 その断固たる決意を見せつけられた勇次が笑みを浮かべていった。

「そこまで言うなら仕方がないね。でも、橋本さん忘れないでよ、もし彼が見当違いの事をいうのならば、君は約束通り何でも言うことを聞いてもらうよ。それでも良いかい」

「いいわ、私は二郎君を信じているから」

 すみれは見事な啖呵を切って勇次を黙らせた。

「ありがとうよ、すみれ。流石クラス女子のリーダーなだけはあるな。まぁ後は俺に任せておけ」

 二郎は思いもしなかったすみれからの信頼を受け止めて、最後の論戦に向けて勇次と対面するのであった。

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