青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日㉚ ~ファインプレーと推理の答え~

「おーい、二郎、お前何やってんだ。てか、何で制服のままなんだよ」

 二郎達に声をかけたのは男子バスケ部の小野大和だった。大和は練習ではいつも誰よりも早く体育館に来て準備をすることが日課となっており、今日もそのつもりだったが普段まず居ることのない二郎の姿を確認し驚いた様子だった。

「おう、大和か。いつもご苦労さんだな。ちょっと神部に用事でな。悪いが俺はこのあと教室に戻るから今日はまた遅刻すると思うわ」

「こうも堂々と遅刻をする事を言ってのける奴はなかなか居ないぜ。全く毎日お前は何をやってんだよ」

 二郎と話をしている傍らで大和は夏祭りぶりに顔を合わす巴に気づきそれとなく挨拶をした。

「宮森さん、久しぶりだね。今日は部活に来るの早いんだね」

「うん、今日は一ノ瀬君が生徒会に出てくれているから私はフリーなんだ」

「そっか、そりゃ良かったね・・・・」

「うん、それじゃ私は行くね。神部さんも小野君も部活頑張ってね」

 巴と大和はぎこちないながらも以前と変わらず会話を交わし、お互いが関係を保とうと努力しているようだった。

「あたしももう行くよ。あんたも部活始めるから参加しないなら、さっさとコートから出なさいよね」

 歩が二郎をしっしっと手払いしてその場を離れると二郎と大和は女バスが集まるゴールの反対側に移動して会話を続けた。

「なぁ大和、一つ確認したいことがあるんだが良いか」

「なんだ確認って」

 二郎の唐突な問いかけに大和が不思議そうに返事をした。

「夏祭りの日の事だが、お前はずっとバスケ部シートで場所を取りしていただろ。その時に誰か見なかったか。例えば三組の鈴木って女子とか」

「3組の鈴木?誰だそれ。多分見てないと思うけどな」

「そうか、俺も正直顔は分からんが吹奏楽部の生徒らしいわ」

「吹奏楽部の鈴木?やっぱり知らないな。だけど別の奴なら見かけたと言うか、声を掛けられたぜ」

 大和は首を傾げながらも、当日の事を思い出して言った。

「別の奴、それって誰の事なんだ」

「それは・・・」

 二郎は大和の口から出た生徒の名前を聞いて、今まで足りなかったピースをようやく見つけた気がしていた。

「サンキュー大和。これはファインプレーだ。俺はこれから他に確認しなきゃいけないことが出来たから、今日は部活休むわ。悪いが尊にもよろしく伝えてくれ」

「おい、二郎。一体何が分かったんだよ。おーい、ちゃんと後で説明しろよ」

 二郎は大和の返事を待たずに足早に体育館を出て行った。



 その頃、エリカ達の話し合いは難航していた。

「犯人が二人以上いることは分かったけど、結局のところ犯人が誰かなんて全然検討がつかないよ」

 三佳が頭を悩ませながらつぶやくと、すみれが思い切った表情で口を開いた。

「実は確信はないのだけれど、怪しいと思っている相手が居るのよ」

「急にどうしたのよ。怪しい相手って一体誰のことなのよ」

 すみれの言葉にエリカが少し驚きを見せつつその言葉の先を促した。

「それは3組で私と同じ吹奏楽部の鈴木亜美菜って子なんだけど。先週彼女に噂の事を聞かれてさ、その時まるで全てを知っているような感じで私にあれこれ聞いてきて、答えを知っていて私にそれを言わせようとしていた感じだったのよ。一年の頃から彼女は私を嫌っている事もあって、何かの嫌がらせで私の友達の噂を流して楽しんでいるのかもしれないって考えていたのよ」

「何それ、そんなの良い迷惑じゃない。すみれの事がいくら嫌いでもこんな大勢を巻き込んでまで嫌がらせするかな」

「そう言う女なのよ。一年の時も自分のグループに楯突く相手には容赦しないで大人数で叩き潰して黙らせていた奴なのよ。周りを巻き込むなんて朝飯前だよ」

 三佳とすみれの会話にエリカが実感のこもった声で言った。

「はぁ本当に女子の縄張り争いって面倒だよね。高校になってからは平和な学校生活を送れているけど、中学時代は私も色々巻き込まれて本当に大変だったよ。すみれも高一の時は苦労したみたいね」

「まぁね。まだあの女が犯人かは分からないけど、もし思った通りならクラスが替わってからもあの女に目をつけられるなんて本当についてないわ」

 すみれが苦笑いでエリカに答えていると三佳が話を進める様に言った。

「でも仮にその鈴木って子が犯人だとしても、誰か協力者がいるはずだよね。一人じゃ全ての噂の現場を知ることは出来ないし」

「確かに三佳の言うとおり協力者がいるはずね」

「あの女のグループの子かな。でも、それじゃ候補が多過ぎて追うのは無理よ」

「ならクラスとか部活で鈴木さんと仲良くしている友達は誰かいないの」

 エリカは唯一亜美菜と関係をもつすみれに問いかけた。

「友達と言っても一年の時は取り巻きの女子が2、3人くらいで、あとは皆嫌々従っている女子が多かったし、2年になってもそれはあまり変わってないと思うわ。部活でも佐々木君っていう男子にべったりしている位で他の部員とも表面的な付き合いしかしていないと思うよ」

「何だか裸の王様って感じね。絶対私その子と仲良くなれないと思うわ」

「正直2度と同じクラスになりたくない女の第1位だからね」

「そこまですみれが言うなんて余程なんだね、その鈴木って女子は」

 すみれの話を聞いたエリカが嫌悪感丸出しで言った。

 そんなすみれとエリカの話を聞いていた三佳が真剣な表情でに言った。

「まぁ相手がどうとか言うのは置いておいて、犯人の候補者は鈴木亜美菜とその取り巻き数名ってことでいいのかな」

 三佳にとって自分に対する噂は昔から慣れておりさして気にも留めないモノだったが、すみれに対する嫌がらせのために他の人間も巻き込む亜美菜のやり方に珍しく怒りを覚えており、なんとして犯人を追い詰めたいという考えに変わっていた。

 そんな三佳の雰囲気に押されて犯人捜しから脱線しつつあった話を持ち直してエリカとすみれは返事をした。

「そうね。三佳の言うとおり今は犯人捜しが重要だね。うん、多分その3、4人を調べればきっと真実にたどり着くはずよ」

「私もそう思うよ。どう考えても無関係には思えないし、きっと私とその友達に対する嫌がらせのつもりで変な噂を流したんだわ」

 三佳の言葉にエリカとすみれは同意するように答え、3人の中での犯人の容疑者として鈴木亜美菜の名前が遂に挙げられたのであった。

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