青春クロスロード
人の噂も七十五日⑫ ~秩序のない妄想に水平チョップ~
なんだかんだありながらも亜美菜を含めた3人グループとなったすみれたちは、音楽室のある別館3階からグループ練習をするために本館二階のすみれのクラスである2年5組の教室に移動していた。
「私もう疲れた~。3時間ぶっ通しでやっているし、もう無理だよ~」
音楽準備室から引っ張り出してきた古いキーボードに顔をうずめながら亜美菜がヘトヘトな表情で言った。
「確かに今日は初日だし飛ばしすぎも良くないから今日はここまでにしようか。橋本さんもそれでいい」
「うん、大丈夫だよ。私も疲れたし今日はこれで十分だと思うわ」
勇次の問いかけにすみれは凝った肩を伸ばすように両手を挙げ背を伸ばしながら同意を示した。
「やった!それじゃ私はこれを片付けに行くわ。勇次君、私一人じゃ重いから手伝ってよ、お願い」
「そう、だね、わかったよ。僕たちはキーボードを戻したら部室に1度顔を出してから帰るつもりだけど、橋本さんはどうする」
亜美菜のお願いに仕方ないと了承を示し、勇次がすみれのこの後の予定を尋ねるとすみれはさらっと答えた。
「私はこの後ちょっと用事があって人と会うから、まだ帰らずにここで待っているわ」
すみれの答えに少し残念そうにしながら勇次は返事をした。
「そっか。わかった。それじゃ先輩達には僕らのグループ練習は今日は解散したって伝えておくから。それじゃお先に。お疲れ様」
「うん、よろしくね。それじゃお疲れ様ね、佐々木君。鈴木さんもお疲れ様」
「お疲れ様。また部活の時にも自由時間が取れたら合同練習するようにしようね。それじゃ鈴木さん行こうか」
「うん。それじゃ橋本さんもお疲れ様。勇次君、帰りに駅前のおしゃれなカフェがあるからちょっと寄っていこうよ。二人で一緒に今日の反省会しようよ!」
亜美菜はすみれに勝ち誇った顔つきで一瞥するとその後はすみれの存在を完全に無視するように勇次をデートに誘いながら教室を出て行った。
すみれは静かになった教室の中、今日一日で溜まったストレスを解放するように大きく息を吐きながら椅子の背もたれに寄りかかり机においた携帯を見つめていた。
時間は夕方5時半過ぎ。日が落ち始めほんのりと夕の香りが漂い始めるそんな時間だった。
そんな薄暗くなっていく教室で、しばらくの間すみれが一人黙々と文化祭で演奏するディズニー映画の名作『美女と野獣』の主題歌である『Beauty and The Beast』の楽譜に書き込みをしているとその静寂を切り裂くように待ちに待った携帯の着信音が鳴り響いた。
その着うたは特定の相手のみに設定している曲であり、それはピンクのワゴン車に乗った若者達のありのままの恋愛模様をテレビで放送する某バラエティー番組の主題歌でこの年の大ヒット中のラブソングである「明日への扉」だった。
すみれは今一番のお気に入りのその曲のリズムに合わせて着信に反応した。
「いつの間にか~♪」 着信に気づき携帯を見る。それと同時に心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。
「隙間空いた~♪」 手にしていたシャーペンを放り出し、一秒でも早く声が聞きたいと素早く携帯を手に取る。
「心が満たされていく~♪」 携帯を開き画面に映る着信表示に待ち焦がれた想い人の名前を確認し自然と笑みをこぼしながら着信ボタンを押した。
「もしもし一君!」
「おう、俺だけど、どうした随分テンションが高そうだけど、なんか良いことでもあったのかい」
「ううん、ゴメンね。一君の声が聞けると思ったら嬉しくなっちゃって。・・・いや、違うの、そうじゃなくて連絡が少し遅いなって心配してただけだから、本当にそれだけだからね」
すみれは思わず口から出た本音の後で急に自分の言葉が恥ずかしくなり、ごまかしにもならない言い訳を言いながら顔を真っ赤にしながら一の問いに答えた。
「なんだなんだ、よく分からないけど可愛いからOKだわ。それよりもごめんな、すーみん。思ったよりも遅くなっちゃって。今部室を出たところだからすぐに行くよ。今どこに居る」
一は携帯越しにすみれのドギマギしている様子を想像しつつ、毎度の事だとさらっと流して話しを先に進めた。
「えーと、その、今は私達の教室、だから2年5組の教室にいるよ。部活で疲れているんだし、全然急がなくて大丈夫だよ。今日私が急にお願いしたことだし、私こそゴメンね、急に会いたいなんて言って」
すみれはなんとか冷静を取り戻し一に自分の所在を伝えつつ、急に会う約束を取り付けたことを謝った。
「何を言ってんのさ。俺も時間が合えば帰りに一緒に帰れたら良いなって思っていたから。お互い様だよ」
「一君。・・ありがとう」
すみれは一の得意のリップサービスとも気付かず、一人すっかり顔を緩るませて返事をした。
「それじゃ今から2-5に行くから少しだけ待っていてくれるか」
「うん、私ずっと一君のこと待っているからね」
「いやいや、すぐ行くから。そんな仰々しい言い方しなくても大丈夫だからさ。それじゃ」
すみれのどこか大げさな言葉をこれまたあっさりと受け流した一は携帯を切ると教室へ向かう前にある場所に寄って行くのであった。
数分後、すみれが行事良く首を長くしながら2年5組の教室で待っていたところに一が駆け足でやって来た。
「おーい、すーみん、待たせてごめんよ」
「一君!・・会いたかったよ~」
学校が始まって一週間、人目を忍んでなかなか二人で会うことが出来ず、さらには色々な面倒事に巻き込まれて心身共にヘロヘロの状態でようやく一に会えた安心感で半泣き状態となっていたすみれを見て、一は申し訳なさそうに問いかけた。
「本当にごめん、ごめん。いつからここで待っていたんだ」
「練習が終わったのが5時半過ぎだったかな。でも私も文化祭に向けて色々やりたいこともあったから全然大丈夫だよ」
面倒くさい女だと思われたくない一心で、強がりを言ったモノの言葉とは裏腹に弱った表情を見せるすみれの心理状態を察した一はすみれを労うように頭に手を乗せて言った。
「マジか、そりゃ悪かったな。1時間近く一人で待っていたのか。よく我慢できたな、よしよし」
一が目線を向けた教室の時計は6時20分を指していた。
すみれの話しを聞き、さすがに申し訳なく思った一は慣れた手つきですみれの頭をなでると、すみれはこんな見返りがあるなら一時間程度いくらで待てるといったとろけた表情で息を漏らした。
「はふ~、へへへ。私すごく頑張ったんだから、もっとご褒美ほしいなぁ」
すみれが完全に甘えモードに入り一に抱きつこうとすると、一が待ったを掛けながらあるモノをすみれに見せて言った。
「すーみん、ここではさすがにマズいから移動しよう。これを借りてきたから、そこで話しもゆっくり聞くからさ」
「移動するってどこに行くの」
すみれの疑問に手に持つ鍵を見せて言った。
「もちろん生徒会室だよ。あそこなら今日は誰も来ないし、だいたい七時くらいまでなら守衛さんも来ないはずだから、30分くらいはゆっくり出来るはずだよ」
「そういうことか、それじゃ行こうか。ふふふ、誰も来ない生徒会室で何するつもりなの、一君のエッチ」
落ち着かない様子のすみれは右手で何度も髪を触りながら、嬉しさと照れが半々と言った表情で一を見つめながら言った。
「いやいや、何もしないって。すーみんの話しをゆっくり聞きたいだけだし、朝から部活やって疲れているし、汗臭くてどうしようもないから俺としては早く風呂に入りたいんだよ」
一は自分の体臭を気にしながら疲れの滲んだ声で言った。
「え、お風呂に!!それはさすがにまだ早いよ。いや、別に私は嫌って訳じゃないけど、一君がどうしてもって言うなら私としては最大限の努力はしたいと思っているけど、やっぱり物事には順序もあるし、今日は色々と準備も出来てないし、ちょっと最近太っちゃてお腹も見られるのは恥ずかしいし、それに、それに・・・・・・でも、一君がそんなに私の事を好きで我慢できないって言うなら、ぐへへへ、もう好きにして!!」
すみれが一人顔を真っ赤にして体をクネクネしながら妄想の世界と交信している姿を何か面白い未確認の生き物を見る目つきで一が見ていると、すみれが怪しい笑い声と共に一にダイブしたところで、強烈なチョップがお見舞いされた。
「落ち着けーい!ちょっと飛躍しすぎだって。とりあいず現実世界に帰ってきてくれ、頼む」
一の会心の一撃で現実世界に帰還したすみれは両手で頭を押さえながら涙で言った。
「痛っ、・・・もう!いきなり何するのよ」
すみれの言葉に一は冷静かつ大胆に命令口調で言った。
「それは俺の台詞だわ。いきなり何を言い出しているのさ。もう埒があかないわ。とりあいず生徒会室に行くから大人しくこっちに来なさい!」
「はーぃ」
一の手厳しツッコミにすみれは恥ずかしそうに肩をすくめて小さな声で返事をするとお預けを食らったペットのように一の後を従順について行くのであった。
「私もう疲れた~。3時間ぶっ通しでやっているし、もう無理だよ~」
音楽準備室から引っ張り出してきた古いキーボードに顔をうずめながら亜美菜がヘトヘトな表情で言った。
「確かに今日は初日だし飛ばしすぎも良くないから今日はここまでにしようか。橋本さんもそれでいい」
「うん、大丈夫だよ。私も疲れたし今日はこれで十分だと思うわ」
勇次の問いかけにすみれは凝った肩を伸ばすように両手を挙げ背を伸ばしながら同意を示した。
「やった!それじゃ私はこれを片付けに行くわ。勇次君、私一人じゃ重いから手伝ってよ、お願い」
「そう、だね、わかったよ。僕たちはキーボードを戻したら部室に1度顔を出してから帰るつもりだけど、橋本さんはどうする」
亜美菜のお願いに仕方ないと了承を示し、勇次がすみれのこの後の予定を尋ねるとすみれはさらっと答えた。
「私はこの後ちょっと用事があって人と会うから、まだ帰らずにここで待っているわ」
すみれの答えに少し残念そうにしながら勇次は返事をした。
「そっか。わかった。それじゃ先輩達には僕らのグループ練習は今日は解散したって伝えておくから。それじゃお先に。お疲れ様」
「うん、よろしくね。それじゃお疲れ様ね、佐々木君。鈴木さんもお疲れ様」
「お疲れ様。また部活の時にも自由時間が取れたら合同練習するようにしようね。それじゃ鈴木さん行こうか」
「うん。それじゃ橋本さんもお疲れ様。勇次君、帰りに駅前のおしゃれなカフェがあるからちょっと寄っていこうよ。二人で一緒に今日の反省会しようよ!」
亜美菜はすみれに勝ち誇った顔つきで一瞥するとその後はすみれの存在を完全に無視するように勇次をデートに誘いながら教室を出て行った。
すみれは静かになった教室の中、今日一日で溜まったストレスを解放するように大きく息を吐きながら椅子の背もたれに寄りかかり机においた携帯を見つめていた。
時間は夕方5時半過ぎ。日が落ち始めほんのりと夕の香りが漂い始めるそんな時間だった。
そんな薄暗くなっていく教室で、しばらくの間すみれが一人黙々と文化祭で演奏するディズニー映画の名作『美女と野獣』の主題歌である『Beauty and The Beast』の楽譜に書き込みをしているとその静寂を切り裂くように待ちに待った携帯の着信音が鳴り響いた。
その着うたは特定の相手のみに設定している曲であり、それはピンクのワゴン車に乗った若者達のありのままの恋愛模様をテレビで放送する某バラエティー番組の主題歌でこの年の大ヒット中のラブソングである「明日への扉」だった。
すみれは今一番のお気に入りのその曲のリズムに合わせて着信に反応した。
「いつの間にか~♪」 着信に気づき携帯を見る。それと同時に心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。
「隙間空いた~♪」 手にしていたシャーペンを放り出し、一秒でも早く声が聞きたいと素早く携帯を手に取る。
「心が満たされていく~♪」 携帯を開き画面に映る着信表示に待ち焦がれた想い人の名前を確認し自然と笑みをこぼしながら着信ボタンを押した。
「もしもし一君!」
「おう、俺だけど、どうした随分テンションが高そうだけど、なんか良いことでもあったのかい」
「ううん、ゴメンね。一君の声が聞けると思ったら嬉しくなっちゃって。・・・いや、違うの、そうじゃなくて連絡が少し遅いなって心配してただけだから、本当にそれだけだからね」
すみれは思わず口から出た本音の後で急に自分の言葉が恥ずかしくなり、ごまかしにもならない言い訳を言いながら顔を真っ赤にしながら一の問いに答えた。
「なんだなんだ、よく分からないけど可愛いからOKだわ。それよりもごめんな、すーみん。思ったよりも遅くなっちゃって。今部室を出たところだからすぐに行くよ。今どこに居る」
一は携帯越しにすみれのドギマギしている様子を想像しつつ、毎度の事だとさらっと流して話しを先に進めた。
「えーと、その、今は私達の教室、だから2年5組の教室にいるよ。部活で疲れているんだし、全然急がなくて大丈夫だよ。今日私が急にお願いしたことだし、私こそゴメンね、急に会いたいなんて言って」
すみれはなんとか冷静を取り戻し一に自分の所在を伝えつつ、急に会う約束を取り付けたことを謝った。
「何を言ってんのさ。俺も時間が合えば帰りに一緒に帰れたら良いなって思っていたから。お互い様だよ」
「一君。・・ありがとう」
すみれは一の得意のリップサービスとも気付かず、一人すっかり顔を緩るませて返事をした。
「それじゃ今から2-5に行くから少しだけ待っていてくれるか」
「うん、私ずっと一君のこと待っているからね」
「いやいや、すぐ行くから。そんな仰々しい言い方しなくても大丈夫だからさ。それじゃ」
すみれのどこか大げさな言葉をこれまたあっさりと受け流した一は携帯を切ると教室へ向かう前にある場所に寄って行くのであった。
数分後、すみれが行事良く首を長くしながら2年5組の教室で待っていたところに一が駆け足でやって来た。
「おーい、すーみん、待たせてごめんよ」
「一君!・・会いたかったよ~」
学校が始まって一週間、人目を忍んでなかなか二人で会うことが出来ず、さらには色々な面倒事に巻き込まれて心身共にヘロヘロの状態でようやく一に会えた安心感で半泣き状態となっていたすみれを見て、一は申し訳なさそうに問いかけた。
「本当にごめん、ごめん。いつからここで待っていたんだ」
「練習が終わったのが5時半過ぎだったかな。でも私も文化祭に向けて色々やりたいこともあったから全然大丈夫だよ」
面倒くさい女だと思われたくない一心で、強がりを言ったモノの言葉とは裏腹に弱った表情を見せるすみれの心理状態を察した一はすみれを労うように頭に手を乗せて言った。
「マジか、そりゃ悪かったな。1時間近く一人で待っていたのか。よく我慢できたな、よしよし」
一が目線を向けた教室の時計は6時20分を指していた。
すみれの話しを聞き、さすがに申し訳なく思った一は慣れた手つきですみれの頭をなでると、すみれはこんな見返りがあるなら一時間程度いくらで待てるといったとろけた表情で息を漏らした。
「はふ~、へへへ。私すごく頑張ったんだから、もっとご褒美ほしいなぁ」
すみれが完全に甘えモードに入り一に抱きつこうとすると、一が待ったを掛けながらあるモノをすみれに見せて言った。
「すーみん、ここではさすがにマズいから移動しよう。これを借りてきたから、そこで話しもゆっくり聞くからさ」
「移動するってどこに行くの」
すみれの疑問に手に持つ鍵を見せて言った。
「もちろん生徒会室だよ。あそこなら今日は誰も来ないし、だいたい七時くらいまでなら守衛さんも来ないはずだから、30分くらいはゆっくり出来るはずだよ」
「そういうことか、それじゃ行こうか。ふふふ、誰も来ない生徒会室で何するつもりなの、一君のエッチ」
落ち着かない様子のすみれは右手で何度も髪を触りながら、嬉しさと照れが半々と言った表情で一を見つめながら言った。
「いやいや、何もしないって。すーみんの話しをゆっくり聞きたいだけだし、朝から部活やって疲れているし、汗臭くてどうしようもないから俺としては早く風呂に入りたいんだよ」
一は自分の体臭を気にしながら疲れの滲んだ声で言った。
「え、お風呂に!!それはさすがにまだ早いよ。いや、別に私は嫌って訳じゃないけど、一君がどうしてもって言うなら私としては最大限の努力はしたいと思っているけど、やっぱり物事には順序もあるし、今日は色々と準備も出来てないし、ちょっと最近太っちゃてお腹も見られるのは恥ずかしいし、それに、それに・・・・・・でも、一君がそんなに私の事を好きで我慢できないって言うなら、ぐへへへ、もう好きにして!!」
すみれが一人顔を真っ赤にして体をクネクネしながら妄想の世界と交信している姿を何か面白い未確認の生き物を見る目つきで一が見ていると、すみれが怪しい笑い声と共に一にダイブしたところで、強烈なチョップがお見舞いされた。
「落ち着けーい!ちょっと飛躍しすぎだって。とりあいず現実世界に帰ってきてくれ、頼む」
一の会心の一撃で現実世界に帰還したすみれは両手で頭を押さえながら涙で言った。
「痛っ、・・・もう!いきなり何するのよ」
すみれの言葉に一は冷静かつ大胆に命令口調で言った。
「それは俺の台詞だわ。いきなり何を言い出しているのさ。もう埒があかないわ。とりあいず生徒会室に行くから大人しくこっちに来なさい!」
「はーぃ」
一の手厳しツッコミにすみれは恥ずかしそうに肩をすくめて小さな声で返事をするとお預けを食らったペットのように一の後を従順について行くのであった。
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