青春クロスロード

Ryosuke

人の噂も七十五日④ ~エリカの疑問と三佳の決意~

 なんだかんだありながらもしばらくコーヒータイムを楽しんだ二人は一服着いたところで、ようやく今回の噂の真相について話し始めた。

「三佳、今日この場を作った理由はわかる?学校が始まって一週間、あちこちで色んな噂が出回っているけど、私が行かなかったあの花火大会の日に一体何があったのよ。すみれも忍も何だかあの日の事になると急に黙ってしまって何も言わないし、二郎君とか一君には直接聞きづらいし何が何だかわからないのよ。三佳の知っていることだけで良いから真実を教えて」

 この一週間に感じたモヤモヤをどうにかしたいというエリカの言葉に三佳は困ったように、しかし、仕方が無いような面持ちで口を開いた。

「まぁこの話になるよね。でもねエリカ、実は私も何が何だかよく分からなくて、自分の事と二郎君の事を少し話せるくらいで、他の噂の全容はさっぱりなんだよ。それでもいいかな」

「もちろん、三佳が知っていることだけで十分だよ。この後、忍とかすみれにも話を聞こうと思っているから」

「わかった。それじゃ、あの日のこと順を追って話すね」

 三佳はあの花火大会当日の自身の行動を思い出しながらゆっくりと話始めた。
 
 当日、忍とすみれと3人で会場に行き、買い出しの関係で3人が別れた後に、二郎が剛を連れてやって来て、二人になって話しがしたいと言われたこと。そして、告白を受けて振ったこと。その後、一人で会場をぶらついている時に忍と二郎がいつものように喧嘩をしている現場を目撃したこと。そして、その場に一人の女が現れて、その人と花火を見るために会場に消えていったこと。最後に凜が現れて、あれこれ二郎について3人で話した後、結局は大和、尊、巴と忍、凜、三佳の6人でお葬式のような空気の中で花火を見た事を話した。

 その話を聞いたエリカは、その当時の状況を想像して顔を引きつらせながら言った。

「なんかもうお疲れ様としか言えないわね。それにしても剛との話は悲しいくらいあっさりしているわね」

「まぁ告白されて振るのは慣れているし、エリカも分かっていたことでしょ」

「まぁそうだけど、・・・そうね、うん。結果は見えていたことだもんね」

 エリカは未来予想していたとは言え、一と並ぶ学年内一のモテ男である剛の告白をこれまで経験した有象無象の輩の告白と同じように処理した三佳のモテ女としての感覚の違いを驚嘆する一方で、告白されすぎて恋愛への気持ちが鈍感になってしまっていることに同情心のようななんとも言えない感情が生まれていた。

 なぜならば、エリカの感覚からすれば、人から告白を受けることは人生においても1度あるかないか程の大事で有り、それが余程嫌いな相手でもない限り、告白を受ければ悩み、考え、感情を揺さぶられ気持ちが揺れるといった平常心を保てない状況に陥ると思うからだった。実際にエリカは夏休みの間に拓実からの告白があるだろうと予想しており、お互いが好き同士で長年一緒に居る相手からの告白だったとしても、毎晩眠れずもだえ苦しむ経験をしている分、三佳が慣れているからっと言ってあっさりと剛の告白を事務的に処理した話を聞いて戸惑いを隠しきれなかった。

「私の事よりも驚いたのは二郎君の事だよ。あの副会長の二階堂先輩が突然現れて、二郎君に急に怒りだすし、忍曰く、私らと別れてからずっと二階堂先輩と二郎君の二人はイチャイチャデートをしていたって言うし、さらにその後に出てきた人が、まさかの四葉っちで普段の格好からは想像できないくらい美人で大人っぽくてさ、忍から二郎君を奪って二人でどっか行っちゃうし、私も訳分からない状況なんだよ。学校始まってからも四葉っちとも話せてないし、どうしたら良いのか全然わかんないよ」

 三佳の話から最も可能性の低いと思っていた二郎の三股疑惑の信憑性を3ランク引き上げて、三佳の言葉を確認するように言った。

「ちょっと待って三佳。という事は、二郎君は二階堂先輩に、忍、さらには四葉さんという事は4組の結城さんよね、いつもマスクとメガネをした真面目で勉強の出来る彼女と3人の女子とデートをしていたって事かな。だったらあの噂は本当だったって事なの」
 
「二郎君の噂って言うのを私は知らないけど、忍に関してはデートをしたというか、二人で花火を見ようと誘った忍が二郎君に振られて四葉っちとデートしたってことで間違いないかな。二階堂先輩に関しては相当二郎君にゾッコンって感じだったよ」

 三佳は興奮したように語りつつも、どこか元気のない声で二郎の周辺に蠢く女達の話しをした。それもそうだった、ペンギンランドから二郎への淡い恋心を持て余しており、何も行動を起こせていない三佳に比べて凜、忍、四葉の3人は積極的に二郎にアプローチを掛けて(と三佳が勝手に思っている)、何かしらの接点を持とうとしていることを思うと自分は一周も二周も周回遅れの恋のレースをしていると思うのであった。

 そんな三佳の話を聞いたエリカは驚きと共に一種の疑問を頭の中に浮かべるのであった。

(しかし、どうして二郎君の周りには個性的な女子が集まってくるんだろう?天上天下唯我独尊、才色兼備、清廉潔白の大和撫子であり、学校内で最も存在感を示す生徒会副会長の二階堂凜に、部活命で我が道を突き進み女子からの圧倒的な人気を誇る孤高の女子バスケ部エースのイケ面系女子である成田忍。そして、入学から一年半以上経ってもなお、他の生徒から素顔はおろか声すらも知らないいと言われる学年一の謎多き女、結城四葉。この3人を同時に相手取る山田二郎という男。底が知れないわ。それにこの様子だともしかしたら三佳も二郎君に気があるのかもしれないし。この面子に校内一のモテ女の三佳まで食い込んできたら一体どうなっちゃうのよ。もう、どこの売れない作家の書く三文小説なのよ)

 エリカがうーうー唸っている様子を見ながら三佳は改めて自分から行動をしなきゃ駄目だと心に誓いつつ、腹が減っては戦が出来ぬとスタッフを呼び大きな声で一言。

「すいません、季節のお野菜と生ハムのレモンクリームパスタを一つとお水を下さい。エリカも何か食べる」

「いや、私はダイエット中だからこのパンケーキで十分だわ」

「そう、では、それでお願いします」

 笑顔でスタッフに注文を告げる三佳の姿に、さすがの宇宙人はどんなときでもぶれないわと尊敬の眼差しをエリカは向けるのであった。

 こんな調子でエリカの噂の真相究明の第一弾は終わりを告げたのであった。

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