青春クロスロード
人の噂も七十五日① ~リア充女と腐った仲間達~
2学期開始二日目。学校生活は早くも日常の流れを取り戻し1限から6限までみっちりと授業が始まっていた。
そんなハードな授業の時間が終わると一、二郎、三佳、忍やその他の運動部に所属する生徒はすぐに教室を出て校庭に向かっていた。というのも、ここ琴吹高校は長期休みの後、校庭や学校周辺の草むしりや清掃活動を行うのが恒例となっており、普段何も言わない部活の先生もこの活動に関してはサボる生徒には厳しい指導を行う事もあって、運動部の生徒は有無も言わずに参加することになっていた。
そういった事情もあって文化部や帰宅部の生徒を残し教室はいつも以上に早く生徒がいなくなっていた。そんな中で美術部のエリカと吹奏楽部のすみれはいつも通り少しだけ教室に残り雑談をしていた。
「すみれはまだ部活には行かないの」
「うん、家に帰ってからやるのが面倒だから数学の課題だけ先に終わらせてから部活に行こうと思ってさ。エリカはまだ部活は行かないの」
「うん、私はそろそろ行くつもりだよ。文化祭の準備とかコンクールとかがあって結構2学期は美術部も忙しいんだよね。とはいえ、運動部と違って個人での活動だし、そこまで縛りがキツいわけじゃ無いからそこまで焦ることもないけどさ」
「そっか、やっぱり芸術の秋って言うだけあって美術部もこの季節は忙しくなるんだね。ウチらも秋のコンクールがあるから先輩達は気合いが入っているけど、私は楽しく音楽が出来ればそれでいいからマイペースでやるよ」
「そっか、それぞれ部活に対して考えることは違うよね。それじゃ私はそろそろ行くね。部室に行く前に職員室に寄らなきゃ行けないからさ。また明日ね」
エリカは1、2分程すみれと会話を交わし教室を後にした。
その後すみれはエリカに話したとおりしばらく教室に残り数学の課題をやっていたが、その後ろで数人の女子生徒が気になる人物について話していることに気がつき、こっそり聞き耳をたてて話しの内容を聞き取ろうとボールペンを持つ手を止めた。
「ねぇねぇ大ニュースだよ。どっかの夏祭りの会場でウチのクラスの一ノ瀬君が彼女とイチャついていたって噂が出てるって知ってる」
興奮したように言ったのはクラス女子の間で情報通と呼ばれる木元耀だった。
「嘘!私が聞いたのは一ノ瀬君が女の子を公衆の面前で泣かせていたって噂だよ」
そんな耀とは異なる内容を話したのは三度の飯より噂話が好きな高木恵だった。
「なにそれ、全然真反対の話じゃん。どこで聞いてきたのよ、あなたたち」
そんな二人の話にツッコミを入れたのはそのグループの中心生徒である菊池遙だった。
3人はどちらかと言えば他の生徒達から中立派を保っているグループであり、男子との絡みはほぼ無い比較的目立たない穏健的な独立グループの一つだった。そのためすみれグループともお互いに不可侵条約を結んでいるため友好的な間柄を維持していた。
「私は3組の友達から聞いたんだよね。結構リアリティがあったから嘘ではないと思うけどなぁ」
「私は2組の友達だよ。その子も確か3組の人から聞いたって言っていた気がするけどどうかな」
耀は割と自信をもって、恵は若干曖昧な感じで情報源について話した。
「ふーん、私としては一ノ瀬君が彼女を作ったって言うのはちょっと信じられないんだよね。彼には色々と決まりとか一部の熱烈なマニアからの噂があるから簡単には付き合うって事にはならないと思うのよ」
遙は何かを知っているように一の恋愛動向について推測を述べていた。
そんな3人の話しを聞き、居てもたっても居られなくなったすみれは我慢できずに3人に話し掛けた。
「ごめんね、ちょっと聞こえちゃったんだけど一ノ瀬君がどうかしたの」
すみれの問いかけに耀が興味深そうに返事をした。
「おぉ、すーちゃんもやっぱり気になる」
それに合わせて恵も仲間を見つけたように嬉しそうな表情で反応した。
「すみれちゃんも噂話好きなの、分かるよその気持ち!」
そんな二人とは打って変わって申し訳なさそうに遙が言った。
「あれ声が大きかったかな、勉強の邪魔をしちゃってゴメンね、橋本さん」
耀、恵、遙の順ですみれに返事をするとすみれが当の噂について質問した。
「うん、私こそ話の邪魔をしてゴメンね。ちょっとその噂話が気になってさ。どういう話なのか教えてもらっても良い」
「もちろんかまわないけど。ほら耀と恵は話してあげなよ」
遙が二人に話すように促すと先程話した内容をそのまますみれに言って聞かせた。
「新学期始まって二日目にしてそんな話しがもう出回っているのか。なるほどね」
「すーちゃんあまり驚かないね、もしかして何か知っていたの」
すみれの反応の薄さに疑問を持った耀が不思議そうに言った。
「いや、そんなことないよ。凄いビックリだよ。でも、こんなに早く噂が広がっていることにちょっと疑問に思ってね」
「でも、これだけで驚いちゃ駄目だよ、すみれちゃん。他にもいっぱい面白い噂が出ているんだよ。しかも驚くことにすみれちゃんの友達の話ばかりなんだよ」
まだまだこんなもんじゃ無いという恵の言葉に、食いつくようにすみれが問いかけた。
「どういうこと、高木さん。良かったら教えてくれるかな」
「もちろんいいよ。私は噂大好き人間だから。噂を聞きたいという人に黙っておく訳にはいかないからね」
恵はよく分からない使命感のようなものを持ってキメ顔ですみれにサムズアップサインをした。
恵が話した噂はこんな内容だった。
1つ、2組の中田君が5組の成田さんに告白して振られた。
2つ、1組の工藤君が5組の馬場さんに告白して振られた。
3つ、5組の山田君が3年の二階堂先輩とデートしていたが、その後に5組の成田さんと年上の屋台のお姉さんと三股を掛けて修羅場を展開した。
最後に5組の一ノ瀬君が公衆の面前で女子を泣かせて一悶着起こした。
これが恵の聞いた噂の全容だった。
それに耀がもう一言付け加えた。
「私が聞いたのは一ノ瀬君がその女子と人目もはばからず抱き合ってイチャイチャしていたって噂だよ」
「なにそれ。私が知らない間に一体何があったって言うのよ。ていうか、超恥ずかしいところ見られてるじゃん私達!」
顔を真っ赤にしながらすみれは3人には聞こえない小さな声で驚きと信じられないと言った台詞をつぶやいた。
「ちょっと橋本さん、大丈夫。確かにここまで友達の変な噂を聞くとショックだよね。でも安心して大丈夫よ。成田さんと馬場さんの噂は分からないけど、一ノ瀬君と山田君の噂に関しては嘘だと思うのよ」
遙はどこか確信めいた様子ですみれを落ち着かせるように言った。
「ちょっと遙、もしかしてあの話しするつもりなの。すーちゃんにはショックが大きいからやめた方が良いんじゃないかな」
「そうよ、こっち側に引き込むにはすみれちゃんはリア充サイドの住人過ぎるんじゃないの、大丈夫なの遙!」
耀と恵は心配そうに遥がすみれに話そうとしていることに懸念を示した。
「え、一体何を話そうとしているのよ。ちょっと怖い話しはやめてよ、お願い」
すみれが恐る恐る懇願するように言うと遙がその言葉を打ち消すように口を開いた。
「橋本さん、あなた1組の工藤君にずっと片思いしているわね。しかも、親友の馬場さんが工藤君に告白されるというひどい仕打ちを受けて今ショックを受けているでしょ。違う?私の洞察力の前では全部お見通しなのだから観念して」
「え、なんでそれを!?」
「フフ、そうでしょう、隠しても無駄よ。1学期から橋本さんが工藤君の事をずっと陰から見ていたことは情報に上がっているのよ。しかも、工藤君が馬場さんに接触することが多くなっていることも大分広まっていたことだし、彼が馬場さんに告白して振られたのはおそらく本当よ」
「どうしてそんなことまで!?」
「隠しているつもりでも橋本さんはわかりやすすぎると思うわよ。私らみたいに一歩引いて周りを見ている人間にはすぐに分かるわよ、そんなこと」
全てお見通しと言った遙の口ぶりにすみれはとんでもない相手に声を掛けてしまったと後悔しつつも、一と二郎の噂についてはっきりと嘘だと言い切ったことが気になり、素直に遙の言葉を受け入れて先の話を聞こうと返事をした。
「そっか、そんなにわかりやすかったかな。お願いだから他の人には秘密にして欲しいのだけど良いかな」
遙は以外にも素直に認めたすみれに感心したように言った。
「随分潔いのね。もちろん、他人に人の失恋話を言いふらす趣味は無いから安心してよ。それに私がこんな話しをしたのは別に橋本さんを脅そうって思ったわけじゃ無くて私たちの仲間になって欲しいと思って言っただけだから悪く思わないでほしいの」
「それは一体どういうことなの」
すみれは遙の言葉が全く理解できないようすで遙の次の言葉を待った。
「落ち着いて聞いて欲しいのだけど、一ノ瀬君と山田君は出来ているって噂が一部の勢力の間では1年の頃からあるのよ。これはかなり信頼のある情報よ」
「ふぁ!!どういうこと?」
すみれはあまりにも突拍子も無い話に今まで発したことも無い驚きの声を上げた。
「だから一ノ瀬君のようにイケ面で頭も良くて運動も出来て、性格もピカイチに良い男子が今まで彼女の一人も作ってないなんておかしいでしょ。それに今回の噂話を除けば、彼に関しては浮いた話しすら今まで一度も出たことが無いのよ。さらにあれだけ人望が厚くて顔も広い彼が特定の仲の良い友人は山田君だけって言うじゃない。だから私たちは一つの結論に至ったのよ。それは一ノ瀬君と山田君は完全に出来ている。しかも同じ中学出身って事も考えて、もうかなり深い仲だと思うのよ。そう言うことで一ノ瀬君の恋の行方は女子達の間では暖かい目で見守るという不可侵条約が裏で結ばれているのよ。だから、それを知らずに近づこうものなら、一ノ瀬君への恋愛ガチ勢からは総スカンを喰らうし、山一ペア肯定派の腐女子達からは陰から恨まれる事になるのよ。それを知れば余程の覚悟がないと一ノ瀬君に手を出すバカはいないって事なのよ」
遙はあっさりとそして確実にすみれに死刑宣告を下した。そして、それを聞いたすみれは一年の頃の剛に片思いをしていた時よりも、とんでもない相手と恋人同士になったと動揺を隠せない様子で顔面蒼白になりながら言った。
「嘘でしょ。そんなことが女子達の間で決められていたなんて聞いたこと無いよ」
「見たところすーちゃんはあまり恋愛には疎そうだし、今のところ一ノ瀬君にはちょっかいを出さそうにも無いから誰も話さなかったんじゃないかな。それにグループの忍ちゃんも三佳っちも凄いモテるけど、自分から男子にアピールするタイプでもないし、エリカ母さんは一組の服部君と両思いでしょ。すーちゃんグループは恋愛に関しては無害と思われていたし、無理にすーちゃん達4人に喧嘩を売るような事は出来なかったんじゃないかな」
すみれの疑問に情報通の耀が推測するように状況を説明した。
「そうな風に私ら思われていたんだ。なんだかなぁ。それにしても一ノ瀬君と山田君が出来ているって言うのは一体???」
「それだよ、それが私らの本題なのよ」
「え??」
遙は待っていましたとばかりにすみれに本題を切り出した。
「だから私たち3人はさっきも言ったけど腐女子で、男子と男子があんなことやこんなことをしてものすごい関係になっちゃっているって妄想するBLマニアのグループって事なの。そして、この学校内でも数あるペアの中で最も支持され妄想の対象にされているのが山一ペア、つまり山田君と一ノ瀬君の二人なの。しかも、二人は私ら腐女子達に妄想しろと言わんばかりにオカズをわんさか提供しくるし、実際に二人は他の生徒とは一線を画すように深い関係になろうとしない節があって、それがより私たちの妄想意欲を助長するのよ。分かってくれるでしょ、橋本さん。はぁはぁはぁ」
遙は普段見せない興奮した様子で妄想を爆発させるようにすみれに詰め寄って現在琴吹高校2年女子の間で定説となっている一と二郎の関係を捲し立てて言い放った。
「えーーーー!!!!」
すみれは予想の範疇を軽く超えていったあまりに吹っ飛んだ遥の話に周囲を気にせず絶叫した。
「驚くのも当然よね。でもね、初めは軽蔑するかもしれないけど、一度そういう風に見えると二人の関係がずっと気になっちゃって、気がつくとそういう風にしか見れなくなっちゃうのよ。私たちも初めからこんな性癖があったわけじゃないの。3人とも普通に男子に片思いをしていて、恋愛をしたいって思っていたけど、今回の橋本さんみたいに失恋を経験して恋愛するのが怖くなっちゃったの。それでもともと陰からこっそり意中の相手を見ている事が多かったせいか、知らぬ間に男子同士のやり取りが怪しく見えてきて、私たちを振ったのは女子じゃなくて男子を好きだからって思うようになってね。そんなこんなであたしらは同類の仲間として今はひっそりと男子達の恋の行方を見守るようになったのよ」
遙は自分たちが腐女子に陥った経緯を包み隠さずすみれに語った。その横で耀と恵は遙に同調するようにうんうんと頷きながら仲間を見るかのようにすみれを見つめていた。
「橋本さん、あなたにこんな話しをしたのは、今失恋をして絶望している時こそ、私たちの気持ちが分かってくれると思ったからなの。そして、こちら側の住人になるなら今がチャンスという事よ。もう傷つく恋愛なんてやめて私たちと一緒に誰も傷つかない妄想の世界で幸せ一杯、夢一杯の腐女子ライフを満喫してみないかな。あなたにはその権利があるわ。そう思ったから私も恥を忍んでこんな話しを橋本さんにしたのよ」
「さすが総帥様、そこまで考えてすーちゃんにこの話しを聞かせたのね」
「遙ちゃんは同じ傷を負ったすみれちゃんを放っておけなかったんだね、やっぱり優しいなぁウチのリーダーは」
遙の言葉に耀と恵が感動したように遙を褒めちぎった。
(なんかすごい話しを聞いちゃったわね。今更知らん顔もできないしどうしよう)
すみれが何を言ったら良いか言葉に窮していると遙が察したように言葉を加えた。
「突然こんなこと言われたら驚くのは当然だから今すぐどうこうしてとは思ってないから安心して。ただこの話しを黙って聞いてくれた橋本さんはもう友達、いや同士よ。準会員という事で私たちは考えるからいつでも辛いときは相談して良いからね。それが恋に破れダークサイドに落ちた仲間の友情よ」
「それは、どうも、ありがとうございます」
すみれは遙の圧力に屈してとりあいず何の会員なのかよく分からないまま、準会員ということで立場を保留することになった。
「ちなみに遙ちゃんが琴吹高校腐女子の会の創設者であり総帥様で、耀ちゃんは諜報員1号ね。私は諜報員2号なの。他にも各クラスに仲間が何人かいて色んな情報を集めて噂の真相とかBLのネタを日々探しているの。会員になれば情報は共有されるからいつでも声を掛けてね」
仲間が増えた(勘違いだが)喜びのせいか恵は聞いてもない情報を次々と話し、早速すみれを本会員になるように誘うのであった。
そんなハードな授業の時間が終わると一、二郎、三佳、忍やその他の運動部に所属する生徒はすぐに教室を出て校庭に向かっていた。というのも、ここ琴吹高校は長期休みの後、校庭や学校周辺の草むしりや清掃活動を行うのが恒例となっており、普段何も言わない部活の先生もこの活動に関してはサボる生徒には厳しい指導を行う事もあって、運動部の生徒は有無も言わずに参加することになっていた。
そういった事情もあって文化部や帰宅部の生徒を残し教室はいつも以上に早く生徒がいなくなっていた。そんな中で美術部のエリカと吹奏楽部のすみれはいつも通り少しだけ教室に残り雑談をしていた。
「すみれはまだ部活には行かないの」
「うん、家に帰ってからやるのが面倒だから数学の課題だけ先に終わらせてから部活に行こうと思ってさ。エリカはまだ部活は行かないの」
「うん、私はそろそろ行くつもりだよ。文化祭の準備とかコンクールとかがあって結構2学期は美術部も忙しいんだよね。とはいえ、運動部と違って個人での活動だし、そこまで縛りがキツいわけじゃ無いからそこまで焦ることもないけどさ」
「そっか、やっぱり芸術の秋って言うだけあって美術部もこの季節は忙しくなるんだね。ウチらも秋のコンクールがあるから先輩達は気合いが入っているけど、私は楽しく音楽が出来ればそれでいいからマイペースでやるよ」
「そっか、それぞれ部活に対して考えることは違うよね。それじゃ私はそろそろ行くね。部室に行く前に職員室に寄らなきゃ行けないからさ。また明日ね」
エリカは1、2分程すみれと会話を交わし教室を後にした。
その後すみれはエリカに話したとおりしばらく教室に残り数学の課題をやっていたが、その後ろで数人の女子生徒が気になる人物について話していることに気がつき、こっそり聞き耳をたてて話しの内容を聞き取ろうとボールペンを持つ手を止めた。
「ねぇねぇ大ニュースだよ。どっかの夏祭りの会場でウチのクラスの一ノ瀬君が彼女とイチャついていたって噂が出てるって知ってる」
興奮したように言ったのはクラス女子の間で情報通と呼ばれる木元耀だった。
「嘘!私が聞いたのは一ノ瀬君が女の子を公衆の面前で泣かせていたって噂だよ」
そんな耀とは異なる内容を話したのは三度の飯より噂話が好きな高木恵だった。
「なにそれ、全然真反対の話じゃん。どこで聞いてきたのよ、あなたたち」
そんな二人の話にツッコミを入れたのはそのグループの中心生徒である菊池遙だった。
3人はどちらかと言えば他の生徒達から中立派を保っているグループであり、男子との絡みはほぼ無い比較的目立たない穏健的な独立グループの一つだった。そのためすみれグループともお互いに不可侵条約を結んでいるため友好的な間柄を維持していた。
「私は3組の友達から聞いたんだよね。結構リアリティがあったから嘘ではないと思うけどなぁ」
「私は2組の友達だよ。その子も確か3組の人から聞いたって言っていた気がするけどどうかな」
耀は割と自信をもって、恵は若干曖昧な感じで情報源について話した。
「ふーん、私としては一ノ瀬君が彼女を作ったって言うのはちょっと信じられないんだよね。彼には色々と決まりとか一部の熱烈なマニアからの噂があるから簡単には付き合うって事にはならないと思うのよ」
遙は何かを知っているように一の恋愛動向について推測を述べていた。
そんな3人の話しを聞き、居てもたっても居られなくなったすみれは我慢できずに3人に話し掛けた。
「ごめんね、ちょっと聞こえちゃったんだけど一ノ瀬君がどうかしたの」
すみれの問いかけに耀が興味深そうに返事をした。
「おぉ、すーちゃんもやっぱり気になる」
それに合わせて恵も仲間を見つけたように嬉しそうな表情で反応した。
「すみれちゃんも噂話好きなの、分かるよその気持ち!」
そんな二人とは打って変わって申し訳なさそうに遙が言った。
「あれ声が大きかったかな、勉強の邪魔をしちゃってゴメンね、橋本さん」
耀、恵、遙の順ですみれに返事をするとすみれが当の噂について質問した。
「うん、私こそ話の邪魔をしてゴメンね。ちょっとその噂話が気になってさ。どういう話なのか教えてもらっても良い」
「もちろんかまわないけど。ほら耀と恵は話してあげなよ」
遙が二人に話すように促すと先程話した内容をそのまますみれに言って聞かせた。
「新学期始まって二日目にしてそんな話しがもう出回っているのか。なるほどね」
「すーちゃんあまり驚かないね、もしかして何か知っていたの」
すみれの反応の薄さに疑問を持った耀が不思議そうに言った。
「いや、そんなことないよ。凄いビックリだよ。でも、こんなに早く噂が広がっていることにちょっと疑問に思ってね」
「でも、これだけで驚いちゃ駄目だよ、すみれちゃん。他にもいっぱい面白い噂が出ているんだよ。しかも驚くことにすみれちゃんの友達の話ばかりなんだよ」
まだまだこんなもんじゃ無いという恵の言葉に、食いつくようにすみれが問いかけた。
「どういうこと、高木さん。良かったら教えてくれるかな」
「もちろんいいよ。私は噂大好き人間だから。噂を聞きたいという人に黙っておく訳にはいかないからね」
恵はよく分からない使命感のようなものを持ってキメ顔ですみれにサムズアップサインをした。
恵が話した噂はこんな内容だった。
1つ、2組の中田君が5組の成田さんに告白して振られた。
2つ、1組の工藤君が5組の馬場さんに告白して振られた。
3つ、5組の山田君が3年の二階堂先輩とデートしていたが、その後に5組の成田さんと年上の屋台のお姉さんと三股を掛けて修羅場を展開した。
最後に5組の一ノ瀬君が公衆の面前で女子を泣かせて一悶着起こした。
これが恵の聞いた噂の全容だった。
それに耀がもう一言付け加えた。
「私が聞いたのは一ノ瀬君がその女子と人目もはばからず抱き合ってイチャイチャしていたって噂だよ」
「なにそれ。私が知らない間に一体何があったって言うのよ。ていうか、超恥ずかしいところ見られてるじゃん私達!」
顔を真っ赤にしながらすみれは3人には聞こえない小さな声で驚きと信じられないと言った台詞をつぶやいた。
「ちょっと橋本さん、大丈夫。確かにここまで友達の変な噂を聞くとショックだよね。でも安心して大丈夫よ。成田さんと馬場さんの噂は分からないけど、一ノ瀬君と山田君の噂に関しては嘘だと思うのよ」
遙はどこか確信めいた様子ですみれを落ち着かせるように言った。
「ちょっと遙、もしかしてあの話しするつもりなの。すーちゃんにはショックが大きいからやめた方が良いんじゃないかな」
「そうよ、こっち側に引き込むにはすみれちゃんはリア充サイドの住人過ぎるんじゃないの、大丈夫なの遙!」
耀と恵は心配そうに遥がすみれに話そうとしていることに懸念を示した。
「え、一体何を話そうとしているのよ。ちょっと怖い話しはやめてよ、お願い」
すみれが恐る恐る懇願するように言うと遙がその言葉を打ち消すように口を開いた。
「橋本さん、あなた1組の工藤君にずっと片思いしているわね。しかも、親友の馬場さんが工藤君に告白されるというひどい仕打ちを受けて今ショックを受けているでしょ。違う?私の洞察力の前では全部お見通しなのだから観念して」
「え、なんでそれを!?」
「フフ、そうでしょう、隠しても無駄よ。1学期から橋本さんが工藤君の事をずっと陰から見ていたことは情報に上がっているのよ。しかも、工藤君が馬場さんに接触することが多くなっていることも大分広まっていたことだし、彼が馬場さんに告白して振られたのはおそらく本当よ」
「どうしてそんなことまで!?」
「隠しているつもりでも橋本さんはわかりやすすぎると思うわよ。私らみたいに一歩引いて周りを見ている人間にはすぐに分かるわよ、そんなこと」
全てお見通しと言った遙の口ぶりにすみれはとんでもない相手に声を掛けてしまったと後悔しつつも、一と二郎の噂についてはっきりと嘘だと言い切ったことが気になり、素直に遙の言葉を受け入れて先の話を聞こうと返事をした。
「そっか、そんなにわかりやすかったかな。お願いだから他の人には秘密にして欲しいのだけど良いかな」
遙は以外にも素直に認めたすみれに感心したように言った。
「随分潔いのね。もちろん、他人に人の失恋話を言いふらす趣味は無いから安心してよ。それに私がこんな話しをしたのは別に橋本さんを脅そうって思ったわけじゃ無くて私たちの仲間になって欲しいと思って言っただけだから悪く思わないでほしいの」
「それは一体どういうことなの」
すみれは遙の言葉が全く理解できないようすで遙の次の言葉を待った。
「落ち着いて聞いて欲しいのだけど、一ノ瀬君と山田君は出来ているって噂が一部の勢力の間では1年の頃からあるのよ。これはかなり信頼のある情報よ」
「ふぁ!!どういうこと?」
すみれはあまりにも突拍子も無い話に今まで発したことも無い驚きの声を上げた。
「だから一ノ瀬君のようにイケ面で頭も良くて運動も出来て、性格もピカイチに良い男子が今まで彼女の一人も作ってないなんておかしいでしょ。それに今回の噂話を除けば、彼に関しては浮いた話しすら今まで一度も出たことが無いのよ。さらにあれだけ人望が厚くて顔も広い彼が特定の仲の良い友人は山田君だけって言うじゃない。だから私たちは一つの結論に至ったのよ。それは一ノ瀬君と山田君は完全に出来ている。しかも同じ中学出身って事も考えて、もうかなり深い仲だと思うのよ。そう言うことで一ノ瀬君の恋の行方は女子達の間では暖かい目で見守るという不可侵条約が裏で結ばれているのよ。だから、それを知らずに近づこうものなら、一ノ瀬君への恋愛ガチ勢からは総スカンを喰らうし、山一ペア肯定派の腐女子達からは陰から恨まれる事になるのよ。それを知れば余程の覚悟がないと一ノ瀬君に手を出すバカはいないって事なのよ」
遙はあっさりとそして確実にすみれに死刑宣告を下した。そして、それを聞いたすみれは一年の頃の剛に片思いをしていた時よりも、とんでもない相手と恋人同士になったと動揺を隠せない様子で顔面蒼白になりながら言った。
「嘘でしょ。そんなことが女子達の間で決められていたなんて聞いたこと無いよ」
「見たところすーちゃんはあまり恋愛には疎そうだし、今のところ一ノ瀬君にはちょっかいを出さそうにも無いから誰も話さなかったんじゃないかな。それにグループの忍ちゃんも三佳っちも凄いモテるけど、自分から男子にアピールするタイプでもないし、エリカ母さんは一組の服部君と両思いでしょ。すーちゃんグループは恋愛に関しては無害と思われていたし、無理にすーちゃん達4人に喧嘩を売るような事は出来なかったんじゃないかな」
すみれの疑問に情報通の耀が推測するように状況を説明した。
「そうな風に私ら思われていたんだ。なんだかなぁ。それにしても一ノ瀬君と山田君が出来ているって言うのは一体???」
「それだよ、それが私らの本題なのよ」
「え??」
遙は待っていましたとばかりにすみれに本題を切り出した。
「だから私たち3人はさっきも言ったけど腐女子で、男子と男子があんなことやこんなことをしてものすごい関係になっちゃっているって妄想するBLマニアのグループって事なの。そして、この学校内でも数あるペアの中で最も支持され妄想の対象にされているのが山一ペア、つまり山田君と一ノ瀬君の二人なの。しかも、二人は私ら腐女子達に妄想しろと言わんばかりにオカズをわんさか提供しくるし、実際に二人は他の生徒とは一線を画すように深い関係になろうとしない節があって、それがより私たちの妄想意欲を助長するのよ。分かってくれるでしょ、橋本さん。はぁはぁはぁ」
遙は普段見せない興奮した様子で妄想を爆発させるようにすみれに詰め寄って現在琴吹高校2年女子の間で定説となっている一と二郎の関係を捲し立てて言い放った。
「えーーーー!!!!」
すみれは予想の範疇を軽く超えていったあまりに吹っ飛んだ遥の話に周囲を気にせず絶叫した。
「驚くのも当然よね。でもね、初めは軽蔑するかもしれないけど、一度そういう風に見えると二人の関係がずっと気になっちゃって、気がつくとそういう風にしか見れなくなっちゃうのよ。私たちも初めからこんな性癖があったわけじゃないの。3人とも普通に男子に片思いをしていて、恋愛をしたいって思っていたけど、今回の橋本さんみたいに失恋を経験して恋愛するのが怖くなっちゃったの。それでもともと陰からこっそり意中の相手を見ている事が多かったせいか、知らぬ間に男子同士のやり取りが怪しく見えてきて、私たちを振ったのは女子じゃなくて男子を好きだからって思うようになってね。そんなこんなであたしらは同類の仲間として今はひっそりと男子達の恋の行方を見守るようになったのよ」
遙は自分たちが腐女子に陥った経緯を包み隠さずすみれに語った。その横で耀と恵は遙に同調するようにうんうんと頷きながら仲間を見るかのようにすみれを見つめていた。
「橋本さん、あなたにこんな話しをしたのは、今失恋をして絶望している時こそ、私たちの気持ちが分かってくれると思ったからなの。そして、こちら側の住人になるなら今がチャンスという事よ。もう傷つく恋愛なんてやめて私たちと一緒に誰も傷つかない妄想の世界で幸せ一杯、夢一杯の腐女子ライフを満喫してみないかな。あなたにはその権利があるわ。そう思ったから私も恥を忍んでこんな話しを橋本さんにしたのよ」
「さすが総帥様、そこまで考えてすーちゃんにこの話しを聞かせたのね」
「遙ちゃんは同じ傷を負ったすみれちゃんを放っておけなかったんだね、やっぱり優しいなぁウチのリーダーは」
遙の言葉に耀と恵が感動したように遙を褒めちぎった。
(なんかすごい話しを聞いちゃったわね。今更知らん顔もできないしどうしよう)
すみれが何を言ったら良いか言葉に窮していると遙が察したように言葉を加えた。
「突然こんなこと言われたら驚くのは当然だから今すぐどうこうしてとは思ってないから安心して。ただこの話しを黙って聞いてくれた橋本さんはもう友達、いや同士よ。準会員という事で私たちは考えるからいつでも辛いときは相談して良いからね。それが恋に破れダークサイドに落ちた仲間の友情よ」
「それは、どうも、ありがとうございます」
すみれは遙の圧力に屈してとりあいず何の会員なのかよく分からないまま、準会員ということで立場を保留することになった。
「ちなみに遙ちゃんが琴吹高校腐女子の会の創設者であり総帥様で、耀ちゃんは諜報員1号ね。私は諜報員2号なの。他にも各クラスに仲間が何人かいて色んな情報を集めて噂の真相とかBLのネタを日々探しているの。会員になれば情報は共有されるからいつでも声を掛けてね」
仲間が増えた(勘違いだが)喜びのせいか恵は聞いてもない情報を次々と話し、早速すみれを本会員になるように誘うのであった。
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