青春クロスロード

Ryosuke

番外編 凜と二郎の不思議な関係 出会いの中学編② ~悪意の連鎖~

   次の日学校へ行くと案の定教室内は事件の噂話で持ちきりになっていた。

「お前聞いたか、ウチの生徒会長の親父さんが何か選挙違反したらしいぞ」

「何その話、俺は知らないけど」

「昨日かーちゃんがニュース見たって教えてくれて、この前あった市長選挙で違反をしたのが、二階堂会長のお父さんらしいぜ」

「マジかよ、二階堂先輩かわいそうに。自分の父親のせいで今頃大変だろうな」

 二郎が聞き耳を立てて教室内の会話を聞いていると、大体同じような会話が所々で交わされており、大半は二階堂市長の選挙違反を疑わず、それに対する凜への同情が多かった。

 しかし、思春期まっただ中の中学生にとって、それだけでは終わらなかった。

 特に凜をよく知る同級生達の中では、同情の中に過激な誹謗中傷をする生徒が複数いた。というのも、普段の凜は完全無欠の生徒会長として学校からの信頼も厚く、男子生徒からは憧れの存在として、また同性からも羨望を浴びる存在として君臨しており、さらには父親は政治家で地元の行政の長となった事で、もはや住む世界が違う異次元のステータスを持っていた。ここまで来ると張り合うことも馬鹿馬鹿しく思える状況だったが、やはり、年頃の中学生にとってはその相手に弱みが出来るやいなや、これまでため込んでいた凜への僻みや嫉みを爆発させる生徒が現れることとなった。

 その筆頭は凜の同級生の内藤千和子だった。理由は単純でその女子生徒が好きな男子に告白したところ、凜のことが好きだと言う理由で振られたことだった。他にも生徒会選挙をダブルスコアで負けた小林純や普段から生活態度を注意されていた白井瑠美など理由はそれぞれ異なるも、普段悔しい思いをさせられていた腹いせにここぞとばかりにあること無いこと凜の悪い噂を流して評判を落とそうと躍起になっていた。

 報道があってから3日経つ頃に出回っていた噂は主にこの4つだった。
 
 その1 複数の男と付き合っており、高校生や大学生、さらには社会人と援助交際をしている超絶ビッチ女である。

 その2 学校での生徒会の選挙でも不正をして同級生や後輩の男子をたぶらかして票を集めた。

 その3 担任の先生に取り入ってテスト問題をカニングして学年トップの成績を取っている。

 その4 小さい頃に顔面全部を整形手術した実際はクソブス女である。
  
 どれも中学生が考えそうな低俗な嘘であるが、一部の生徒達はそれを面白おかしく噂として広め、またそれを面白がった生徒は噂の相手がどう思うかを想像せずに信用して凜に対して陰口を言うようになっていた。
  
 一方で世間的には思いのほか大事にならずに済んでいた。と言うのも、報道があってすぐに凜の父は市長として記者会見を行い必要な資料の提出や捜査など全面協力する事を宣言しつつ、無罪を主張し清廉潔白を訴えたからだった。この会見のおかげで、世論的には最初の報道の成否を疑う目となり、当局による捜査の結果が出るまでは下手なことは言えない状況となっていた。また二階堂市長がこれまで積み上げてきた市民への信頼は思いのほか厚く、市長の選挙違反よりも、情報をリークした記者の情報源の方が怪しいのではないかという意見が大半をしめる情勢となっていた。

 ただし、実際の社会の空気が狭い中学生の世界には簡単には伝わらず、それ以上にこれまで完全無欠だった凜のゴシップの衝撃の方が勝っており、簡単には収まらない状況になっていた。

 その噂の当事者である凜は、報道があった後も普段と変わらない態度を示しており、聞こえてくる噂は黙殺し、時折冷やかしに事件の事を聞いてくる相手にも「父は間違っていない。父は何一つ悪いことはしていない。すぐに無罪が証明される」と自信を持って毅然とした態度で答えていた。

 その甲斐あって当初騒ぎ立てていたほとんどの生徒達は凜への疑いを払拭して普段の生活へ戻っていったが、執拗に噂をながす特定の生徒は簡単には引き下がらなかった。

 騒動が始まってから2週間経つ頃、思いのほか凜にダメージを与えることが出来ない事に腹を立てた千和子と純は物理的な行動に出ることにした。

 二人はまず放課後の教室の様子を観察し、4時から5時の間はほぼ人の移動がなくなり、自由に行動ができることを調べた。そして、生徒会の行動も大方夕方の5時過ぎまでは生徒会室や職員室への移動が多くクラス教室には来ないことを知った。そのためその時間を狙って黒板に凜への誹謗中傷を書き、収束しつつある事態を再度蒸し返して凜に嫌がらせをする事にした。

 凜に男をとられた(と逆恨みしている)千和子は同じく凜にプライドを傷つけられた(と勝手に思っている)純と結託して、放課後、凜の教室の黒板に凜への悪口を書き鬱憤を晴らそうとした。千和子が書き担当で、純が見張り担当だった。千和子が黒板にびっしりと悪口を書き終わり純が教室へ入り内容を確認し眉を顰めながら一言。

「これはエグいな。さすがに引くレベルだぜ。マジ女子って怖いな」

 純は凜への悪意で溢れる黒板を見て、女の嫉妬深さの恐怖を感じるようにつぶやいた。

「何か文句あるの。あんな女もっと苦しめば良いのよ。いつも余裕そうに上から見下して、自分は人とは違うのよって感じの空気を出してマジむかつくわ。父親だって本当は法律違反する悪い政治家なんでしょ。私らが少し思い知らせた方が社会のためでしょ」

 千和子は自分の行いを世直しでもするかのように言った。

「まぁ確かにいつも余裕ぶっているところはマジむかつくよな。アイツのせいで俺はいつも学年2位の成績で、しかも生徒会選挙だって今まで男が生徒会長になる習わしだったのに調子に乗って立候補しやがって、おかげで俺は恥かかされてマジでウザいわ」

「そりゃ小林、あんたがあの女に単純に負けただけだけどね」

 千和子が純の逆恨みを鼻で笑うと、純がそれに言い返した。

「そう言うお前だって、振った野郎が悪いのに、直接は関係ない二階堂が恨まれるんだから女は怖いぜ。なぁ内藤よ」

「うるさいわね、前から鼻につく女だったのよ。ちょっと可愛くて勉強できるからって周りの男子達にちやほやされて。二年の時に同じクラスだったけどマジで早く違うクラスになりたいって思っていたわ」

「俺も一年の時に同じクラスで、小林君は頭が良いねって笑顔で言われたよ。自分より勉強できる奴に言われたら、どれだけむかつくか想像もつかないんだろよ。まぁいい気味だぜ」

 二人はこれまでの中学生活で溜めに溜めていた凜への不満を爆発させて、明日の学校でこの黒板を見た凜やクラスの連中がどんな反応を見せるかを想像して不気味な笑いを浮かべながら、足早に学校を後にした。

 二人の気配が完全に消えた事を確認した二郎は3年クラス教室のフロアにある男子トイレから姿を現し、凜の教室へ足を踏み入れた。そこで二郎は言葉では言い表せないほどの罵詈雑言が書かれた黒板を目の当たりにした。

「これは・・・・。あいつらクソだな。マジで」

 二郎は一秒でも早く黒板に書かれた文字を消そうと黒板消しを素早く動かしながら、凜を同情する感情よりも、この蛮行を行った二人への怒りと軽蔑の感情が燃え上がっている事に気がついた。

(これを二階堂先輩に見せるわけにはいかないし、何より二度とこんな事が出来ないようにあいつらを止めなきゃイケないよな。たしか小林と内藤って言っていたよな。少し調べてみるかな)

 二郎は心の中で静かにこの凜への嫌がらせを意地でも妨害することを一人静かに心に誓うのであった。 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品