青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その4 花火大会⑮ ~女三人寄れば姦しい~

     それそれがそれぞれの場所で花火の開始を待っているところで、未だそれが見つからず会場をさまよう少女がいた。それは剛からの告白を断り、胸のモヤモヤを晴らそうと二郎を探していた三佳だった。

 しばらく会場を見て回り二郎をようやく見つけたのは、ちょうど二郎と忍、そして四葉が三人で押し問答を繰り広げていたその時だった。

(あれは二郎君と忍?それと彼女は誰だろう。・・・忍がなんか叫んでいるけど。喧嘩?二郎君といるときはいつも忍は怒っているな。でもあの女の人どっかで見たような、誰だったかな?うーん。お、忍がこっち来る。どうしたんだろう。ていうか、二郎君はあの女の人と花火を見るって事なの。彼女なのかな?うーん、悩んでもしょうがないよね。忍に聞いてみよう)

 三佳は三人のやり取りを見て、二郎と隣にいる女性との関係が気になり、一人不機嫌そうに何かをつぶやいて歩いてくる忍に声を掛けた。

「忍、どうしたの。そんな顔して二郎君と喧嘩でもしたの」

 三佳の突然の登場に驚いた忍が、普段は見せない素っ頓狂な声で返事をした。

「ほえ、三佳!どうしてここに。と言うか、さっきのやり取りを見ていたの?」

 忍は先程の二郎と四葉とのやり取りを思い出して、恥じるように三佳を見つめた。

「うん、ちょうど私も偶然近くに来て、三人の様子を見ていたら何か声をかけづらくてさ。それよりも何があったの。二郎君、あんな美人なお姉さんと二人で行っちゃったけど、誰だったの。それに何を忍はそんなにエキサイトしていたのさ」

 三佳は先程見たままの様子から浮かぶ疑問を続けざまに忍に投げかけた。

「そんな一片に言われても困るよ。ちなみに三佳が言うお姉さんは私らと同級生みたいよ。私も信じられなかったけど、どうやら本当にウチの高校の2年みたいだわ。あんな子全然記憶に無いんだよね、未だに信じられないよ」

 忍は先程のやり取りを思い出し、納得できない様子で三佳に四葉の正体を話した。

「どういうこと。それじゃ、二郎君はウチの学校の同級生と花火を一緒に見る約束を別でしていたって事なの。その・・・二人は付き合っているのかな」

 三佳はモヤモヤから来る一番の心配事をためらいがちに尋ねた。

「正直あたしにも分からないけど、なんかやけに二郎が優しく接していてさ。仲良さげだったよ。でも、付き合っている感じでは無かったかな。偶然会場であったとも言っていたし、何だかよく分からないんだよね。まぁ良いけどさ、あんな奴!せっかく一人だと思って誘ってあげたのに、あっさり断るなんて二郎のくせに生意気でムカつく!」

 忍は今まで我慢してた二郎への怒りを抑えきれず、とうとう三佳の前で爆発させていた。

「そうなんだ。なんかよく分からないけど、大変だったね。お疲れ様」

「もう行こう、三佳。花火ももうすぐ始まっちゃうしあんな奴ほっとこうよ」

 忍がヤケクソになり、三佳の手を取って大和達がいる場所へ戻ろうとしたとき、二人の間から顔を出し、両手で二人の肩を押さえつけ今にも誰かを絞め殺しそうな鬼の形相で言った。

「貴方たちあのナンパ男と同じクラスだったわよね」

「「ひーっ」」

 忍と三佳はその声の方に悲鳴を上げながら顔を向けた。

 そこには二郎と途中で別れながらも早々に用事を済ませて戻ってきた凜がいた。

 凜はデートごっこの続きをしようと二郎の下へ行ったところ三佳と同じく忍が二人とやり取りしている様子を別のところから見ており、二郎と四葉のところへ怒鳴り込もうとしたが、流石に誰とも知らない女を連れている状況での突入はあまりにも非常識だと考え直し、事情を知り顔も見たことがある忍と三佳を捕まえて事情聴取しようと考えたのであった。

 「あなたバスケ部の成田さんと陸上部の馬場さんよね。二郎君とさっき話ししていたでしょ。あの泥棒猫は誰なの。知っていることを教えなさいな」

 凜は先輩である事を良いことに四葉の情報を聞き出そうと問い詰めた。

「ちょっともしかして、生徒会の二階堂先輩ですか」

 三佳が思い出したように確認すると、忍はあっとした顔で何かを思い出したように凜へ質問返しをした。

「二階堂先輩って、この浴衣!私が二郎に声を掛ける前に二郎とイチャついていた浴衣女と同じ格好じゃない。さっきの女は先輩だったって事ですか」

 忍の問い詰めに凜は値踏みするように忍に言い返した。

「あらあなた、そんなところから二郎君を見張っていたの。随分心配性みたいね。そうよ、私が二郎君とデートしていたのよ。それなのにちょっと目を離したらすぐに別の女と仲良さそうにして、どういうことなの。誰のなのよ、あの女は。私よりも年上っぽいけど、この短時間で一体どこで捕まえたって言うのよ」

 凜は二郎と四葉がいるであろう方向に向かって苦虫を噛むような表情で恨み節を言った。

「忍も二階堂先輩も落ち着いて下さい。何だかよくわかりませんが、確かなことは二郎君がとっかえひっかえ別の女の子とデートしているって事ですよね。・・・やっぱり二郎君ってモテるんだね。そりゃそうか、実は結構かっこいいし、分かりづらいけど優しいとこもあるもんね」

 三佳は忍と凜とは別の観点から二郎への思いをこぼしているとすかさず二人がツッコミを入れた。

「ちょっと三佳、何を言っているのよ、あんたは。あんなのいつもブツブツ文句言ってそのくせ、自分はやる気も無くいつもどこかフラフラしているはぐれモノだよ。アイツが格好良いなんて誰も思っちゃいないし、本当にただのバカだよ。一くらいしか相手にしてないから、私だってしょうがなく同じクラスで同じ部活のよしみでかまってあげているだけだよ」

「そうよ、いつもフラフラして地味でやる気のないあまのじゃくみたいな子よ。友達も一君くらしかいない寂し子だから私が面倒見てげてるのよ」

 二人は続けざまに三佳へ二郎の駄目さ加減を説明し、あくまで二郎を相手にしているのは自分だけだと言い張った。

「そうなの、そんなダメダメなら相手にせずほっとけば良いの。二人ともヤケに二郎君の事となると真剣じゃない」

「当たり前よ、飼い犬に噛まれて、他の女に尻尾振っていたら怒るでしょうよ」

「当然だよ、普段面倒見てあげている近所の子どもが、急に別の女のところへ行って私の事を忘れて遊んでいたら怒るでしょ」

 二人は負けじと言い張って三佳に怒りをぶつけて、いかに自分が二郎に文句を言う権利があるかをこれでもかと主張するのであった。

 しばらくあれこれと二郎に文句を言った二人はままあって、話しを戻し四葉の正体の話しになった。

「それで結局、あの女は誰なのよ。成田さんは直接話しをしたんでしょ。どうだったの」
 
 凜が再度尋ねたところ、忍がめんどくさそうに答えた。

「ですから、彼女はあたしらと同じ学校に通う高校2年の女子高生ですって。あたしも初めは信じられなかったですけど、どうやら2年4組の生徒らしいですよ。偶然さっき会場で会って、お互い一人だったから一緒に花火を見る約束をしたらしいです。それであたしの誘いを断って、二人で仲良くラムネ飲んでいるって事です」

「嘘でしょ、ウチの高校の生徒でしかも私より年下なんて信じられないわ」

「いや、本当みたいです。私や三佳の事を知っていました。学校の有名人くらいは知っているって言ってました」

 二人の会話を聞き改めて三佳が四葉の事を思い出しつぶやた。

「私どっかで見たことがある気がするんだよね。さっきの人。誰だっけな。忍、名前とか聞かなかったの」

「名前は確か『ユウキ』とか『ユウカ』とかそんなだった気がするわ」

 忍は四葉との会話を思い出しながら、自信なさげに答えた。

「結城って子なら、確か一年の時から学力テストに毎回5位以内に入っている子がいたと思うわ。優秀な生徒の名前は生徒会にも情報が入ってくるから確かなはずよ」

 凜がこれまでのプライベートモードから生徒会モードの真面目な声で忍の曖昧な言葉に確信を与えるように情報を追加した。

「学年5位の勉強の出来る結城さん?まさか、それって四葉っちの事じゃないよね」

 三佳は一年の頃にテストの赤点危機を救ってもらった縁で四葉と友人関係にあったが、学校でメガネ、マスク、前髪おろしの四葉しか思い浮かばなかった。しかし、勉強の出来る結城という点から四葉の名字が結城だったと思い出し、二郎の隣にいる綺麗なお姉さん風の人物と自分の記憶とを照らし合わせて、背丈や目元が似ているような気がしてきていた。

「そうだ、確か結城四葉って言っていたわ。三佳はその子のこと知っているの」

「クラスは違っていたけど、一年の時に勉強を教えてもらって、確か凄く勉強が出来るって誰かが言っていて、それで今年のエリカみたいに助けを求めて教えてもらったんだもん」

「という事は彼女は本当にウチの高校の2年生って事なのね。なら何でそんな子が二郎君と一緒にいるのよ。どういうことなのよ」

 三人は四葉の正体をようやく突き止めたが、結局二郎との関係については誰も分からないまま凜の事情聴取は終了した。

「あーもう良いわ。アイツの事なんてほっといて私らもシートの場所に戻って花火を皆で見ようよ」

 忍がウンザリしたような顔で提案した。

「そうだね、これ以上の詮索は二人に悪いし私らは私らで楽しもうよ。二階堂先輩は生徒会の方に行きますか」

「いえ、私も皆のところに混ぜてもらおうかしらね。どうせ、藤堂くんとほのかが二人でラブラブしているだろうし、一君とか宮森さんも多分空気を読んでそっちに移動していると思うから私もそっちに参加させてもらうわ。それにリア充どもの姿なんて見たくもないからね!リア充どもは地獄さ落ちろ!」

 凜の今日一番の捨て台詞に二人は無言で頷き、3人は大和達3人が仲良く沈んでいる場所に向かうのであった。

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