青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その1 ペンギンランド⑧

 お土産組の5人と別行動の絶叫組の3人はのんきに今日一日の反省会を行っていた。

「ねぇ、私たちなんだかんだで空気読んですみれのアシストがちゃんと出来ていたよね」

「まぁ、それなりに邪魔せず二人の時間は作れたんじゃないか」

「そうね、アシカショーの時も隣に座って楽しそうに話していたし、それなりに収穫はあったんじゃないの」

 三佳、二郎、忍は外野のメンバーの役割をこなせたと自画自賛しながら、今日一日を締めくくりだと残りの時間を自由に楽しむことにした。

 一方で、土産屋に入った5人は自然とエリカと拓実ペア、剛、すみれ、一の三人組に分かれていた。さらに空気を読んだ一は早々にお土産を買い、店の前のベンチで休憩すると言って店の外へ出て行った。

 一が外へ出て行くのを見ていたエリカと拓実は剛とすみれの様子を見ながら、絶叫組の3人と同じく今日の反省会をしていた。

「拓実、今日はありがとうね。最初から最後まで気を使って盛り上げてくれて。私、初めのジェットコースターから全然使い物にならなくてごめんね」

「そんなことないよ、エリカは今日の集まりを実現するまでに色々動いてくれたわけだし、ダブルデートになっていたかもしれないと思えば十分助けてもらったよ」

「そうなら良いけど。でも、ありがとう本当に。すみれも一日、剛と一杯話せて満足していると思うし、こうやって二人の姿を見てもなかなかお似合いな感じするしね」

「まぁ剛には悪いけど、このまま二人がうまくいくのも案外悪くないかもね」

 拓実もエリカも剛の気持ちを考えながらも、一番平和に収まりそうな状況になったことに安堵するように話した。

「そうだね、ちょっと剛にはかわいそうだけど今日は拓実ともずっと一緒に居られたから、剛には感謝しなきゃ駄目だね」

「そうだな、俺もエリカと回れて楽しかったぞ。それに遅くなったけど、今日のエリカは、なんていうか、いつもより可愛いと思うぞ。俺はそういう服装も好きだな」
 
 拓実は今日一日のプレッシャーから解放された勢いで、今日言えずにいたエリカへの褒め言葉を少し照れながらもはっきりと伝えた。

「ふふ、ありがとう。拓実。今度は二人でどこか行きたいね」
 
 エリカは言葉では平静を保ちながらも、顔を真っ赤にさせながら嬉しそうに拓実に言った。

「うん、そうしよう」

 親友の剛の恋の行方を心配する二人だったが、途中から反省会なのか、ただののろけ話なのか分からない会話をしながら、今日一日の目的をなんとか果たせたとホッと一息つく二人だった。

 そんなことを他のメンバーが話している頃、すみれは剛に今日の感謝を伝えようと話しかけていた。

「剛君、今日は参加させてもらってありがとね。私凄く楽しかったよ」

「そっか。そりゃ安心したよ。正直一年の頃同じクラスでもあまり話さなくて、すみれの事よく知らなかったし、2年になってからはもっとハキハキして元気なイメージあったのに、午前中とかスゴイおどおどしていて大丈夫かなって心配したよ」

 剛は朝から接して感じていた事を素直にすみれに伝えた。

「ごめんね、気を遣わせちゃったよね。少し緊張していて。ホントにごめんね」

「そんな謝らなくて大丈夫だよ。今はこうして普通に話せるしさ。あのままだったらちょっと仲良くできるか微妙だったけど、もう大丈夫でしょ」

「うん、そうだね。あんなの私じゃないよね。ごめんね。もういつもの私だから気にしなくて大丈夫だから」

 すみれは剛の言葉に含みのある笑顔で返事をした。

「そりゃ良かったわ。俺らもお土産買っちゃおうよ。おーい、拓実、なんか良いもの見つかったか」

 剛はそのままエリカと拓実達と合流して買い物を始めていた。

 すみれも買い物を切り上げると、外で一人ベンチに座る一の姿を見つけそこに向かった。

「お疲れ様、一君」

「おお、すーみんか、買い物はもう良いのか」

「うん、もう買ったから私も少し休憩かな」

「なんだ、せっかくつよぽんと二人でいられるんだから、もっと一緒にいれば良かったのに」

「うん、そうかもね。・・・でも。もう良いんだ」

「なんだ、どうした。少し疲れたか。午後は調子を取り戻して楽しそうにしていたのに、またしょんぼりすーみんに戻っちゃったか」

 一はすみれの様子が少しおかしいと感じ、冗談混じりに明るく言った。

「そんなことないけど、だめかな。やっぱり私が大人しいとおかしいかな」

 すみれは剛の言葉を思い出しながら、俯きながら一に問いかけた。

「いや別にそんなことないけど。俺はしおらしいしょんぼりすーみんも、ハキハキした元気なすーみんも可愛いと思うよ。ギャップ萌特性の俺にはご褒美だな。ははは」

 沈む表情のすみれを元気づけようと一がボケるように言った。

「何よ、ギャップ萌って、変なこと言って笑わせないでよね」

 すみれは一のマニアックな趣向の言葉に思わずこみ上げる笑いを抑えながらツッコミを入れた。

「ごめんごめん。でも、やっぱりいいわ。その弱気な姿からきつめのツッコミを入れちゃうところがまさにギャップがあって素晴らしいです。はい」

「もう、バカなことばかり言って。・・・でも。ありがとうね。そうやってどんなことも受け止めてくれる一君は本当に優しいね」

「いやぁ、これは俺のただの趣味みたいなものだし、いわゆるツンデレ属性のアイドルとかが好きなだけでたいしたもんじゃないからさ。ははは」

 一は右手を頭の後ろに添えながらわざとらしく大きな口を開けながら笑うように自身の変わった趣向について説明した。

「さらっと凄いことぶっちゃけているけど大丈夫?でも、さっき剛君と話てるとき、今日の朝みたいにおどおど元気がなかったこと心配してくれたみたいで、もう大丈夫かって聞いてくれたの」

「おお、さすがつよぽん、できる男は違うね」

「でも、もう大丈夫だって話したら、あのままだったら仲良くなれるか心配だったから安心したって言われてね。そりゃそうだろうって思ったけど。今まさに一君がおとなしい私でも、しっかりした私でもどちらも可愛いって言ってくれたことを思うと、やっぱり一君みたいには受け入れてくれないんだなって実感してさ」

 すみれは剛の言葉に何かを悟ったように正直な気持ちを吐露した。

「いや、まぁ男が全員、俺みたいにツンデレ属性な訳ではないし、厳密にはツンデレと言うよりヤンデレ、いやデレても病んでもないからこれも違うか。なんだろう、よくわからないけど俺みたいな奴がおかしくて、剛が普通の反応だと思うけどな」

 一は雲色が悪いすみれの剛への評価を覆そうと自分を悪い例だと話した。

「そうかもしれないけど、それが普通なのかも知れないけど、私は一君が言ってくれた言葉が嬉しかったの」

 すみれは一の顔を真っ直ぐ見つめて押さえきれない気持ちを言うようにはっきりと言った。

「そうか、そりゃどういたしまして」

「さっきだってわざと二人にするためにすぐに店を出たでしょ。お昼前だって周りの動きを見て、私が剛君と一緒になれるように立ち回ってくれ。私を元気づけようと何度も声を掛けてくれて。本当に一君はいい人過ぎるよ。それに比べて剛君は自分が格好つけようとばかりしている気がするし、今日色々話をしてみてどうして彼の事を好きになったのかわからなくなっちゃったよ」

「え、でも、一年の頃から剛の事が好きだったんじゃないのか」
 
 一はすみれの突然の言葉に驚きながらも、忍から聞いていた情報を確認しようとした。

「たぶんあの時は周りの子が誰を好きとか、誰が告白したとか聞いて、それに焦って、同じクラスのサッカー部でイケメンだった剛君を好きになっただけで、多分恋に恋してただけなのかもしれない。だって、誰が好きとかそういうこと正直よくわからなくて、なんとなくそう自分に思い込ませていただけで、剛君のことを知ろうともせずに遠くから見てるだけで満足だったのかもしれないわ。だから、今日初めてちゃんと話して、彼のことを近くで見てわかったの。私は剛君の事が本気で好きじゃないわ」

 すみれは今日一日感じた事を、そして今まで自分自身が抱えていたモヤモヤを爆発させるように一気に言葉を捲し立てた。

「マジか、そうなんだな。とりあいずすーみんの気持ちはわかった。このことは他の女子達は知っているのか」

「知るわけないよ。だって今一君と話をしていて気づいたんだもん」

「そうだよな、そうか。まぁなんだ、すーみんはかわいいし、しっかりしてるから他の男子たちもほっとかないし、そのうち本当に好きな奴もできるから大丈夫だよ」

 一はどうしたらよいか分からず月並みな言葉ですみれを落ち着かせようとした。

「好きな人ならもう見つかったから安心して」

「そう・・・なのか、そりゃずいぶんお早いことで。まさか俺の事を好きになっちゃったかな。なんてな、そんなわけないよな。ははは」

「そのまさかだよ。・・・・好きになっちゃたよ、君の事」

「・・・・」

 一は冗談で言ったことが、現実となりあまりの急展開に絶句した。

「私、一君のことが好きみたい!」

 すみれは誤解しようもない言葉で再び一に告白した。

「え、えーーーーっ」

「えーだよね。びっくりするよね、本当に」

「おおそうか、うーん、そうなのか、いあや、まぁ、えーっと、その、うん、まぁあれだ。とりあいず、ありがとう。でも、まだ焦る時間じゃない。一度落ち着こう。ね、落ち着きましょう。あれだ、今日はテンション上がってて、勢いとかシチュエーションとか相まって、色々と混乱していると思うから、一度時間をおいて考え直してみるのはどうだろうか」

 一はまずお前が一番落ち着けと言いたくなるような狼狽っぷりをみせながら、なんとかこの場を落ち着かせようと自分に言い聞かせるように言った。

「そう、私は不思議と冷静で凄く頭がクリアだけど、確かにいきなりこんなこと言われたら一君が困るよね。私もこんなこと言うつもりなかったのに思わず言っちゃったしね」

 すみれは恐ろしいほどに冷静な口調で今の状況を語った。

「わかった。とりあえずこのことは二人の秘密にしよう。剛の事を好きじゃなくなったことだけでも皆びっくりするだろうけど、それでいきなり俺を好きになったなんて話したら処理仕切れないだろうし、何より和を大事にしたい俺としてはこのカオス状態に頭がついていけないです」

 一はお手上げ状態ですみれにこの話を秘密にしようと持ちかけた。

「わかったわ。私も朝からモヤモヤして緊張状態にあったのが、一君に話を聞いてもらったことですっきりしちゃって、思わずいきなり凄いことに言ってしまったところもあるから、これは二人の秘密ということでいいよ」

「そうしてくれると助かるよ」

「じゃ、約束の指切りしよ」

「え、おぉわかった、指切りな」

 こうして二人はお互いの小指を交わし、今この場で起きた事を二人の秘密にすることを約束した。

 今日一日のデートプランを完遂し納得いく結果が得られたと一安心していた他の6人が思いもしないところで、ジェットコースターのような急転直下のアクロバティックな恋の始まりが最後の最後に告げられるのであった。

 ちなみに絶叫組の3人はそんことつゆも知らずにジェットコースターに連続で4回も乗ったため、帰りの電車の中で仲良く3人魂を抜かれたように眠りこけ、電車に揺られていたのであった。

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