青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その1 ペンギンランド➄

 ようやく順番が来て、ジェットコースターを乗り終えた8人の表情は明暗がくっきり分かれていた。

 テンションMAXでスキップしながら出てきた三佳と、互いに感想を言って楽しそうに出てきた二郎と忍。それから若干疲れている剛に、ヘロヘロになっているエリカとすみれを支えて出てきた拓実と一であった。

「イヤー想像以上に楽しかったわ!あとでまた乗りたいなぁ」

「ホント怖かったけど最高だった。あとでまた乗ろうよ、二郎君に忍も」

「あたしも初めてだったけど気に入ったよ、さすが一番人気のアトラクションだわ」

 二郎、三佳、忍の元気な3人が出口付近で話していると、残りのメンバーがゆっくりと出てきた。

「大丈夫か、一達は」

「俺と拓っくんは問題ないわ。エリーとすーみんがちょいとヘロヘロ状態だわ。つよぽんは大丈夫か」

「俺もなんとか大丈夫だ。二人がこんな状態だし、次はもう少し平和な奴でも乗ろうよ」

 このとき剛は後悔していた。小さいときによく絶叫系に乗っていて得意な記憶があったが、久しぶりに遊園地に来てそれが記憶違いだったと気がついた。遊園地は好きでも絶叫系には全然乗っていなかったようだ。そりゃそうだった。自分が来ていたのは幼稚園の頃であり、まだ身長制限の関係で乗れない歳だったからだ。    

 そのためあまり自分が絶叫系を得意ではないところを三佳に知られる事をカッコ悪いと思い、絶叫系には乗らないように話を進めようと考えるのであった。

 それから3つほどアトラクションに乗って、少し休憩することにした。

「次はそろそろあれに行こうよ」

 空気の読めない三佳があるアトラクションを指さした。それは園内の入場口から一番奥にあるいわゆるフリーホールと呼ばれる椅子に座ってそれがタワーに沿って真上に上がっていき、一定の高さになるとストンと落下するジェットコースターとは違った部類の絶叫系アトラクションだった。ジェットコースターよりも苦手な人も多く、ジェットコースターには乗れても、これだけは死んでも乗りたくないといわれる代物だった。

 それを見たすみれとエリカは白目となり、剛はゆっくりと天を仰いだ。

 その状況に反応したのが拓実と二郎だった。二人はアイコンタクトでお互いの考えを一瞬で理解した。

「エリカ大丈夫か、無理そうならここで休憩していても大丈夫だぞ」

 拓実がエリカを気遣い声を掛けた。

「そうだね、私はここで待っているよ。すみれも大丈夫?」

「えっと私はどうしよう・・」

 すみれが答えに迷っていると、二郎がすみれの答えを待たずに言った。

「そんじゃ、俺らの荷物を見といてくれよ。頼むぜ」

「私もお願い」

「それじゃ、あたしもよろしく」

 二郎に続き三佳と忍も荷物を置いて早速次のアトラクションへ走って行った。

「まったく、思いっきり満喫しやがって、あいつら。つよぽん、悪いんだけど、すーみんもあまり得意じゃないし、ここでエリーと拓っくんと4人で留守番していてくれないか。俺も荷物を置いていくから見ていてほしいんだ」

「OK,わかったよ」

「すまんね、助かるよ。俺はあのテンションMAXの3人組の監視をしてくるから。それじゃ、拓っくんもよろしく」

 一が状況を理解して、剛に荷物を預けて、4人で留守番することを頼み、最後にすみれに小声で耳打ちした。

「すーみんも、がんばれよ」

 その後、一は無駄に全力疾走で姿を消した3人を追いかけた。



 先に分かれ走りだしていた3人だったが、残りのメンツの姿が見えなくなると歩調をゆるめていた。

「二郎君って優しいところあるんだね。わざとグループが分かれるようにしたでしょ。忍から話は聞いたの」

 三佳が今の一連の動きに何かを感じたのか二郎に確認するように話しかけた。

「うん、あぁまぁ概要だけはな」

「それじゃ、すみれのためにつよぽんと話せる時間を作ってあげたんでしょ。やっぱり優しいじゃん、このこの」

「やっぱりそうだったの。二郎にしてはやけにテンション高いし、ぶっちゃけ今日もなんとなく来たと思ってたから、変だなと思ってたのよ」

 三佳が二郎の意外な気配りを茶化すように褒め、忍がこれまた意外そうに二郎の行動を怪しんでいたことを伝えた。

「いや、まぁ、なんつうか、女子も大変だなって思ってさ。ぶっちゃけ三佳はさ、剛の事なんてなんとも思ってないんだろう。それなのに今日この場を作ったのは、すみれの為もあるけど、いろいろ面倒事になるのが嫌だったんだろ、たぶん。お前モテるし、なんだかんだ言ってそのせいでいろいろ苦労しているみたいだしな。まぁ半分は三佳がアホだから自業自得の面もあるんだろうけどさ」

 二郎が三佳の勘違いを正すように、それでいてはっきりとは言わずに三佳へ気遣いを見せた。

「二郎、さすがにアホはかわいそうでしょ。確かに少し付き合ってみれば三佳がアレなのはすぐわかるし、二郎の言いたいこともわかるけど」

「ちょっとアレって何よ。私はいつも誰とでもフラットに、そしてフランクに接しているつもりだよ」

「それが原因だって言ってんだよ、バカタレ。お前にみたいに可愛いくて、それでいて人懐っこい女子がいたら、バカな男子なんて2秒で自分の事が好きなんじゃないかって勘違いするもんなんだよ」

 二郎は普段誰もが言えそうで言えなかった三佳の振る舞いへの指摘を躊躇なく言った。

「だって、・・・それは私が悪いのかな」

「別に悪くないけど、それで自分の首を絞めてるんだから世話ないだろ」

「でも、だったらどうしたらいいのかな、私は・・」

 普段は滅多に見せない落ち込んだ表情で三佳がつぶやくように言った。

「まぁ俺が決めることではないけど、今回だって剛が三佳に気があってデートに誘ったんだろう。それでその剛はすみれの片思いの相手で、もし剛がお前に告って、まぁ振られるわな。そしたらお前の立場はどうすんだよ。クラスもめんどくさいことになるだろ。だから、珍しく忍も俺らを誘ってそういう感じにならないようにしてくれたんじゃないのか、なぁ忍さんよ」

 二郎は三佳の置かれた状況を説明し、それが三佳の普段の振る舞いが少なからず影響していることを言い当てた。

「はぁ、全く二郎のくせに良く状況がわかってるじゃない。三佳よく聞いて、今の二郎の見解がほぼ当たりだと思うよ。今のクラスの環境があたしは嫌いじゃないし、それを作っているのはすみれとエリカ、それに三佳の3人が仲良く平和にやってるおかげで、うまく女子達のバランスがとれていているのよ。もしこれが崩れると今まで三佳に嫉妬してた女子とかが色々してくるかもしれないし、それで面倒事に巻き込まれるのはあたしは勘弁だよ」

 忍も二郎に便乗して今日参加した経緯を説明しながら三佳の置かれている状況を言って聞かせた。

「まぁ俺も忍の考えに同意だよ。これは一もわかっていて、いろいろ気を遣ってはいるけど、あいつはああいう奴だから誰にでも公平に接する分、表だってすみれを援護しづらいだろうから、俺が今回は動いたって事だわ」

「そうだったの、私てっきりすみれの応援の為にみんないろいろやっていたのかと思ってたわ。でも、私を守るために色々考えてくれていたなんてありがとう」

「勘違いすんなって、俺は俺の平穏のために動いただけだ。感謝するなら忍にしな」

「全く素直じゃないんだから二郎は」

「ありがとうね、忍、それとやっぱり二郎君も」

 三佳はなんだかんだ言って自分を心配してくれたことに改めて感謝を伝えた。

 一が3人に追いついたのは、そんなやりとりが終わった直後だった。

 それから4人はフリーホールの急落下バージョンと急上昇バージョンの2つに乗り、さらに少し小さめのジェトコースターに乗って、絶叫系アトラクション3連発を堪能していた。もともと体育会の忍と三佳、久しぶりの遊園地で実は普通にテンションが上がっていた一と二郎は存分に満喫していた。それは端から見たら仲の良いダブルデートのような光景だった。

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