青春クロスロード

Ryosuke

夏休み その1 ペンギンランド③

 一通り自己紹介が終わるとちょうど8人はメイン広場に到着した。

 ここには休憩用のベンチやテーブルがあり、さらには土産屋やフードコートがあった。昼休憩はここで食事になるだろう。それからすぐ近くには定番のメリーゴーランドにコーヒーカップ、あとはマスコットキャラのペンギンの【ペンぞう】と【ペンタ子ちゃん】の大きな人形があり、ここで記念写真を撮るのが、ペンギンランドに来た人の定番となっていた。

「やっぱり人気のアトラクションは固まらずに方々に散らばっているわね」

「このメイン広場から左手には観覧車が、正面奥には目玉のジェットコースターが、さらに右手の奥の方には他にもたくさんアトラクションがあるみたいだね。どれから行こうか」

 すみれとエリカが場内パンフレットを見ながら、皆に回る順番を聞くと一が答えた。

「ここはやっぱり人気のジェットコースターだろ。工藤がせっかくチケットを取ってくれて早く入れたんだから、行列ができる前に乗った方が他のモノもたくさん回れると思うぞ」

「一の言うとおりだな」

「私もこれ乗るのが楽しみだったんだよね」

 二郎と三佳が一に賛成したのを聞き、剛は皆の顔を見渡した。

 拓実はエリカとすみれに大丈夫と聞くと

「私はOkだよ」とエリカが、

「私がんばる」と小さな声ですみれが答えた。

 拓実が剛に目配せをして一の提案に了解だと頷き、8人はジェットコースターに向かうことにした。

 ジェットコースター受付前では30人ほどが列に並んでおり、10分くらい並べば乗れる状況だった。

 そして第一難関がやってきた。誰が誰の隣に乗るかである。この列の並びが、つまりはジェットコースターに乗るときの席順になるため、誰もが一瞬ためらったところ、空気の読めない三佳が真っ先に列に向かい走り出した。

「私、一番!!」

 一瞬時間が止まったかのように、エリカと拓実が足を止めた。つられて後ろのすみれと忍、二郎、一も足を止めたが、剛だけは三佳が横をすり抜けていくのに反応して、他の皆からは足が1,2歩前に出ていた。

「おおう、それじゃ俺が2番だ」

 剛は労せず三佳の隣の席をゲットすることになった。そのあとに2列で拓実とエリカ、すみれと一、忍と二郎の順で列に並ぶことになった。

 太陽が南に登り始めた9時30分過ぎ、気温も徐々に上がり当日券の入場者が増え始め、ジェットコースターの乗客の絶叫が響き渡る園内も活気付き始めるそんな時間だった。

 二郎は慌ただしい朝の流れからようやく一息つきながら列に並び、今日この場に参加したメンバーを観察し始めた。

 まず最初に目に入ったのは隣の忍だった。

 今日の忍は黒のコンバースに白い無地のTシャツと白黒のギンガムチェックの足首が見える程度のロングスカートを合わせ、黒いキャップを付けた黒い小さなショルダーバッグを身につけていた。モノトーンで落ち着いたコーデがいつもの忍っぽさを見せていたが、意外にも私服でスカートを履いている忍に目を奪われた二郎が無意識につぶやいていた。

「なんか今日の忍は女子っぽいな」

「何言ってるの。あたしは誰がどう見ても女子だっての。可愛いと思うなら素直に褒めなさいよね。バカ!」

「いや、可愛いとは一言も言ってないぞ」

「あんたは・・・・・・」

 忍が小声であーだこーだ言っているのを流しつつ二郎はグループの先頭に並ぶ三佳に目を向けた。

 三佳はイメージ通りの格好だった。陸上で引き締まった太ももが露わとなっているデニムのショートパンツに、英語で【Are  You Happy ?】とロゴの入った白いTシャツを合わせ、グレーのメッシュの入ったキャプにトレードマークのポニーテールの髪型。さらにどこで見つけたのか人目につく黄色のスニーカーを履き、小さなリュックを背負っていた。その姿はデートというよりは完全に女友達と遊園地ではしゃぐためのスタイルだった。

(あいつはブレないな)

 二郎が三佳のファッションチェックを終えると次は拓実の隣に並ぶエリカに視線を移した。

 エリカは忍や三佳とは180度真逆のスタイルだった。色鮮やかな膝丈の青いスカートにゆるフワな生地の白襟付きの水色の半袖シャツに動き易さも考慮に入れたぺたんこな黒いサンダルを履き、小さなバッグを持ったキレイ目ゆるふわガーリーコーデだった。やはり想い人の拓実が居るためか、動き回る遊園地とはいえ、かわいさを重視したスタイルだった。

(委員長もなかなかだな)

 二郎がうんうんとエリカを眺めていると忍が怪訝そうに二郎に小声で問いかけた。

「あんた、何を怪しい目つきでエリカを見てんのよ」

「別に怪しくねぇわ。恒例のジローズチェックだよ。意外と俺は人の観察が好きでな。ついつい普段見せない格好をしていると気になるんだわ」

「何それ、だたの女好きの変態じゃないの」

「そんなんじゃないわ。人のファッションはその人の気持ちや感情が見て取れるから面白いんだよ」

 二郎が忍を諭すように持論を展開した。

「それじゃ、どんな感情が見て取れのさ、解説してみなさいよ」
 
 忍がアナウンサーのように二郎の口元に握りこぶしを作り言葉を待った。

「まぁ、そうだな。まず、一番前のハッピータウンだけど、完全に遊園地満喫モードで一日遊び回る気全開で、デートのデの字も連想させないパーフェクトな遊びスタイルだな。85点ってところか。俺は好きな格好だけど、隣の工藤がかわいそうになるくらい色気が無いわな」

「ハッピータウンって三佳のこと。まぁ言いたいことはなんとなく分かるけどさ。うん、たぶん当たっているわ。三佳はこのデートの主役にはなる気が無いから、男子の目は気にせず遊びモードで今日一日を過ごすつもりだよ」

「なるほどね。次に委員長だが、あれは服部に惚れているだろ。どう見ても隣の服部の目を引きたくて精一杯可愛くしてきたって感じだわ。でも、遊園地ってのもあって団体で動き回ることも考えて歩きやすいサンダルを選ぶところはさすが委員長だよな。95点だな。俺の好みでは無いけど、完璧に近いデートスタイルだな」

「随分上から目線ね。あたしもあんな可愛い格好してみたわ、ホント。それで次は」

「あぁ、あれは解説不要だろ。完全なる戦闘モード。意中の相手を振り向かせたい乙女100%スタイルだな。気持ちは分かるがジェットコースターどうすんだろうな、下手したら下着も丸見えになるけど、大丈夫なのかあれは。海にでも行くつもりなのかね。まぁ75点だな。見てて心配になるわ」

「あれはもう気合でしょ。どうにか裾を押さえて、乗るしか無いわね。かわいさと危うさは隣り合わせなのよ。それで私はどうなのよ」

 忍が3人の採点を終えた二郎に自分の評価をにらむように尋ねた。

「え、いやー採点不能だな。普段のお前からは想像できなさすぎてジローズチェックもお手上げだわ」

「何よ、偉そうに3人の評価はしてたくせに、せめて点数くらい付けなさいよ」

「えー、でも怒るだろ、お前。殴るなよ」

「あんたが殴られるような点数付けなきゃ良いのよ。バカ」

「え、そんじゃ、まぁあれだ。バスケ部の身内ってことで、90点でいいよ」

「何、おまけで90点てこと。バカ、ホントは何点なのよ、こら」

 なんだかんだ言いながら忍に高得点をつける二郎に、口では文句を言いながら少しまんざらでも無い様子の忍であった。

 二郎と忍があれこれと話しているすみれの姿といえば、全身白のロングワンピースに、夏の定番の涼しげな麦わら帽子とかごバッグ、それにヒールが控えめで水色の止めヒモが可愛いサンダルを履いていた。さすがにウエストラインはタイトになったモノだったが、強い風を受ければ全部脱げてしまいそうなそんな勝負スタイルだった。

 すみれからすればかわいさ全振りの格好で、二郎の言うように遊園地にくる服装には合わないことも百も承知の攻めのスタイルであり、勝負を決める気満々で今日この日を迎えていた。

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