スパイの毒はラブコメに効かない〜完結済み〜

青篝

強者のオーラ

景気よく初戦を勝利した
2年2組のエリート組は、
その後の試合でも猛威を振るい、
優勝候補の一つと呼ばれていた
3年1組のエリート組を
45対39の接戦を制して倒した。
試合開始時には夜六のジャンプボール、
要所要所で夏八の3Pシュート。
転校してきてからまだ日が浅く、
名前すら知られていなかった二人は
この球技大会で見事に活躍していた。
そして、迎えた昼休み。
食堂にて腹ごしらえをしていた。

「やっぱ二人とも、バスケ部入ろうぜ?」

カツ丼を食べながら、
作戦会議でもするのかと思いきや
近藤はそんなことを言ってくる。
しかし、夜六と夏八の返答は
前と全く変わらない。

「嫌よ」

「断る」

「そんな即答しなくても……」

ガックリと肩を落とす近藤だが、
すかさず難波がフォローに入る。

「まっ、今日手伝ってくれるだけで
良しとしようや。
無理強いするのはよくないからな」

「そうは言ってもよぉ…」

うだうだと話をしながら
カツ丼を完食して、
優勝したら何を要求するかと
難波達は盛り上がっていた。
優勝するにはあと2回の白星を
取らなければならないが、
彼らは楽しそうだった。
そこに、ある人物が現れる。

「おいおい、随分楽しそうだな」

「げっ、その声は」

背中を向けていた夜六は、
声の主を見ようと振り返える。
そこには、かなり背の高い男がいた。
難波と近藤の2人は
声を聞いただけで分かったらしく、
恨めしそうに振り返える。

「げっ、とは失礼だな。
俺はお前らの先輩だぞ?」

若干のハスキーボイス。
確かに耳に残る声をしている。
しかし、この男の存在感は
それだけではないとすぐに分かる。
190cm近い長身、長い手足、
引き締まった筋肉、鋭い眼光、
そして全身から放つ強者のオーラ。
名前を荒井鏡助きょうすけ
彼こそ今のバスケ部の部長で
将来有望の絶対的エースだ。
彼のいる3年3組のエリート組に、
夜六のクラスの別のチームは
4対67というスコアで負けている。
今日の球技大会の最有力優勝候補だ。

「まぁ別にいいけど。
試合しても俺らが勝つし」

「へっ!言ってられるのも今だけっすよ。
俺らのとこには
最強の助っ人が二人もいるんで」

「最強…ね」

と、荒井は夜六と夏八を見る。
滲み出る強者のオーラと
値踏みするような眼差し。
夜六と夏八には分かる。
こいつは本物だと。
午前中に荒井の出ていた試合を見て
難波と近藤は言っていた。

「あの人はマジの化け物だ」と。

荒井はその試合では
あまり前に出ずに守備に徹していたが、
ここまでの3試合で荒井が
相手に与えた点数の合計は驚異の11点だ。
公式試合での個人の得点の最高記録も
74点と人間の域ではない。
正直、どこからどこまでか
本当の話なのかと疑った。
しかし、今ここで対峙して分かった。
荒井は『本物』だけが纏うことのできる
『強者のオーラ』を持っている。
このオーラを例えるなら、
そう、獣がしっくりくる。
いかなる生物図の頂点に立ち、
決しておごることのない気高い精神。
過去にも似たような
『オーラ』を持つ者を
夜六と夏八は見たことがあるが、
荒井はまた違った雰囲気がある。
どこまでも真っ直ぐで、
悪意や敵対心を感じない、
純粋な心を持っている。

「君らの試合も見たけど、
正直俺らの敵じゃないかな。
…あのジャンプボールも、もう見切ったし」

それを聞いて、夜六は驚いた。
見られていたとはいえ、
まさかあのカラクリに気付くなんて。
やはり、荒井は只者では無い。
分析力も対したものである。

「じゃ、またね。
君らが来られるか分からないけど、
当たるとしたら決勝だ。
その時は、叩き潰してあげるよ。
来れたら、の話だけどね」

バスケットボールを
片手で持てそうな程の手を
ヒラヒラと振って、
荒井は夜六達から離れていった。
荒井のチームは既に、
決勝へと駒を進めている。
夜六達と当たるチームが決定して、
そのチームと夜六達が戦い、
勝った方が決勝に臨む。
既に決勝戦に進むのが
決まっているとはいっても、
あのような態度は癪に触る。
その姿が見えなくなると、
テーブルが熱くなっているのを感じる。
目線を上げれば、
難波や近藤からメラメラと
炎が燃え盛っていた。

「…お前ら、次の試合勝って、
あの半端イケメン野郎を
木っ端微塵にしてやろうぜ…!」

あの荒井の態度で、
彼らは火がついたらしい。
女子である石田と岡崎も同様に
闘志を燃やしているようだが、
夜六が意外に思ったのは、
夜六の向かいに座っている
夏八が静かに燃えていることだ。
ああ、そういえばそうだ。
夏八はプライドが高く、
あんな勝ち気は態度を見せられると
殺してしまいそうになるのだった。
ともあれやる気があるのはいいことだ。
腹も満たされたし、
さっさと体育館に戻って
作戦会議でもしようか。

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