じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

10-1 光明

10-1 光明

「メイフライヘイズ!ファイアフライ!」

やけっぱちになったウィルは、自分が撃てる魔法を片っ端から試している。効果がないとわかっていても、じっとしてはいられないんだろう。そんなウィルをあざ笑うかのように、マンティコアは攻撃の手を緩めない。

「ゲラララララ!」

「黙りなさぁぁぁぁい!フレーミング、バルサム!」

ウィルの杖から、バチバチとはじける火花が飛び散った。見かけは派手だが、威力はほとんどない、こけおどしの魔法だ。もちろん、それはウィルも百も承知なんだろう。そんな魔法が、怪物に効くはずも……

「ギギャ!?」

え?今、一瞬……ほんの一瞬だが、マンティコアが、ひるんだ……?だがそれも刹那で、すぐに激しい攻撃が再開される。けど、見間違いじゃない。俺ははっきり見た。

「どういうことだ……?」

今まであの化け物は、ウィルの魔法を全く意に介さなかった。超高温のトリコデルマも、蜃気楼を見せるメイフライヘイズも……それなのに、ただのこけおどしのフレーミングバルサムだけは、わずかだが隙を見せた。短すぎて、とても反撃のチャンスにはならないが……けど、その秘密が解ければ……

「……っ!そうか!」

俺はがばっと顔を上げて、厚い雲に覆われた空を見上げた。そういうことだったのか!

「ライラ!頼みがある!」

俺はライラの肩に置いた手に、ぎゅっと力を込めた。

「でかい風を一発、あそこにぶち込めないか!」

「え、えぇ!?無理だよ、今の術を解いたらあいつ、すぐにでも飛んで行っちゃうよ!」

「今の魔法を使ったまま、次の術は撃てないのか?」

「ヴィントネルケは残存型じゃなくて、継続型のまほーだから……それに、例えできたとしても、高威力のまほーじゃ、町ごと吹き飛ばしちゃうよ?」

「ああ、それは大丈夫だ」

「へ?」

「撃つのは、上。空に向かってだ」

ライラはこちらを振り向いて、ぽかんと口を開けた。俺はニッと笑う。

「俺に、考えがあるんだ。でもそれには、お前の力が必要なんだよ。どうにかできないか?」

「え、う、で、でも……」

ライラは唇をかむと、迷うように視線を彷徨わせる。

「……二重の魔術行使は、普通の何十倍も魔力を消費するんだよ。悔しいけど、ライラのヘカじゃ、それだけの分は確保できない……」

「魔力……なあ。それって、俺のを使うことはできないか?」

「え?」

驚いた顔のライラが、再びこちらを向く。

「アニによれば、俺には魔力だけはたっぷりあるみたいなんだ。俺の魔力を使って、ライラが魔法を撃つ。これなら、なんとかできるんじゃないか?」

「そっ……そんなの、無理に決まってるよ!ライラの魔力回路と、桜下のをくっつけるなんて、できるわけない!」

「それは、どうし……」

「だって!魔力の波長は、数千のフラクタルパターンによって形成されてるんだよ!?それら一個一個を、セグメント化もせずに、しかも術式のコーデッドアシストもなしで適合させるなんて、現実的に不可能だよ!そんなの……そんなの、千の扉の鍵穴に、千の鍵を一つずつ試すのとおんなじだ!」

……ほとんど分からなかったが、何とか最後の所だけは聞き取ることができた。つまりは、すごく大変だということらしい。

「ん~……けどさ、前にアニに聞いたんだけど。魔力ってのは、ようは、魂のことなんだろ?」

「……厳密には、それに起因する、無機物的な力だけど」

「そう、その……まあとにかく、魂の波長さえ合わせちまえば、さっき言ったことも可能になるんだよな?」

「……うん。けどっ」

「それなら。それなら、俺たちはとっくの昔に、それを済ませているじゃないか」

「え?あ……」

俺とライラが、初めて出会ったとき。あの墓場で、俺とライラは一度、魂を共鳴させている。

「思い出したか?あれと同じことをすればいいんだろ。前に一度やってるんだ、今度だってできるさ」

「で、でも……」

「な?それに、鍵のかかった扉だって言うんなら……俺はもう、ライラに閉ざしているものは、何もないはずだから」

ライラは、大きく目を見開いた。そうだろ。俺たちは昨晩、お互いの腹の底を見せ合った。それで十分じゃないか。

「やろうぜ、ライラ。俺の魔力を……魂を、お前に託す」

「……わかった。やろう、桜下!」

そうこなくっちゃ!ライラは背中を倒して、俺に体重を預けてきた。俺も手に力をこめることで、それに応える。

「桜下!ライラの魔力、ライラの魂に、波長を合わせて!理屈なんかない、感覚だけが頼りだよ!」

「任せとけ!」

魂の同調チューニングなんて、今までさんざんやってきたことだ。俺は意識を集中する。いつもの、魔法を使う感覚だ。ディストーションハンドで、魂を共鳴させる時。ファズで、力を流し込む時……俺はいつだって、仲間たちと魂を繋げてきたんだ!

「受け取れ、ライラ!」

「……っ!!!!」

びくんと、ライラの肩が震えた。磁力でも帯びたのかのように、ライラの髪がふわりと巻き立つ。

「感じる……強い力が、ライラの中に流れ込んでくる!これなら……」

ライラは自分の手のひらを見つめると、ぐっと握りしめた。

「行くよ!桜下!」

「おう!」

ライラは、片手をマンティコアへ向けたまま、もう片方の手を、空へと突き上げた。

「ブラスト、ビーーーート!」

ビュウウゥゥゥ!
風の力が凝縮された巨大な球体が、ライラの手のひらから打ち出された。風の球はまっすぐ空へと飛んでいく。やがて雲に触れた瞬間、球は一気にはじけ、その内に閉じ込められていた力を解き放った。
ブワァーー!!

「うわ。空が……晴れてく……」

ライラの魔法は、厚い黒雲を一瞬で吹き飛ばしてしまった。水に波紋を起こしたように、風はどんどん広がっていき、ついには俺たちの頭上に、巨大な円を描き出した。

「できた……やったよ、桜下!」

明るい日差しの下、ライラが満面の笑みで、こちらに振り返る。

「ああ!さすがだぜ!」

「でも、これに何の意味が……?」

その答えは、もうじき分かるはずだ。俺の予想が正しければ、奴は……

「ピギャアアアァァァァァ!」

ビンゴだ!マンティコアが悲鳴を上げて、地面に倒れこんだ。翼を広げて、必死に自分の体を隠そうとしている。

「今だ!フラン、エラゼム!」

俺の叫びが届いたのか、フランとエラゼムが、一斉に攻め込んだ。マンティコアは顔を覆いながらも、尾を振り回して迎撃しようとする。それにエラゼムが体当たりをするようにぶつかり、強引に押さえ込んだ。ドガシャアン!

「今ですっ……!」

フランがエラゼムの背中を踏み台にして、高々と跳躍する。俺はかたずを飲んだ。

「飛んだ……!」

フランの真下には、頭部を腕で防御したマンティコアがいる。だがフランは、その防御の上から、力任せに爪を振り下ろした。

「あああぁぁあッ!!!」

バツン!
振り下ろされた鉤爪は、腕ごと、マンティコアの首を切り落とした。断面から血しぶきが、噴水のように飛びあがる。ブシュウゥゥゥ。

「やったか!?あれじゃもう、さすがに動けないと思うけど……ライラ、俺たちも行こう」

「うん……」

魔法の連発の反動でふらつくライラを支えながら、俺たちはフランたちの下へと駆け付けた。



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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