じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
2-1 仮面の再来
2-1 仮面の再来
「……ッ!」
ガシャン。突然、エラゼムが鎧を鳴らして立ち上がった。その手には大剣を構えている。
「エラゼム……?どうした?」
「……なにやら、ただならぬ気配を感じます。招かれざる来客のようです」
「招かれざる来客……」
ってことは、だ。
「……それじゃあ、歓迎の準備をしといたほうが、よさそうだな?」
俺たちはゆっくりと立ち上がり、それぞれの武器を手に取った。いきなり変わった空気に、アルルカだけがきょとんとしている。俺は周囲を見渡した。今いるここは木の一本もない荒野だが、ごろごろしている岩のせいで、隠れようはいくらでもある。その中のどこからか、俺たちを狙っているのか……
「あれぇ?気づかれちゃったかな」
ふいに、気の抜けた声が飛んできた。フランがその声を敏感にキャッチし、方向を割り出す。
「あっちだ!」
フランが示したのは、俺たちの斜め前方、大きな丸い岩だった。その上に、一人の人影が立っている。
「不意打ちしてやろうと思ってたのに……さすが、カンがいいね。勇者くん?」
そいつは、月明りにきらりと光る、銀色の仮面をつけていた……まさか!
「まっ……マスカレード!」
「うん?それ、僕のことかな?あはは、かっこいい通り名がついたね」
なんであいつがここに……!俺たちの間にピリっとした緊張感が走った。一方で、マスカレードは緩みきった調子で話す。
「君たち、ヴァンパイアに襲われてた町を救ったんだってねえ。さすが、勇者様はやることが違うよ」
「な……!なんでそれを知ってるんだよ!」
「おいおい、僕の情報網を舐めないでよ。この国のことだったら、大きな事件から、それこそ王様の今日のパンツの柄まで分かるんだから」
くそ……ふざけたことを言っているが、その実、内容は恐ろしい。つまり奴には、俺たちのことも筒抜けだってことだろ。
「で?そんなお前が、俺たちに一体なんの用なんだ!」
「いやぁ、前に会った時は、あんまりゆっくりお話しできなかったでしょ?だから改めて、親睦を深めようと思ってさぁ」
「親睦……?」
「そ。んで、お互いをよく知るってなったらさ……」
シュルリーン。マスカレードは剣光を煌めかせながら、闇夜のごとき漆黒色の剣を抜いた。
「殺り合うのが、一番だよね?」
ぞくっ……俺の背中に悪寒が走る。こいつは、今まで戦ってきた敵とは違う……得体の知れない、不気味さがあった。しかし。
「……それで、はいそうですかって、やられるわけにはいかないよな!」
カチャリ。俺はなけなしの愛剣を構えた。俺の隣にエラゼムとフランも並び立つ。
「いいねぇ、そうこなくっちゃ。せいぜい楽しませて……」
ドンッ!マスカレードが跳躍した!
「くれよねぇっっ!」
マスカレードは着地すると、剣を横に構えたまま、猛スピードでこちらへ突っ込んでくる。フランが駆け出して、それを迎え撃った。紫の鉤爪をむき出しにすると、マスカレードへ切りかかる。ガキィン!
「なっ……」
「嘘だろ!?」
フランの爪がはじかれた!いや、今のは弾いたというより、マスカレードが剣で強引に鉤爪を振り払ったんだ。けどそれって、フランと同じか、それ以上の力があるってことじゃないか?
「おらあぁ!」
「ぐっ!」
攻撃をはじかれてバランスを崩したフランに、マスカレードが回し蹴りを打ち込む。フランは吹っ飛ばされたが、空中でくるりと回って着地した。
「フラン、大丈夫か!?」
「へいき。けど、あいつ……すごい馬鹿力だ」
「ああ、みたいだな……!」
ゴーレムやガーゴイルならいざ知らず、ただの人間がフランの怪力に対抗できるなんて……
「あいつも、なんかの能力を持っているのか……?」
考えてもみなかったが、ひょっとするとそれが、俺の感じた悪寒の正体かもしれない。危険な力……あいつはそれを、その身に宿しているのか。
「あっはは、これで終わりじゃないだろう!?」
マスカレードは高らかに笑いながら、再び襲い掛かってくる。その手に握られた黒い剣を見たとき、俺は思い出した。以前やつが王都に現れた際、あの剣で貫かれた人の魂が、跡形もなく消え去ってしまったことを。
「っ!みんな、気を付けろ!あの剣にやられたら、魂ごと奪われちまうぞ!」
エラゼムの言っていた、魂喰らいの魔剣。もしそれが本当なら、たとえアンデッドといえど無事じゃすまない。
「じゃあ、触れなきゃいいんでしょ!」
フランが飛び出し、マスカレードの剣を受け止める。ガキィン!あ、うまいぞ!フランは鉤爪を交差させて、やつの魔剣を防いでいた。
「あっははは!確かにこの剣には注意したほうがいい!」
ギリギリギリ!フランの爪とマスカレードの剣がこすれて、白い火花を散らしている。ものすごい力でつばぜり合いをしているんだ。にもかかわらず、マスカレードは余裕たっぷりに口を動かしている。
「でも、いつまでもそうやって防げるかな?君たちは一発でも掠ったらおしまいだ。対して僕には、この力がある!」
ギギギギギ!マスカレードが両手で力を籠めると、信じられないことにフランが後ろへ押し戻され始めた。まさか、あの怪力のフランが……そうか、フランのほうが背が低いから、押し合いになると潰されてしまうんだ!
「フラン嬢!ぬうりゃ!」
エラゼムが助太刀に入る。大剣をまっすぐ突き出すと、マスカレードはぱっとバックステップでかわした。チッ、力だけじゃなくて、スピードまであるのか。だが、今の俺たちに近距離火力しかないと思ったら、大間違いだ!
「みなさん、下がってください!」
「ぶちかますよ!」
魔術師二人が、ぴったり同時に手を前に突き出した。ウィルとライラは、声をシンクロさせながら呪文を唱えた。
「トリコデルマ!」
「ウィンドローズ!」
ビュゴウ!ウィルの手から真っ赤な粒子が噴き出し、それがライラから放たれる風に乗ってマスカレードを襲う。あの赤い粉の魔法は、ウィルがつい最近会得した攻撃魔法だ。超高温の粒子で、アルルカを火傷まみれにしたのは記憶に新しい。
「いっけえぇぇー!」
「やあぁぁーーー!」
真紅の風はマスカレードを包み込むと、その場でぐるぐると渦を巻き始めた。すごい、まるで風と炎の檻だ……あれに閉じ込められたら、ひとたまりもないだろう。
「ウィル、ライラ!やりすぎるなよ!消し炭にしちゃだめだ!」
「わかってますよ!ちゃんと死なない程度に加減は……」
「加減?そんなものいらないのに」
え?ザシュゥ!
真紅の竜巻に、一閃の太刀傷が入る。するとウィルとライラの魔法は、パーンとはじけて消えてしまった。竜巻の中からは、まったく無傷のマスカレードが、剣をふるったままの姿勢で現れた。
「うっ……そだろ、おい……」
「な、なんで……ライラたちのまほーは、直撃したのに……」
「うぅ~ん、ちょっと威力が足りないかなぁ。それじゃ僕のAMAは貫けないよ」
AMA……確か、前にアニが言っていた。アンチ・マジック・アーマー……魔法の威力を軽減する鎧、だったか。
「まじかよ……あいつ、魔法も効かないのか?」
フランすら押し返す怪力に加え、アンデッドにすら致命傷を与える魔剣。おまけに遠距離攻撃も効かない……こりゃ、想像以上に厄介な相手だぞ。
(これは、逃げる算段もしといたほうがいいな……)
「おっと、逃げようだなんて思わないでよ?せっかくわざわざ会いに来たんだからさ」
くっ……!こっちの動きが読まれている。確かに、今の俺たちにはこれ以上、手の打ちようがない。ライラの大火力魔法は威力が高すぎて加減ができないし、なにより発動に時間がかかりすぎる。スピードもあるマスカレードが、その間ぼーっと突っ立っていることはありえないだろう。
ちっ、まずいぞ。ピンチってやつだ。もしかするとこいつは、王都で俺たちの戦力を見たうえで、対策を講じてきたのかも……
「くそ……!」
「あれ、もう品切れかい?だったら、僕から行かせてもらうよ!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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ガシャン。突然、エラゼムが鎧を鳴らして立ち上がった。その手には大剣を構えている。
「エラゼム……?どうした?」
「……なにやら、ただならぬ気配を感じます。招かれざる来客のようです」
「招かれざる来客……」
ってことは、だ。
「……それじゃあ、歓迎の準備をしといたほうが、よさそうだな?」
俺たちはゆっくりと立ち上がり、それぞれの武器を手に取った。いきなり変わった空気に、アルルカだけがきょとんとしている。俺は周囲を見渡した。今いるここは木の一本もない荒野だが、ごろごろしている岩のせいで、隠れようはいくらでもある。その中のどこからか、俺たちを狙っているのか……
「あれぇ?気づかれちゃったかな」
ふいに、気の抜けた声が飛んできた。フランがその声を敏感にキャッチし、方向を割り出す。
「あっちだ!」
フランが示したのは、俺たちの斜め前方、大きな丸い岩だった。その上に、一人の人影が立っている。
「不意打ちしてやろうと思ってたのに……さすが、カンがいいね。勇者くん?」
そいつは、月明りにきらりと光る、銀色の仮面をつけていた……まさか!
「まっ……マスカレード!」
「うん?それ、僕のことかな?あはは、かっこいい通り名がついたね」
なんであいつがここに……!俺たちの間にピリっとした緊張感が走った。一方で、マスカレードは緩みきった調子で話す。
「君たち、ヴァンパイアに襲われてた町を救ったんだってねえ。さすが、勇者様はやることが違うよ」
「な……!なんでそれを知ってるんだよ!」
「おいおい、僕の情報網を舐めないでよ。この国のことだったら、大きな事件から、それこそ王様の今日のパンツの柄まで分かるんだから」
くそ……ふざけたことを言っているが、その実、内容は恐ろしい。つまり奴には、俺たちのことも筒抜けだってことだろ。
「で?そんなお前が、俺たちに一体なんの用なんだ!」
「いやぁ、前に会った時は、あんまりゆっくりお話しできなかったでしょ?だから改めて、親睦を深めようと思ってさぁ」
「親睦……?」
「そ。んで、お互いをよく知るってなったらさ……」
シュルリーン。マスカレードは剣光を煌めかせながら、闇夜のごとき漆黒色の剣を抜いた。
「殺り合うのが、一番だよね?」
ぞくっ……俺の背中に悪寒が走る。こいつは、今まで戦ってきた敵とは違う……得体の知れない、不気味さがあった。しかし。
「……それで、はいそうですかって、やられるわけにはいかないよな!」
カチャリ。俺はなけなしの愛剣を構えた。俺の隣にエラゼムとフランも並び立つ。
「いいねぇ、そうこなくっちゃ。せいぜい楽しませて……」
ドンッ!マスカレードが跳躍した!
「くれよねぇっっ!」
マスカレードは着地すると、剣を横に構えたまま、猛スピードでこちらへ突っ込んでくる。フランが駆け出して、それを迎え撃った。紫の鉤爪をむき出しにすると、マスカレードへ切りかかる。ガキィン!
「なっ……」
「嘘だろ!?」
フランの爪がはじかれた!いや、今のは弾いたというより、マスカレードが剣で強引に鉤爪を振り払ったんだ。けどそれって、フランと同じか、それ以上の力があるってことじゃないか?
「おらあぁ!」
「ぐっ!」
攻撃をはじかれてバランスを崩したフランに、マスカレードが回し蹴りを打ち込む。フランは吹っ飛ばされたが、空中でくるりと回って着地した。
「フラン、大丈夫か!?」
「へいき。けど、あいつ……すごい馬鹿力だ」
「ああ、みたいだな……!」
ゴーレムやガーゴイルならいざ知らず、ただの人間がフランの怪力に対抗できるなんて……
「あいつも、なんかの能力を持っているのか……?」
考えてもみなかったが、ひょっとするとそれが、俺の感じた悪寒の正体かもしれない。危険な力……あいつはそれを、その身に宿しているのか。
「あっはは、これで終わりじゃないだろう!?」
マスカレードは高らかに笑いながら、再び襲い掛かってくる。その手に握られた黒い剣を見たとき、俺は思い出した。以前やつが王都に現れた際、あの剣で貫かれた人の魂が、跡形もなく消え去ってしまったことを。
「っ!みんな、気を付けろ!あの剣にやられたら、魂ごと奪われちまうぞ!」
エラゼムの言っていた、魂喰らいの魔剣。もしそれが本当なら、たとえアンデッドといえど無事じゃすまない。
「じゃあ、触れなきゃいいんでしょ!」
フランが飛び出し、マスカレードの剣を受け止める。ガキィン!あ、うまいぞ!フランは鉤爪を交差させて、やつの魔剣を防いでいた。
「あっははは!確かにこの剣には注意したほうがいい!」
ギリギリギリ!フランの爪とマスカレードの剣がこすれて、白い火花を散らしている。ものすごい力でつばぜり合いをしているんだ。にもかかわらず、マスカレードは余裕たっぷりに口を動かしている。
「でも、いつまでもそうやって防げるかな?君たちは一発でも掠ったらおしまいだ。対して僕には、この力がある!」
ギギギギギ!マスカレードが両手で力を籠めると、信じられないことにフランが後ろへ押し戻され始めた。まさか、あの怪力のフランが……そうか、フランのほうが背が低いから、押し合いになると潰されてしまうんだ!
「フラン嬢!ぬうりゃ!」
エラゼムが助太刀に入る。大剣をまっすぐ突き出すと、マスカレードはぱっとバックステップでかわした。チッ、力だけじゃなくて、スピードまであるのか。だが、今の俺たちに近距離火力しかないと思ったら、大間違いだ!
「みなさん、下がってください!」
「ぶちかますよ!」
魔術師二人が、ぴったり同時に手を前に突き出した。ウィルとライラは、声をシンクロさせながら呪文を唱えた。
「トリコデルマ!」
「ウィンドローズ!」
ビュゴウ!ウィルの手から真っ赤な粒子が噴き出し、それがライラから放たれる風に乗ってマスカレードを襲う。あの赤い粉の魔法は、ウィルがつい最近会得した攻撃魔法だ。超高温の粒子で、アルルカを火傷まみれにしたのは記憶に新しい。
「いっけえぇぇー!」
「やあぁぁーーー!」
真紅の風はマスカレードを包み込むと、その場でぐるぐると渦を巻き始めた。すごい、まるで風と炎の檻だ……あれに閉じ込められたら、ひとたまりもないだろう。
「ウィル、ライラ!やりすぎるなよ!消し炭にしちゃだめだ!」
「わかってますよ!ちゃんと死なない程度に加減は……」
「加減?そんなものいらないのに」
え?ザシュゥ!
真紅の竜巻に、一閃の太刀傷が入る。するとウィルとライラの魔法は、パーンとはじけて消えてしまった。竜巻の中からは、まったく無傷のマスカレードが、剣をふるったままの姿勢で現れた。
「うっ……そだろ、おい……」
「な、なんで……ライラたちのまほーは、直撃したのに……」
「うぅ~ん、ちょっと威力が足りないかなぁ。それじゃ僕のAMAは貫けないよ」
AMA……確か、前にアニが言っていた。アンチ・マジック・アーマー……魔法の威力を軽減する鎧、だったか。
「まじかよ……あいつ、魔法も効かないのか?」
フランすら押し返す怪力に加え、アンデッドにすら致命傷を与える魔剣。おまけに遠距離攻撃も効かない……こりゃ、想像以上に厄介な相手だぞ。
(これは、逃げる算段もしといたほうがいいな……)
「おっと、逃げようだなんて思わないでよ?せっかくわざわざ会いに来たんだからさ」
くっ……!こっちの動きが読まれている。確かに、今の俺たちにはこれ以上、手の打ちようがない。ライラの大火力魔法は威力が高すぎて加減ができないし、なにより発動に時間がかかりすぎる。スピードもあるマスカレードが、その間ぼーっと突っ立っていることはありえないだろう。
ちっ、まずいぞ。ピンチってやつだ。もしかするとこいつは、王都で俺たちの戦力を見たうえで、対策を講じてきたのかも……
「くそ……!」
「あれ、もう品切れかい?だったら、僕から行かせてもらうよ!」
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