じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
12-4
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そういって、クライブ神父は土下座した。ローズがその背中を穴が開くほど見つめている。すると旅人風の格好をした亡者の一体が、先の亡者と同じように地面を叩いた。彼は、こちらを遠巻きに覗いている町民たちのほうを向いている。
「……彼らは、同じように町の住人の謝罪を求めている」
俺は周囲を見渡しながら言った。アルルカの謝罪をよく見ようと、多くの町民が路地裏の家の屋根に登っていた。
「クライブ神父だけが悪いんじゃない。この罪は、この町全体のものだろう。旅人たちを騙してきた、あんたたちも同罪だ」
一見親切そうな、この町の住民たち。その裏には、身勝手で理不尽な陰謀が潜んでいた。クライブ神父は、町全体の代表のようなものに過ぎない。
「謝ってくれ。この町の、全員で」
俺が再度要求しても、周囲から謝罪の声は聞こえてこなかった。それにしびれを切らしたのか、亡者の一人がきしきしと歩き出す。彼は路地を抜けて、町の中心へと向かっているようだ。それを見たウィルが、慌てた様子で言う。
「だ、大丈夫でしょうか?まさか、町の人たちを襲ったりは……」
「っ!」
ドキリとして、俺は一応、町の人を傷つけないよう心の中で念を押した。しかし、その心配は無用だったみたいだ。彼はただ、町の人たちの顔がよく見える場所へ行くと言っていたから。
「ひ、ひぃぃ!」
亡者が去った先で、町民の悲鳴が聞こえてきた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!俺たちも、あのヴァンパイアが怖かったんだ!」
「ゆ、許してくれ!全部、ヴァンパイアが悪いんだよぉ!」
するとようやく、町のあちこちから謝罪の声が聞こえてきた。とても心から悔いているとは思えない謝り方だが……まあ、しょうがない。これで満足してもらうしかないだろう。
「ん、んんぅ……」
ん?エラゼムの腕の中で、リンがか細く呻いた。この喧騒で目を覚ましたみたいだな。エラゼムはそっとリンを地面に下すと、リンは瞳をぱちくりさせてあたりを見渡した。
「あら……?どうして町に?私、お城へ向かっていたはずなのに……」
「リン……」
俺が声をかけると、リンはぼんやりこちらを向いた。そして、そばにたたずむ亡者の存在に気付いて、悲鳴を上げた。
「きっ、きゃああぁぁ!ば、化け物!」
リンは転がるように亡者の群れから離れた。その亡者の中には、リンの姉であった人もいるのだが……リンの反応は、まるではじめて亡者を見たようだった。
「リン……?」
「だ、誰ですか、あなた?私、あなたのことなんか知りません!」
まぁ、それはそうだが。今の俺は仮面にマントだ。
「姉さん!大丈夫なの!?」
ローズが、困惑するリンに駆け寄る。
「ローズ……?いったい、何がどうなってるの……?ああ!クライブ神父!?」
リンはようやく、地面に額をこすりつけるクライブ神父に気付いたようだ。リンは、アルルカから、自分たちが騙されていたことを聞いているはず……だがリンは、恨みをこぼすでもなく、クライブ神父のそばに心配そうにひざまずいた。
「神父様、どうなさったのですか?どうしてそんな恰好を……」
「……」
クライブ神父は何も言わない。いまだに亡者たちが、うつろな目で神父を睨みつけているからだ。
「神父様!……もしかして、あなたたちのしわざなの!?」
「え」
リンは、仮面をつけた俺をギリッと睨みつけた。
「あなたたちが、なにかしたんでしょう!そうじゃなきゃ、儀式の最中だった私をここまで連れ出せるわけないわ!いったい、何をしたの!?」
「リン……?そうじゃない。俺たちは」
「聞きたくない!あなたたちが、変なまやかしを使ったに決まってるわ!どうしてこんなことをするの!?」
これは……明らかにリンの様子がおかしい。言葉の端が食い違っているし、なにより自分の言葉が矛盾していることにも気づいていないようだ。
「リンさん、もしかして……」
ウィルは、混乱して目を回すリンをあわれそうに見つめた。
「なにもかも、忘れてしまったんでしょうか?あの城で、起きたことを……」
記憶をなくしたってことか?そんな、まさか……しかし、リンはクライブ神父を見ても、俺たちのそばにいるアルルカを見ても、顔色一つ変えない。あんなにショックを受けていたんだ、演技でどうこうできる範囲は超えているだろう……
「もしかして……ショックで、記憶を……?」
俺は震える唇で、そうつぶやいた。それなら、ない話ではないかもしれない。なぜなら俺は、そうなってしまった女性を知っているから……
(わたし………………になりたいの……)
俺の脳裏に、懐かしい声が響く。それと同時に、ずきりと鈍い痛みも走った。
「桜下さん……?」
仮面をぎゅうと押さえつける俺を見て、ウィルが心配そうに声をかけてきた。いけない、今は昔のことなんか思い出している場合じゃない。
「……ローズ」
俺はかすれた声で、ローズを呼んだ。名前を呼ばれたローズはびくりと肩を震わせる。
「リンを……シスターを、頼む。この子に寄り添ってやれるのは、お前だけだ」
「え……」
ローズはきょとんとしていたが、俺は返事を待たずに、今度はクライブ神父の頭を睨みつけた。
「クライブ神父。ヴァンパイアがいなくなった以上、もう儀式を続ける必要はないはずだ。リンとローズを“ただの”シスターとして、責任もって面倒見ろよ。もしもこれまでと同じことを繰り返してみろ。亡者の大群が、今度こそ町を滅ぼしに押し寄せてくるだろう……次は、謝っても許されないぞ」
「……」
クライブ神父は、土下座したまま何も言わなかったが……沈黙は肯定だということにしておこう。これで、やり残したことはないな。
「では、俺はもう行く」
そうとなれば、長居は無用だ。俺がくるりと踵を返すと、仲間たちもそれに続いた。細い路地を通り抜けると、亡者たちと、地面に這いつくばる町民たちがそこかしこにいた。俺たちはその間を縫い、町はずれへと急いだ。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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そういって、クライブ神父は土下座した。ローズがその背中を穴が開くほど見つめている。すると旅人風の格好をした亡者の一体が、先の亡者と同じように地面を叩いた。彼は、こちらを遠巻きに覗いている町民たちのほうを向いている。
「……彼らは、同じように町の住人の謝罪を求めている」
俺は周囲を見渡しながら言った。アルルカの謝罪をよく見ようと、多くの町民が路地裏の家の屋根に登っていた。
「クライブ神父だけが悪いんじゃない。この罪は、この町全体のものだろう。旅人たちを騙してきた、あんたたちも同罪だ」
一見親切そうな、この町の住民たち。その裏には、身勝手で理不尽な陰謀が潜んでいた。クライブ神父は、町全体の代表のようなものに過ぎない。
「謝ってくれ。この町の、全員で」
俺が再度要求しても、周囲から謝罪の声は聞こえてこなかった。それにしびれを切らしたのか、亡者の一人がきしきしと歩き出す。彼は路地を抜けて、町の中心へと向かっているようだ。それを見たウィルが、慌てた様子で言う。
「だ、大丈夫でしょうか?まさか、町の人たちを襲ったりは……」
「っ!」
ドキリとして、俺は一応、町の人を傷つけないよう心の中で念を押した。しかし、その心配は無用だったみたいだ。彼はただ、町の人たちの顔がよく見える場所へ行くと言っていたから。
「ひ、ひぃぃ!」
亡者が去った先で、町民の悲鳴が聞こえてきた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!俺たちも、あのヴァンパイアが怖かったんだ!」
「ゆ、許してくれ!全部、ヴァンパイアが悪いんだよぉ!」
するとようやく、町のあちこちから謝罪の声が聞こえてきた。とても心から悔いているとは思えない謝り方だが……まあ、しょうがない。これで満足してもらうしかないだろう。
「ん、んんぅ……」
ん?エラゼムの腕の中で、リンがか細く呻いた。この喧騒で目を覚ましたみたいだな。エラゼムはそっとリンを地面に下すと、リンは瞳をぱちくりさせてあたりを見渡した。
「あら……?どうして町に?私、お城へ向かっていたはずなのに……」
「リン……」
俺が声をかけると、リンはぼんやりこちらを向いた。そして、そばにたたずむ亡者の存在に気付いて、悲鳴を上げた。
「きっ、きゃああぁぁ!ば、化け物!」
リンは転がるように亡者の群れから離れた。その亡者の中には、リンの姉であった人もいるのだが……リンの反応は、まるではじめて亡者を見たようだった。
「リン……?」
「だ、誰ですか、あなた?私、あなたのことなんか知りません!」
まぁ、それはそうだが。今の俺は仮面にマントだ。
「姉さん!大丈夫なの!?」
ローズが、困惑するリンに駆け寄る。
「ローズ……?いったい、何がどうなってるの……?ああ!クライブ神父!?」
リンはようやく、地面に額をこすりつけるクライブ神父に気付いたようだ。リンは、アルルカから、自分たちが騙されていたことを聞いているはず……だがリンは、恨みをこぼすでもなく、クライブ神父のそばに心配そうにひざまずいた。
「神父様、どうなさったのですか?どうしてそんな恰好を……」
「……」
クライブ神父は何も言わない。いまだに亡者たちが、うつろな目で神父を睨みつけているからだ。
「神父様!……もしかして、あなたたちのしわざなの!?」
「え」
リンは、仮面をつけた俺をギリッと睨みつけた。
「あなたたちが、なにかしたんでしょう!そうじゃなきゃ、儀式の最中だった私をここまで連れ出せるわけないわ!いったい、何をしたの!?」
「リン……?そうじゃない。俺たちは」
「聞きたくない!あなたたちが、変なまやかしを使ったに決まってるわ!どうしてこんなことをするの!?」
これは……明らかにリンの様子がおかしい。言葉の端が食い違っているし、なにより自分の言葉が矛盾していることにも気づいていないようだ。
「リンさん、もしかして……」
ウィルは、混乱して目を回すリンをあわれそうに見つめた。
「なにもかも、忘れてしまったんでしょうか?あの城で、起きたことを……」
記憶をなくしたってことか?そんな、まさか……しかし、リンはクライブ神父を見ても、俺たちのそばにいるアルルカを見ても、顔色一つ変えない。あんなにショックを受けていたんだ、演技でどうこうできる範囲は超えているだろう……
「もしかして……ショックで、記憶を……?」
俺は震える唇で、そうつぶやいた。それなら、ない話ではないかもしれない。なぜなら俺は、そうなってしまった女性を知っているから……
(わたし………………になりたいの……)
俺の脳裏に、懐かしい声が響く。それと同時に、ずきりと鈍い痛みも走った。
「桜下さん……?」
仮面をぎゅうと押さえつける俺を見て、ウィルが心配そうに声をかけてきた。いけない、今は昔のことなんか思い出している場合じゃない。
「……ローズ」
俺はかすれた声で、ローズを呼んだ。名前を呼ばれたローズはびくりと肩を震わせる。
「リンを……シスターを、頼む。この子に寄り添ってやれるのは、お前だけだ」
「え……」
ローズはきょとんとしていたが、俺は返事を待たずに、今度はクライブ神父の頭を睨みつけた。
「クライブ神父。ヴァンパイアがいなくなった以上、もう儀式を続ける必要はないはずだ。リンとローズを“ただの”シスターとして、責任もって面倒見ろよ。もしもこれまでと同じことを繰り返してみろ。亡者の大群が、今度こそ町を滅ぼしに押し寄せてくるだろう……次は、謝っても許されないぞ」
「……」
クライブ神父は、土下座したまま何も言わなかったが……沈黙は肯定だということにしておこう。これで、やり残したことはないな。
「では、俺はもう行く」
そうとなれば、長居は無用だ。俺がくるりと踵を返すと、仲間たちもそれに続いた。細い路地を通り抜けると、亡者たちと、地面に這いつくばる町民たちがそこかしこにいた。俺たちはその間を縫い、町はずれへと急いだ。
つづく
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