じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
7-1 リンの秘密
7-1 リンの秘密
翌朝。俺たちは再び三手に分かれて、情報収集をすることになった。フランは山上の城の偵察に、ウィルは酒場の聞き込みに出かけていった。俺とエラゼムとライラは、町中を歩きながらある人物を探している。シュタイアー教のシスター・リンだ。インチキ宗教かもしれない、シュタイアー教……その実態を、彼女から聞きだすのが目的だ。
「ん……噂をすれば」
まだそれほど歩いていないのに、お目当ての人物を見つけることができた。リンが家の玄関口に立って、そこの家主と何か話している。その傍らには、シスター仲間のローズもいた。リンが家主と二、三、言葉を交わすと、家主はポケットからコインを取り出し、リンが持っているバスケットへと差し出した。募金か何かを集めているのだろうか?
「おーい、リン」
「はい?あ、あなたたち……昨日の」
頃合いを見て、俺はリンに声をかけた。リンは俺たちを覚えていてくれたようだが、ローズはまた違った意味で俺たちを覚えていたらしい。露骨に嫌そうな顔をして、リンの背後に隠れてしまった。
「どうしたの?また今日もお勉強かしら」
「そんなところだよ。昨日はありがとな、すごく参考になった」
これは本当のことだ。リンから得た情報は有力な手掛かりになったから。俺が礼を言うと、リンはうれしそうに顔をほころばせた。
「ならよかった。はじめて布教をしたから、間違えたらどうしようかとドキドキしてたのよ。ごめんなさいね、昨日はバタバタしちゃって」
「いいよ、シスターは忙しいだろうしな。今日は何をしてるんだ?」
「ああ、これね。明日の夜、大事な儀式があるから。それの告知と、ついでにお布施をいただいているの」
儀式……ウィルの言っていたやつかな。話を聞く限り、あまり楽しそうな儀式ではなさそうだったが……リンは特段、そういった様子を見せてはいないな。
「……なあ、リン。もしよかったら、またシュタイアー教について、いろいろ教えてくれないか?」
「え?でも、お仕事があるし……」
「待つよ。ていうか、俺たちもついてってもいいか?見学させてくれよ」
「え」「はぁ!?」
リンとローズが、同時に声を上げた。
「だめよ姉さん、こんな怪しいやつと一緒にいちゃ、みんなにどう思われるか分かったもんじゃないわ!」
「え、でも。桜下さんたちは、別に悪い人じゃないわよ」
「今はバカ面してるけど、裏でどんな野蛮なことを考えてるか分からないでしょ!」
バカ面で悪かったな。ローズは激しい剣幕で、リンにダメだと言い募っているが、リン本人はまんざらでもなさそうだった。
「別に邪魔になるわけでもないし……でも、桜下さん。これから町中を回らなくちゃいけないから、結構時間がかかると思うけれど。それでもいいの?」
「もちろんだ。お願いしてるのはこっちだからな」
「ん……じゃあ、かまわないわ」
「姉さん!ダメだったら!」
「いいじゃない、ローズ。それに、マレビトには親切にしなさいって経典にも書いてあったでしょう。経典は守らなきゃだめよ」
「それは、そうだけど……」
ローズは悔しそうに歯噛みすると、俺を射殺さんばかりの目で睨んだ。そんなに怒らないでくれよ……けど、ローズの警戒は正しい。俺はリンから、教団についての情報を引き出せないかと考えているんだからな。悪いムシってやつだ。
「それじゃあ、一緒にいきましょうか」
「ありがとな。リンたちは町中に、その儀式とやらのことを知らせて回ってるのか?」
「ええ。明日は、一年に一度の“満月祭”だから」
「満月祭?それが、大事な儀式ってやつか?」
「そうよ。毎月、満月の夜は血の盃の儀式があるんだけど、一年に一度だけ特別な日がやってくるの。それが、満月祭よ」
満月祭……きっとじゃあ、明日は満月なんだろうな。確か、フランに初めて会った日の夜も満月だったはずだ。もうずいぶん昔の事に思えるな……
「その満月祭ってのは、どんなことをするんだ?」
「町の人たちは、特に何もしないわ。というか、しちゃいけないの。その日の夜は家から一歩も出ずに、シュタイアー神に祈りをささげることになっているのよ」
「え?じゃあ、別に誰も特別なことはしないのか?」
「いいえ。選ばれたシスター……つまり私だけは、やらなければならない事があるの」
リンは誇らしげに胸を張った。
「明日の夜、私は一人で出かけ、そこで血の杯の儀を執り行わなければならないの。つまり、明日出歩けるのは私ひとりだけ。そして、聖地である山の上のお城で一晩を明かすのよ」
山の上の城……!それって、フランが偵察に行った、あの城に間違いないじゃないか!そんなところに、女の子がたった一人で……?あの城には、門番の怪物までいるんだぞ。しかしリンの態度からは、不安や恐怖を一切感じない。むしろ、使命感に燃えているようだ。
「満月祭をこなせば、晴れて私も一人前のシスターよ。この儀式を完璧にできれば、神父様たちに立派なシスターとして認めてもらえるの。一人前になれれば、たくさんの報酬があるっていうわ。私、神父様に頼んで、家を貰うことを約束してもらったのよ!」
リンはプレゼントを心待ちにする子どものように、きらきらとした瞳をしている。しかし俺は、素直に彼女を祝福してやることはできなかった。とてもじゃないけど……本当にリンは、無事に報酬を受け取る事ができるのだろうか?
「……それは、リン一人じゃなきゃいけないのか?他に教会の人は?」
「え?いないわよ。シスターしか参加できないって言ったじゃない」
「じゃあ、その子は?ローズも、シスターじゃないのか?」
俺に名前を呼ばれて、ローズはぎりっと牙を剥いた。しかしリンは首を振る。
「ローズはまだ見習いなの。けど、そろそろ一年経つから、そしたらローズも正式なシスターよ。来年の満月祭は、二人でできるかもしれないわね」
リンがやさしく言い聞かすと、ローズはすぐに表情を戻し、にっこり笑った。恐ろしい転身の速さだ……てことは、ローズはリンに一年遅れで、シスター見習いになったってことだろうか。しかし、それじゃあ明日はどうあがいても、リンは一人きりであの城に向かうことになってしまう。不安だ……ものすごく。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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翌朝。俺たちは再び三手に分かれて、情報収集をすることになった。フランは山上の城の偵察に、ウィルは酒場の聞き込みに出かけていった。俺とエラゼムとライラは、町中を歩きながらある人物を探している。シュタイアー教のシスター・リンだ。インチキ宗教かもしれない、シュタイアー教……その実態を、彼女から聞きだすのが目的だ。
「ん……噂をすれば」
まだそれほど歩いていないのに、お目当ての人物を見つけることができた。リンが家の玄関口に立って、そこの家主と何か話している。その傍らには、シスター仲間のローズもいた。リンが家主と二、三、言葉を交わすと、家主はポケットからコインを取り出し、リンが持っているバスケットへと差し出した。募金か何かを集めているのだろうか?
「おーい、リン」
「はい?あ、あなたたち……昨日の」
頃合いを見て、俺はリンに声をかけた。リンは俺たちを覚えていてくれたようだが、ローズはまた違った意味で俺たちを覚えていたらしい。露骨に嫌そうな顔をして、リンの背後に隠れてしまった。
「どうしたの?また今日もお勉強かしら」
「そんなところだよ。昨日はありがとな、すごく参考になった」
これは本当のことだ。リンから得た情報は有力な手掛かりになったから。俺が礼を言うと、リンはうれしそうに顔をほころばせた。
「ならよかった。はじめて布教をしたから、間違えたらどうしようかとドキドキしてたのよ。ごめんなさいね、昨日はバタバタしちゃって」
「いいよ、シスターは忙しいだろうしな。今日は何をしてるんだ?」
「ああ、これね。明日の夜、大事な儀式があるから。それの告知と、ついでにお布施をいただいているの」
儀式……ウィルの言っていたやつかな。話を聞く限り、あまり楽しそうな儀式ではなさそうだったが……リンは特段、そういった様子を見せてはいないな。
「……なあ、リン。もしよかったら、またシュタイアー教について、いろいろ教えてくれないか?」
「え?でも、お仕事があるし……」
「待つよ。ていうか、俺たちもついてってもいいか?見学させてくれよ」
「え」「はぁ!?」
リンとローズが、同時に声を上げた。
「だめよ姉さん、こんな怪しいやつと一緒にいちゃ、みんなにどう思われるか分かったもんじゃないわ!」
「え、でも。桜下さんたちは、別に悪い人じゃないわよ」
「今はバカ面してるけど、裏でどんな野蛮なことを考えてるか分からないでしょ!」
バカ面で悪かったな。ローズは激しい剣幕で、リンにダメだと言い募っているが、リン本人はまんざらでもなさそうだった。
「別に邪魔になるわけでもないし……でも、桜下さん。これから町中を回らなくちゃいけないから、結構時間がかかると思うけれど。それでもいいの?」
「もちろんだ。お願いしてるのはこっちだからな」
「ん……じゃあ、かまわないわ」
「姉さん!ダメだったら!」
「いいじゃない、ローズ。それに、マレビトには親切にしなさいって経典にも書いてあったでしょう。経典は守らなきゃだめよ」
「それは、そうだけど……」
ローズは悔しそうに歯噛みすると、俺を射殺さんばかりの目で睨んだ。そんなに怒らないでくれよ……けど、ローズの警戒は正しい。俺はリンから、教団についての情報を引き出せないかと考えているんだからな。悪いムシってやつだ。
「それじゃあ、一緒にいきましょうか」
「ありがとな。リンたちは町中に、その儀式とやらのことを知らせて回ってるのか?」
「ええ。明日は、一年に一度の“満月祭”だから」
「満月祭?それが、大事な儀式ってやつか?」
「そうよ。毎月、満月の夜は血の盃の儀式があるんだけど、一年に一度だけ特別な日がやってくるの。それが、満月祭よ」
満月祭……きっとじゃあ、明日は満月なんだろうな。確か、フランに初めて会った日の夜も満月だったはずだ。もうずいぶん昔の事に思えるな……
「その満月祭ってのは、どんなことをするんだ?」
「町の人たちは、特に何もしないわ。というか、しちゃいけないの。その日の夜は家から一歩も出ずに、シュタイアー神に祈りをささげることになっているのよ」
「え?じゃあ、別に誰も特別なことはしないのか?」
「いいえ。選ばれたシスター……つまり私だけは、やらなければならない事があるの」
リンは誇らしげに胸を張った。
「明日の夜、私は一人で出かけ、そこで血の杯の儀を執り行わなければならないの。つまり、明日出歩けるのは私ひとりだけ。そして、聖地である山の上のお城で一晩を明かすのよ」
山の上の城……!それって、フランが偵察に行った、あの城に間違いないじゃないか!そんなところに、女の子がたった一人で……?あの城には、門番の怪物までいるんだぞ。しかしリンの態度からは、不安や恐怖を一切感じない。むしろ、使命感に燃えているようだ。
「満月祭をこなせば、晴れて私も一人前のシスターよ。この儀式を完璧にできれば、神父様たちに立派なシスターとして認めてもらえるの。一人前になれれば、たくさんの報酬があるっていうわ。私、神父様に頼んで、家を貰うことを約束してもらったのよ!」
リンはプレゼントを心待ちにする子どものように、きらきらとした瞳をしている。しかし俺は、素直に彼女を祝福してやることはできなかった。とてもじゃないけど……本当にリンは、無事に報酬を受け取る事ができるのだろうか?
「……それは、リン一人じゃなきゃいけないのか?他に教会の人は?」
「え?いないわよ。シスターしか参加できないって言ったじゃない」
「じゃあ、その子は?ローズも、シスターじゃないのか?」
俺に名前を呼ばれて、ローズはぎりっと牙を剥いた。しかしリンは首を振る。
「ローズはまだ見習いなの。けど、そろそろ一年経つから、そしたらローズも正式なシスターよ。来年の満月祭は、二人でできるかもしれないわね」
リンがやさしく言い聞かすと、ローズはすぐに表情を戻し、にっこり笑った。恐ろしい転身の速さだ……てことは、ローズはリンに一年遅れで、シスター見習いになったってことだろうか。しかし、それじゃあ明日はどうあがいても、リンは一人きりであの城に向かうことになってしまう。不安だ……ものすごく。
つづく
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