じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
10-2
10-2
「……ん……ふわ~ぁ。あー……」
目を開けた俺は、ぼけーっとした頭で今の状況を思い出した。確か、ロアに誘われて、王城で一休みしたんだったよな。五分だけ寝たつもりだったけど、これはひょっとすると三十分は寝ちまったかもしれない。ふと横を見ると、隣のベッドで寝ていたはずのライラが、なぜか俺の傍らで寝息を立てていた。寝ぼけて転がって来たのか?え、でも隣のベッドとの間にはすき間が開いているんだけど……どうやってこっちに来たんだ?
「……め、なさ……」
ん?ライラが寝言でぼそぼそつぶやいている。俺はライラの口元に耳を寄せてみた。
「……ごめん、なさい……もり、こわして……」
「もり……?」
まさか、ライラ……竜巻でふっ飛ばした、あの森のことを……?
「あ、桜下さん。起きられました?」
俺の声を聞いたウィルが、ふわふわとベッドのそばまでやってきた。
「ん、おう……どれくらい時間たった?もしかして、数十分くらい寝てたりしたか?」
「数十分どころか、五時間寝てましたよ」
えっ。五分のつもりが、五時間……
「あ、あはは……どうりでよく寝た気がするわけだ」
「でも、ちょうどよかったです。あれから特に何も起きていませんし、もうそろそろ午後に差し掛かるはずですから」
「あー、そういや午後から王女さまと話せるんだっけ」
「ええ。そろそろライラさんも起こさないと。あ、お城の方が朝ご飯を置いといてくれましたよ。もうお昼ですけど」
あ、ほんとだ。サイドテーブルに、きつね色の焦げ目がついたサンドイッチとティーポットが置いてある。その隣のバスケットにはおいしそうな赤リンゴが入っていた。ほんとに至れり尽くせりだな。ちょっと不安になるくらい……
「……まさか、毒とか入ってないよな?」
『主様、でしたら私が毒見をしましょう。私を料理に触れさせてください』
え、アニが毒見?口がどこにも見当たらないけど……いわれた通り、アニをサンドウィッチにちょんとくっつけた。アニがぼんやりと青く光る。
『……毒物は含まれていないようです。念のため、ポットの中身も見ておきますか?』
「え、今ので分かったのか?」
『私にはミスリル銀が使われているので、触れれば毒物の有無を判定できるのですよ』
へー……どういう原理かはわかんないけど、とにかくそういうことらしい。一応ポットのお茶にもつけてみたけど、毒は入っていなかった。安心して遅い朝食を食べていると、ウィルに起こされたライラが、目をしょぼしょぼさせながら俺の隣にやってきた。
「桜下、ごはん食べてるの……?」
「おはよう、そうだぜ。あ、ライラの分も頼んどいたんだけど、持ってきてくれたかな」
「それなら、預かってるよ」
フランが、こん棒みたいな太い骨を三本抱えて、俺に渡してくれた。俺には骨の良し悪しはわからないけど、ライラが目を輝かせているから、いいものなんだろう。俺が骨をライラに渡すと、ライラはバリバリと骨をかじり始めた。頑丈なあごだな……
「なあ、ライラ。ところで、なんだけど」
「ん~?」
骨をかみ砕きながら、ライラが目だけをこちらに向けた。
「その、さ。魔法で森も吹っ飛ばしちまったこと、もしかして気にしてたりするか……?」
「んぐっ。ごほ、けほけほ」
「ああ、悪いわるい。消化に悪いこと聞いちまって……」
むせるライラの背中をなでる。しばらくして落ち着いたライラは、目を丸くして俺の顔を見つめた。
「よくわかったね。なんにも言ってないのに……」
「いやさ、ライラが寝てるときに、そんなようなことを寝言でつぶやいてたんだよ」
「え、ほんとう?う~ん……ちょぴっとだけ、ね。しょうがなかったって、わかってるんだけど。おかーさんは、どんな生き物にも命があるから、むやみに奪っちゃだめだって言ってたから」
「そっか……ごめんな。嫌なことさせちまったかな」
「ううん。あの時はしょーがなかったよ。あれが一番いい方法だったって、ライラも思うから。桜下は悪くないよ」
ライラがにこりと笑うので、俺はそれ以上何も言えなかった。確かにしょうがないことだと思うけど、せめて何かできないものだろうか……少しでも、ライラの気を軽くできるような……俺は何となしに部屋に視線を巡らせ、その時になってエラゼムの姿が見えないことに気付いた。
「あれ?そういや、エラゼムはどこ行ったんだ?」
俺がたずねると、フランが扉をくいっと指した。
「部屋の外。扉の前で見張りをしてる」
「お、そうだったのか。長いこと待たせちまったな」
俺は急いで飯を平らげた。ちょうど食い終わったタイミングで、エラゼムが扉をコンコンと叩いた。
「桜下殿、よろしいですかな?迎えの方がやってまいりました」
おっと、城の人間も一緒か。俺は口元をぬぐうと、放り出していた仮面をかぶりなおした。
「むぐ、ふぁい。ふぉうぞ」
俺が口をむぐむぐさせていると、さっき俺たちを案内した侍女が扉を開けて入ってきた。侍女は頬を膨らませた俺を見て眉をしかめ、その隣でバリバリ骨をかじるライラを見て顔を青ざめさせた。忙しい人だな。
「ご、ごほん!王女様がお呼びです。お部屋にご案内いたしますが、準備はよろしいですね!?」
「あー、はい。ライラ、いくぞ」
「けぷっ。はーい」
小さなげっぷとともに、骨の破片を吐き出したライラを見て、侍女はいよいよ顔をしわくちゃにした。
俺たちは侍女に連れられて、ロアが待つという部屋まで案内された。侍女は心なしか、俺たちから距離を取っているように見えた……
「こちらです」
やがて俺たちは、大きな部屋の前に案内された。扉には布でも張り付けてあるのか、豪華な刺繍が施されている。侍女が扉を三回ノックすると、中から「入れ」という声が聞こえてきた。
「失礼いたします」
侍女が静かに扉を開ける。部屋に通されると、中は俺たちがいた部屋の倍ほどの広さがあった。壁にはガラス棚が並べられ、高価であろう調度品が収められている。部屋の一角にあるコの字型のソファに、ロアが座っていた。そしてもう一方の面に、なんと包帯だらけのエドガーがいた。おいおい、大丈夫なのかよ?けっこうひどい怪我だろうに……
「座ってくれ」
ロアはソファのまだ誰も座っていない面を手で示した。俺がロアに一番近い位置に座り、フラン、ライラ、エラゼムが順に座った。ウィルは俺の後ろあたりに浮かんでいる。
侍女がティーポットとカップを机に並べ、ロアから順に茶を注いでいった(当然、俺たちは一番最後だ……)。全員に茶がいきわたると、ロアは侍女にうなずきかけた。
「ご苦労。すまないが、あとは外してくれるか」
「かしこまりました」
侍女は打って変わって恭しくお辞儀をすると、扉を静かに閉めて出て行った。
「さて……」
ロアが、ちらりと俺のほうを見た。
「よく、休めたか?」
「ああ。あんなに柔らかいベッドで寝たのは久々だったよ」
「そうか。ところで、この部屋には我々しかいないのだ。その窮屈な仮面は外したらどうだ?」
「ん、ああ……まあ、そうだな」
俺は仮面を手に取り、膝の上に置いた。一瞬、ロアとエドガーがまじまじと俺の顔を見る。俺が頬をぽりぽりかくと、ロアはごまかすようにお茶に口をつけた。
「……ふぅ」
ロアはゆっくりと一口飲むと、それっきり黙りこくった。何とも言えない沈黙があたりを包む。ライラは早くも飽きたのか、目の前のお茶に興味を示し、舌を突っ込んで「ぴっ」と悲鳴を上げた。舌をやけどしたらしい。
「……まず、そなたたちに礼を言わなければならんな」
カチャリとティーカップを置き、ロアが姿勢を正して俺を見た。
「此度は王都の防衛に尽力してくれたこと、感謝の言葉もない。本当にありがとう」
驚くことに、あの高慢ちきな印象しかなかったロアが、俺に頭を下げた。俺はびっくりしすぎて、とっさに言葉が出てこなかった。
「そなたたちがいなければ、今頃ハルペリンの薄汚い野望は成就していたことだろう。この城も敵の手に落ち、悲惨なことになっていたはずだ……それに……私も、あのままではどうなっていたことか……」
人間は、驚愕が重ね重ねやってくると、言語というものを失ってしまうらしい。俺はぽかんと口を開けて、ロアを見つめていた。ロアはすっかり鼻声になり、瞳を潤ませていたのだ。あの王女さまが、泣いている……あれだけの数の男たちに囲まれてなお、啖呵を切って見せたのに。
(いや、というよりは……)
「こわ、かった……!あのまま行けば、私は死ぬよりひどい目にあっていたかもしれない……!」
ロアは自分の腕を抱くと、背中を丸めてしまった。王女さまって言っても、一人の人間だ。あんな目にあっても怖くない人間なんて、いるはずがないのだ。肩を震わせるロアに、エドガーは娘を憐れむ父親のような目を向けている。するとエドガーはソファのわきにあった松葉杖をついて立ち上がり、俺たちに向けて深々と頭を下げた。
「私からも、礼を言う。私の代わりに王女殿下を守ってくれたことは、このエドガー、一生忘れはしない。本当に、ありがとう!」
「いや、俺たちはそんな……なぁ?」
こんなに拝み倒されると思ってなかった俺は、苦し紛れに隣のフランを振り返った。
「わたしに振らないでよ」
取り付く島もない……
「それに、そのことは紛れもない事実でしょ。経緯はどうあれ、わたしたちは王女を救ったんだ」
まあ、それは確かにな。俺としては、王女のためというより、あの兵士との約束を守ったという面が大きいのだけれど。
「ぐすっ……すまん、取り乱してしまった。だが本当に、そなたには感謝しているのだ。そして同時に、私たちはそなたに謝らなければならない。一言いうだけですべてが水に流れるとは思わないが、それでも……すまなかった」
ロアがまたしても頭を下げる。もう今日は、どんなにあり得ない事が起こっても不思議じゃないかもしれない。フランが腹を抱えて爆笑するとか、エラゼムがセクハラオヤジと化すとか……
「……まぁ、謝罪は受け取るけど。でも、さすがに今までのことを全部忘れろってのは、無理な相談だぜ」
「うむ、そのことも理解している。しかし、一度弁明の機会をもらえぬだろうか。さっきも申したが、我々はあまりにも多くを誤解している。なぜ我々があのような態度をとったのか、きちんと説明させてほしい」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「……ん……ふわ~ぁ。あー……」
目を開けた俺は、ぼけーっとした頭で今の状況を思い出した。確か、ロアに誘われて、王城で一休みしたんだったよな。五分だけ寝たつもりだったけど、これはひょっとすると三十分は寝ちまったかもしれない。ふと横を見ると、隣のベッドで寝ていたはずのライラが、なぜか俺の傍らで寝息を立てていた。寝ぼけて転がって来たのか?え、でも隣のベッドとの間にはすき間が開いているんだけど……どうやってこっちに来たんだ?
「……め、なさ……」
ん?ライラが寝言でぼそぼそつぶやいている。俺はライラの口元に耳を寄せてみた。
「……ごめん、なさい……もり、こわして……」
「もり……?」
まさか、ライラ……竜巻でふっ飛ばした、あの森のことを……?
「あ、桜下さん。起きられました?」
俺の声を聞いたウィルが、ふわふわとベッドのそばまでやってきた。
「ん、おう……どれくらい時間たった?もしかして、数十分くらい寝てたりしたか?」
「数十分どころか、五時間寝てましたよ」
えっ。五分のつもりが、五時間……
「あ、あはは……どうりでよく寝た気がするわけだ」
「でも、ちょうどよかったです。あれから特に何も起きていませんし、もうそろそろ午後に差し掛かるはずですから」
「あー、そういや午後から王女さまと話せるんだっけ」
「ええ。そろそろライラさんも起こさないと。あ、お城の方が朝ご飯を置いといてくれましたよ。もうお昼ですけど」
あ、ほんとだ。サイドテーブルに、きつね色の焦げ目がついたサンドイッチとティーポットが置いてある。その隣のバスケットにはおいしそうな赤リンゴが入っていた。ほんとに至れり尽くせりだな。ちょっと不安になるくらい……
「……まさか、毒とか入ってないよな?」
『主様、でしたら私が毒見をしましょう。私を料理に触れさせてください』
え、アニが毒見?口がどこにも見当たらないけど……いわれた通り、アニをサンドウィッチにちょんとくっつけた。アニがぼんやりと青く光る。
『……毒物は含まれていないようです。念のため、ポットの中身も見ておきますか?』
「え、今ので分かったのか?」
『私にはミスリル銀が使われているので、触れれば毒物の有無を判定できるのですよ』
へー……どういう原理かはわかんないけど、とにかくそういうことらしい。一応ポットのお茶にもつけてみたけど、毒は入っていなかった。安心して遅い朝食を食べていると、ウィルに起こされたライラが、目をしょぼしょぼさせながら俺の隣にやってきた。
「桜下、ごはん食べてるの……?」
「おはよう、そうだぜ。あ、ライラの分も頼んどいたんだけど、持ってきてくれたかな」
「それなら、預かってるよ」
フランが、こん棒みたいな太い骨を三本抱えて、俺に渡してくれた。俺には骨の良し悪しはわからないけど、ライラが目を輝かせているから、いいものなんだろう。俺が骨をライラに渡すと、ライラはバリバリと骨をかじり始めた。頑丈なあごだな……
「なあ、ライラ。ところで、なんだけど」
「ん~?」
骨をかみ砕きながら、ライラが目だけをこちらに向けた。
「その、さ。魔法で森も吹っ飛ばしちまったこと、もしかして気にしてたりするか……?」
「んぐっ。ごほ、けほけほ」
「ああ、悪いわるい。消化に悪いこと聞いちまって……」
むせるライラの背中をなでる。しばらくして落ち着いたライラは、目を丸くして俺の顔を見つめた。
「よくわかったね。なんにも言ってないのに……」
「いやさ、ライラが寝てるときに、そんなようなことを寝言でつぶやいてたんだよ」
「え、ほんとう?う~ん……ちょぴっとだけ、ね。しょうがなかったって、わかってるんだけど。おかーさんは、どんな生き物にも命があるから、むやみに奪っちゃだめだって言ってたから」
「そっか……ごめんな。嫌なことさせちまったかな」
「ううん。あの時はしょーがなかったよ。あれが一番いい方法だったって、ライラも思うから。桜下は悪くないよ」
ライラがにこりと笑うので、俺はそれ以上何も言えなかった。確かにしょうがないことだと思うけど、せめて何かできないものだろうか……少しでも、ライラの気を軽くできるような……俺は何となしに部屋に視線を巡らせ、その時になってエラゼムの姿が見えないことに気付いた。
「あれ?そういや、エラゼムはどこ行ったんだ?」
俺がたずねると、フランが扉をくいっと指した。
「部屋の外。扉の前で見張りをしてる」
「お、そうだったのか。長いこと待たせちまったな」
俺は急いで飯を平らげた。ちょうど食い終わったタイミングで、エラゼムが扉をコンコンと叩いた。
「桜下殿、よろしいですかな?迎えの方がやってまいりました」
おっと、城の人間も一緒か。俺は口元をぬぐうと、放り出していた仮面をかぶりなおした。
「むぐ、ふぁい。ふぉうぞ」
俺が口をむぐむぐさせていると、さっき俺たちを案内した侍女が扉を開けて入ってきた。侍女は頬を膨らませた俺を見て眉をしかめ、その隣でバリバリ骨をかじるライラを見て顔を青ざめさせた。忙しい人だな。
「ご、ごほん!王女様がお呼びです。お部屋にご案内いたしますが、準備はよろしいですね!?」
「あー、はい。ライラ、いくぞ」
「けぷっ。はーい」
小さなげっぷとともに、骨の破片を吐き出したライラを見て、侍女はいよいよ顔をしわくちゃにした。
俺たちは侍女に連れられて、ロアが待つという部屋まで案内された。侍女は心なしか、俺たちから距離を取っているように見えた……
「こちらです」
やがて俺たちは、大きな部屋の前に案内された。扉には布でも張り付けてあるのか、豪華な刺繍が施されている。侍女が扉を三回ノックすると、中から「入れ」という声が聞こえてきた。
「失礼いたします」
侍女が静かに扉を開ける。部屋に通されると、中は俺たちがいた部屋の倍ほどの広さがあった。壁にはガラス棚が並べられ、高価であろう調度品が収められている。部屋の一角にあるコの字型のソファに、ロアが座っていた。そしてもう一方の面に、なんと包帯だらけのエドガーがいた。おいおい、大丈夫なのかよ?けっこうひどい怪我だろうに……
「座ってくれ」
ロアはソファのまだ誰も座っていない面を手で示した。俺がロアに一番近い位置に座り、フラン、ライラ、エラゼムが順に座った。ウィルは俺の後ろあたりに浮かんでいる。
侍女がティーポットとカップを机に並べ、ロアから順に茶を注いでいった(当然、俺たちは一番最後だ……)。全員に茶がいきわたると、ロアは侍女にうなずきかけた。
「ご苦労。すまないが、あとは外してくれるか」
「かしこまりました」
侍女は打って変わって恭しくお辞儀をすると、扉を静かに閉めて出て行った。
「さて……」
ロアが、ちらりと俺のほうを見た。
「よく、休めたか?」
「ああ。あんなに柔らかいベッドで寝たのは久々だったよ」
「そうか。ところで、この部屋には我々しかいないのだ。その窮屈な仮面は外したらどうだ?」
「ん、ああ……まあ、そうだな」
俺は仮面を手に取り、膝の上に置いた。一瞬、ロアとエドガーがまじまじと俺の顔を見る。俺が頬をぽりぽりかくと、ロアはごまかすようにお茶に口をつけた。
「……ふぅ」
ロアはゆっくりと一口飲むと、それっきり黙りこくった。何とも言えない沈黙があたりを包む。ライラは早くも飽きたのか、目の前のお茶に興味を示し、舌を突っ込んで「ぴっ」と悲鳴を上げた。舌をやけどしたらしい。
「……まず、そなたたちに礼を言わなければならんな」
カチャリとティーカップを置き、ロアが姿勢を正して俺を見た。
「此度は王都の防衛に尽力してくれたこと、感謝の言葉もない。本当にありがとう」
驚くことに、あの高慢ちきな印象しかなかったロアが、俺に頭を下げた。俺はびっくりしすぎて、とっさに言葉が出てこなかった。
「そなたたちがいなければ、今頃ハルペリンの薄汚い野望は成就していたことだろう。この城も敵の手に落ち、悲惨なことになっていたはずだ……それに……私も、あのままではどうなっていたことか……」
人間は、驚愕が重ね重ねやってくると、言語というものを失ってしまうらしい。俺はぽかんと口を開けて、ロアを見つめていた。ロアはすっかり鼻声になり、瞳を潤ませていたのだ。あの王女さまが、泣いている……あれだけの数の男たちに囲まれてなお、啖呵を切って見せたのに。
(いや、というよりは……)
「こわ、かった……!あのまま行けば、私は死ぬよりひどい目にあっていたかもしれない……!」
ロアは自分の腕を抱くと、背中を丸めてしまった。王女さまって言っても、一人の人間だ。あんな目にあっても怖くない人間なんて、いるはずがないのだ。肩を震わせるロアに、エドガーは娘を憐れむ父親のような目を向けている。するとエドガーはソファのわきにあった松葉杖をついて立ち上がり、俺たちに向けて深々と頭を下げた。
「私からも、礼を言う。私の代わりに王女殿下を守ってくれたことは、このエドガー、一生忘れはしない。本当に、ありがとう!」
「いや、俺たちはそんな……なぁ?」
こんなに拝み倒されると思ってなかった俺は、苦し紛れに隣のフランを振り返った。
「わたしに振らないでよ」
取り付く島もない……
「それに、そのことは紛れもない事実でしょ。経緯はどうあれ、わたしたちは王女を救ったんだ」
まあ、それは確かにな。俺としては、王女のためというより、あの兵士との約束を守ったという面が大きいのだけれど。
「ぐすっ……すまん、取り乱してしまった。だが本当に、そなたには感謝しているのだ。そして同時に、私たちはそなたに謝らなければならない。一言いうだけですべてが水に流れるとは思わないが、それでも……すまなかった」
ロアがまたしても頭を下げる。もう今日は、どんなにあり得ない事が起こっても不思議じゃないかもしれない。フランが腹を抱えて爆笑するとか、エラゼムがセクハラオヤジと化すとか……
「……まぁ、謝罪は受け取るけど。でも、さすがに今までのことを全部忘れろってのは、無理な相談だぜ」
「うむ、そのことも理解している。しかし、一度弁明の機会をもらえぬだろうか。さっきも申したが、我々はあまりにも多くを誤解している。なぜ我々があのような態度をとったのか、きちんと説明させてほしい」
つづく
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