じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
2-1 一の国の勇者
2-1 一の国の勇者
俺たちの緊張が空気に乗って伝わったのか、金髪の少年も無駄口を叩くのをやめた。
「……騎士の精神に従って、まずは名を名乗ろう。僕はクラーク。一の国の勇者だ」
クラークと名乗った少年は、青い瞳をきりりと引き締めて言った。金髪碧眼だなんて、絵に描いたみたいな勇者像だ……それより、一の国だって?それって、この二の国の隣だよな?どうして他国の勇者がここにいるんだ?
「おい、あんた。自分を勇者だっていうけど、ここが何の国かわかっているのか?もしも勘違いしてるなら、すぐに国に帰ることをお勧めするぜ」
「勘違いなどしていない。僕は、二の国の王女に挨拶するためにこの国にきたんだ。そしてそこで、到底許せない噂を耳にした」
「許せない噂?」
「そうだ。それはお前、悪の勇者のことだ!」
クラークはびしっと、俺を指さした。
「悪逆非道、邪悪な勇者が城を脱走し、この国を逃亡している!それを悪と言わずして、なんと言う!」
「はぁ?ちょっと待ってくれよ、それがホントかどうか分かって言ってんのか?第一、俺はなにも邪悪なことはしてないはずだぜ」
「嘘を言うな!ここに来るまでに、モンロービルという村を通ってきた。そこでお前の罪はすべて確認済みだ!」
げっ。モンロービルって、俺がフランと出会った、あの村じゃないか。確かにあそこでは、俺は村人たちとひと悶着起こしている。もちろん、俺からしたら謂れのない濡れ衣だったけど、あそこの村人たちは俺のことを極悪な犯罪人で、しかも村長の娘を襲った暴漢……って、思っているんだっけ。
「お前はあの村だけでも、人々に暴力を振るい、村長さんを貶めるような嘘を流し、そして……村の女性に、乱暴をはたらいた!」
特に最後の部分で、クラークは語気を強めた。ビシリ。クラークが叫ぶと、空気中に見えない閃光が走ったような気がした。
「それだけじゃない!ラクーンの町では、何人もの王国兵に大けがを負わせた!自分が捕まりたくないなどと言う、身勝手な理由のためにだ!お前の罪は、到底許されていいものじゃない!」
「罪って……あのなぁ。だいたい、俺のことを悪だなんだって言い出したのは向こうが先だぜ?俺はまだ何もしてないのに、だ。それなのに罪もへったくれもあるかよ?そういう意味なら、悪いのは最初に仕掛けたあの高慢ちきな王女様の方だぜ。お前も会ったことあるんだろ?」
「お前……王女さえも馬鹿にするのか!王女が今どれだけ苦しい状況にいるのか、お前にわかるのか!」
「は?どういうことだ……?」
「王女は、お前が逃げ出したことで責任を問われる身になってしまったんだ。そのせいで反乱がおきて、今王都は大変なことになっているんだぞ……!」
なんだと?あ、だから俺を追っていた兵士たちが引き返していったのか!反乱……クーデターだ。
「そんなことに、なってんのか……」
「お前の身勝手のせいで、この国そのものの平和が乱されようとしている!恥ずかしいと思わないのか?世界を救う勇者のはずが、逆に世界を混乱に陥れているなんて!恥を知るがいい!」
かちん。こんの、言わせておけば……いい加減頭に来たぞ。一部事実があるとはいえ、ほとんど誤解じゃないか。俺はかっとなって言い返そうとしたが、俺よりも先に口を開いた人物がいた。
「ちょっと!黙って聞いてれば、ふざけるのも大概にして!」
そう怒鳴ったのは、フランだった。普段ほとんど無表情な彼女が、今は怒りに顔を歪ませている。いきなり怒声を浴びせられて、クラークは面食らったようだ。
「えっ。あれ、女の子……?」
「あなた、一体誰に話を聞いてきた?モンロービルでの一件は、全部あの村の村長がでっち上げたことだ!村の女が襲われたって、本人に話聞いたわけ?ジェスって子にそのことを話せば、鼻で笑われるのがオチだ!」
「え、あの、僕は……」
「それに!ラクーンで最初にけしかけてきたのは向こうが先だった!抵抗して何が悪いの?この人はなにも悪いことしてないのに!嘘だと思うなら、ラクーンで死人が出たか確かめてみればいい、誰一人死んでないことが分かるから!」
「いや……というか、キミは……?」
クラークはフランの勢いに押されて、あわれなくらいたじたじになっている。というか、照れている?クラークは顔を赤らめて、目をフランの足もとあたりに泳がせていた。
(ああ、そっか……)
ずっと一緒にいて慣れていたけど、フランはそれなりにかわいい。そんな子にいきなりまくしたてられたら、誰だって面食らうか。
「ちょっとクラーク!しっかりしてよ!」
クラークがみるみる覇気を失ったのを見て、コルルがばしっとクラークの腕を叩いた。
「なに弱気になってんの!あいつはあの勇者の仲間なのよ!」
「だ、だって。まさか、悪の勇者に女の子の仲間がいるとは思わなかったから……」
「だから、しっかりしてってば!暗くて見づらいかもしれないけど、あの子、ただの人間じゃないわよ。あの勇者、確かネクロマンサーなんでしょ?」
クラークははっとして、フランの顔をまじまじと見た。だがすぐにまた赤くなると、ふいっと目をそらした。
「クラーク!」
「いた、コルル、痛いよ。しょうがないじゃないか、見た目は普通の女の子だよ」
「もぉ~~~!どうしてあんたって人は、女っていうのに弱いのよぉ」
また漫才が始まったぞ……?俺はフランの肩をちょいちょいとつついた。
「やったな、フラン。お前が美人なおかげで、あいつらと戦わずにすむかもしれないぜ」
「……冗談じゃない。わたし、ああいう男はシュミじゃない」
フランににべもなくフラれたとは知らずに、クラークとコルルはまだいがみ合っていた。が、二人の後ろにいた女性の内の一人が、大きく咳払いをした。
「んんっ!二人とも、そろそろ止めないか。相手も呆れているぞ」
クラークとコルルはハッとすると、ようやく口喧嘩を止めた。クラークがその女性に謝る。
「ごめん、アドリア。僕のせいで……」
「それはいい。それよりも、あの勇者を討つのではなかったか?」
アドリアと呼ばれた女性は、女の人にしてはずいぶん背が高い。体つきもがっしりしていて、片目に眼帯を付けている。武人と言ういで立ちだ。背中には大きな弓矢を背負っていた。
「そう、だったね。相手が誰であれ、目的を見失っちゃならない」
「そうしてくれ。そろそろミカエルが緊張でぽっくりいきそうだ」
アドリアの隣には、対照的にずいぶん背の低い女性がいた。少女と言ってもいいかもしれない。ウィルに似た修道女のようなローブを着ていて、口を真一文字に結んで、顔を蒼白にしていた。彼女がミカエルか。
「よし、仕切り直しだ……ごほん。僕の言いたいことは、つまりこういうことだ。僕は勇者でありながら、その力を正しく使わない者を許すことはできない。おとなしく捕まり、然るべき罰を受けるべきだ」
フランがまた眉を吊り上げる。
「だから!話聞いてたの?どれも嘘っぱちだって言ってるでしょ!」
「罪人はみな一度はそう言う。“何かの間違いだ”、“自分は悪くない”、とね。けど、それを決めるのは罪人自身じゃない。世の中が、それが正しいか、間違っているかを決めるんだ」
クラークはもうもじもじすることはなく、きっぱりと言い切った。
「僕は、王城からここまで、様々な人たちの意見を聞いてきた。その人たちのほとんどが、キミたちを悪だと言ってる。ならば、キミたちがなんと言おうと関係ない。僕は正義の代行者として、キミたち悪をさばく」
「な……あなた、子ども?みんなが正しいって言えば正しくて、みんなが間違ってるって言えばそれは間違いだって思ってるの?ばっかみたい!」
「いいや、間違ってるのはキミの方だ。正義と言うのは、そうやって決まるものだよ」
「どうしてそれで正しいって言いきれる!あなたは、ほんとうに“全員”の話を聞いてきたわけ?」
「キミが言っているのは、つまりこういうことだ。ある人間の裁判で、百人中九十九人がそいつを悪だと言った。だけどたった一人だけ、それは間違っている、そいつは善人なんだと言うんだ。キミはその現場を見て、その一人の意見が正しいと、正義だと思えるかい?」
「話をすり替えるな!これは裁判なんかじゃない!正しいか間違ってるかなんて、そういう風に決めるものじゃないでしょ!?」
「違うね。正邪っていうのは、人の意識によって決まるんだよ。どんな悪人でも、一人や二人はそいつの肩を持つ人間がいるものさ。だからってそんな意見にいちいち耳を傾けていたら、正義という定義そのものが歪んでしまう。悪が正義になり、正義が悪になってしまう。そんな事、僕は絶対に許さない!」
「~~~ッ!」
フランはなおも言い返そうとしたが、俺はその肩をそっとおさえた。
「フラン、もういい。ありがとな」
「ちょっと!どうしてあなたが止めるの?あいつ、言ってることがむちゃくちゃだ!」
「ああ、俺だっていい気はしないさ。けど、そういうことじゃないんだ。あいつ、もうこっちの話を聞く気が無いぜ」
クラークはマントをバッと広げると、腰にさしている剣を引き抜いた。シュルルリーン!目の覚めるような音を響かせて、真っ白に輝く刀身をした剣が現れた。コルルは杖を構え、アドリアは弓に矢をつがえる。クラークは剣先を真っすぐこちらに向けた。
「僕は、正義の代行者だ。僕自身が正義の視準となり、正義を乱す悪の芽を一つ残らず消し飛ばす。世の中は、お前たちを悪だと決めた。だから僕は、世界に代わって、お前たちを許さない!」
「……だってさ、みんな。あの勇者様は、俺たちを見逃してくれる気は無いらしい。おとなしくお縄につくか?」
俺の問いかけに、フランは爪を抜き、エラゼムは剣を構え、ウィルは杖を握りしめ、ライラは両手を前に突き出した。つまり、こういうことだな。
「……答えは、“ノー”だっ!」
「ヤトロファクルカス!」「ジラソーレ!」
ズガガーン!俺が叫ぶやいなや、あちらのコルルの魔法とライラの魔法が空中で激突した。爆炎が上がり、強い風が吹き付ける。両魔術師のファーストコンタクトは、互角だ。
「クラーク、相手にも魔術師がいるわよ!」
「わかった!僕が行く!」
砂煙が舞い上がる中を、クラークが突っ込んできた!クラークが剣を振り上げる。その前に、小さな影が立ちふさがった。
つづく
====================
【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】
年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!
もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、
【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。
寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!
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俺たちの緊張が空気に乗って伝わったのか、金髪の少年も無駄口を叩くのをやめた。
「……騎士の精神に従って、まずは名を名乗ろう。僕はクラーク。一の国の勇者だ」
クラークと名乗った少年は、青い瞳をきりりと引き締めて言った。金髪碧眼だなんて、絵に描いたみたいな勇者像だ……それより、一の国だって?それって、この二の国の隣だよな?どうして他国の勇者がここにいるんだ?
「おい、あんた。自分を勇者だっていうけど、ここが何の国かわかっているのか?もしも勘違いしてるなら、すぐに国に帰ることをお勧めするぜ」
「勘違いなどしていない。僕は、二の国の王女に挨拶するためにこの国にきたんだ。そしてそこで、到底許せない噂を耳にした」
「許せない噂?」
「そうだ。それはお前、悪の勇者のことだ!」
クラークはびしっと、俺を指さした。
「悪逆非道、邪悪な勇者が城を脱走し、この国を逃亡している!それを悪と言わずして、なんと言う!」
「はぁ?ちょっと待ってくれよ、それがホントかどうか分かって言ってんのか?第一、俺はなにも邪悪なことはしてないはずだぜ」
「嘘を言うな!ここに来るまでに、モンロービルという村を通ってきた。そこでお前の罪はすべて確認済みだ!」
げっ。モンロービルって、俺がフランと出会った、あの村じゃないか。確かにあそこでは、俺は村人たちとひと悶着起こしている。もちろん、俺からしたら謂れのない濡れ衣だったけど、あそこの村人たちは俺のことを極悪な犯罪人で、しかも村長の娘を襲った暴漢……って、思っているんだっけ。
「お前はあの村だけでも、人々に暴力を振るい、村長さんを貶めるような嘘を流し、そして……村の女性に、乱暴をはたらいた!」
特に最後の部分で、クラークは語気を強めた。ビシリ。クラークが叫ぶと、空気中に見えない閃光が走ったような気がした。
「それだけじゃない!ラクーンの町では、何人もの王国兵に大けがを負わせた!自分が捕まりたくないなどと言う、身勝手な理由のためにだ!お前の罪は、到底許されていいものじゃない!」
「罪って……あのなぁ。だいたい、俺のことを悪だなんだって言い出したのは向こうが先だぜ?俺はまだ何もしてないのに、だ。それなのに罪もへったくれもあるかよ?そういう意味なら、悪いのは最初に仕掛けたあの高慢ちきな王女様の方だぜ。お前も会ったことあるんだろ?」
「お前……王女さえも馬鹿にするのか!王女が今どれだけ苦しい状況にいるのか、お前にわかるのか!」
「は?どういうことだ……?」
「王女は、お前が逃げ出したことで責任を問われる身になってしまったんだ。そのせいで反乱がおきて、今王都は大変なことになっているんだぞ……!」
なんだと?あ、だから俺を追っていた兵士たちが引き返していったのか!反乱……クーデターだ。
「そんなことに、なってんのか……」
「お前の身勝手のせいで、この国そのものの平和が乱されようとしている!恥ずかしいと思わないのか?世界を救う勇者のはずが、逆に世界を混乱に陥れているなんて!恥を知るがいい!」
かちん。こんの、言わせておけば……いい加減頭に来たぞ。一部事実があるとはいえ、ほとんど誤解じゃないか。俺はかっとなって言い返そうとしたが、俺よりも先に口を開いた人物がいた。
「ちょっと!黙って聞いてれば、ふざけるのも大概にして!」
そう怒鳴ったのは、フランだった。普段ほとんど無表情な彼女が、今は怒りに顔を歪ませている。いきなり怒声を浴びせられて、クラークは面食らったようだ。
「えっ。あれ、女の子……?」
「あなた、一体誰に話を聞いてきた?モンロービルでの一件は、全部あの村の村長がでっち上げたことだ!村の女が襲われたって、本人に話聞いたわけ?ジェスって子にそのことを話せば、鼻で笑われるのがオチだ!」
「え、あの、僕は……」
「それに!ラクーンで最初にけしかけてきたのは向こうが先だった!抵抗して何が悪いの?この人はなにも悪いことしてないのに!嘘だと思うなら、ラクーンで死人が出たか確かめてみればいい、誰一人死んでないことが分かるから!」
「いや……というか、キミは……?」
クラークはフランの勢いに押されて、あわれなくらいたじたじになっている。というか、照れている?クラークは顔を赤らめて、目をフランの足もとあたりに泳がせていた。
(ああ、そっか……)
ずっと一緒にいて慣れていたけど、フランはそれなりにかわいい。そんな子にいきなりまくしたてられたら、誰だって面食らうか。
「ちょっとクラーク!しっかりしてよ!」
クラークがみるみる覇気を失ったのを見て、コルルがばしっとクラークの腕を叩いた。
「なに弱気になってんの!あいつはあの勇者の仲間なのよ!」
「だ、だって。まさか、悪の勇者に女の子の仲間がいるとは思わなかったから……」
「だから、しっかりしてってば!暗くて見づらいかもしれないけど、あの子、ただの人間じゃないわよ。あの勇者、確かネクロマンサーなんでしょ?」
クラークははっとして、フランの顔をまじまじと見た。だがすぐにまた赤くなると、ふいっと目をそらした。
「クラーク!」
「いた、コルル、痛いよ。しょうがないじゃないか、見た目は普通の女の子だよ」
「もぉ~~~!どうしてあんたって人は、女っていうのに弱いのよぉ」
また漫才が始まったぞ……?俺はフランの肩をちょいちょいとつついた。
「やったな、フラン。お前が美人なおかげで、あいつらと戦わずにすむかもしれないぜ」
「……冗談じゃない。わたし、ああいう男はシュミじゃない」
フランににべもなくフラれたとは知らずに、クラークとコルルはまだいがみ合っていた。が、二人の後ろにいた女性の内の一人が、大きく咳払いをした。
「んんっ!二人とも、そろそろ止めないか。相手も呆れているぞ」
クラークとコルルはハッとすると、ようやく口喧嘩を止めた。クラークがその女性に謝る。
「ごめん、アドリア。僕のせいで……」
「それはいい。それよりも、あの勇者を討つのではなかったか?」
アドリアと呼ばれた女性は、女の人にしてはずいぶん背が高い。体つきもがっしりしていて、片目に眼帯を付けている。武人と言ういで立ちだ。背中には大きな弓矢を背負っていた。
「そう、だったね。相手が誰であれ、目的を見失っちゃならない」
「そうしてくれ。そろそろミカエルが緊張でぽっくりいきそうだ」
アドリアの隣には、対照的にずいぶん背の低い女性がいた。少女と言ってもいいかもしれない。ウィルに似た修道女のようなローブを着ていて、口を真一文字に結んで、顔を蒼白にしていた。彼女がミカエルか。
「よし、仕切り直しだ……ごほん。僕の言いたいことは、つまりこういうことだ。僕は勇者でありながら、その力を正しく使わない者を許すことはできない。おとなしく捕まり、然るべき罰を受けるべきだ」
フランがまた眉を吊り上げる。
「だから!話聞いてたの?どれも嘘っぱちだって言ってるでしょ!」
「罪人はみな一度はそう言う。“何かの間違いだ”、“自分は悪くない”、とね。けど、それを決めるのは罪人自身じゃない。世の中が、それが正しいか、間違っているかを決めるんだ」
クラークはもうもじもじすることはなく、きっぱりと言い切った。
「僕は、王城からここまで、様々な人たちの意見を聞いてきた。その人たちのほとんどが、キミたちを悪だと言ってる。ならば、キミたちがなんと言おうと関係ない。僕は正義の代行者として、キミたち悪をさばく」
「な……あなた、子ども?みんなが正しいって言えば正しくて、みんなが間違ってるって言えばそれは間違いだって思ってるの?ばっかみたい!」
「いいや、間違ってるのはキミの方だ。正義と言うのは、そうやって決まるものだよ」
「どうしてそれで正しいって言いきれる!あなたは、ほんとうに“全員”の話を聞いてきたわけ?」
「キミが言っているのは、つまりこういうことだ。ある人間の裁判で、百人中九十九人がそいつを悪だと言った。だけどたった一人だけ、それは間違っている、そいつは善人なんだと言うんだ。キミはその現場を見て、その一人の意見が正しいと、正義だと思えるかい?」
「話をすり替えるな!これは裁判なんかじゃない!正しいか間違ってるかなんて、そういう風に決めるものじゃないでしょ!?」
「違うね。正邪っていうのは、人の意識によって決まるんだよ。どんな悪人でも、一人や二人はそいつの肩を持つ人間がいるものさ。だからってそんな意見にいちいち耳を傾けていたら、正義という定義そのものが歪んでしまう。悪が正義になり、正義が悪になってしまう。そんな事、僕は絶対に許さない!」
「~~~ッ!」
フランはなおも言い返そうとしたが、俺はその肩をそっとおさえた。
「フラン、もういい。ありがとな」
「ちょっと!どうしてあなたが止めるの?あいつ、言ってることがむちゃくちゃだ!」
「ああ、俺だっていい気はしないさ。けど、そういうことじゃないんだ。あいつ、もうこっちの話を聞く気が無いぜ」
クラークはマントをバッと広げると、腰にさしている剣を引き抜いた。シュルルリーン!目の覚めるような音を響かせて、真っ白に輝く刀身をした剣が現れた。コルルは杖を構え、アドリアは弓に矢をつがえる。クラークは剣先を真っすぐこちらに向けた。
「僕は、正義の代行者だ。僕自身が正義の視準となり、正義を乱す悪の芽を一つ残らず消し飛ばす。世の中は、お前たちを悪だと決めた。だから僕は、世界に代わって、お前たちを許さない!」
「……だってさ、みんな。あの勇者様は、俺たちを見逃してくれる気は無いらしい。おとなしくお縄につくか?」
俺の問いかけに、フランは爪を抜き、エラゼムは剣を構え、ウィルは杖を握りしめ、ライラは両手を前に突き出した。つまり、こういうことだな。
「……答えは、“ノー”だっ!」
「ヤトロファクルカス!」「ジラソーレ!」
ズガガーン!俺が叫ぶやいなや、あちらのコルルの魔法とライラの魔法が空中で激突した。爆炎が上がり、強い風が吹き付ける。両魔術師のファーストコンタクトは、互角だ。
「クラーク、相手にも魔術師がいるわよ!」
「わかった!僕が行く!」
砂煙が舞い上がる中を、クラークが突っ込んできた!クラークが剣を振り上げる。その前に、小さな影が立ちふさがった。
つづく
====================
【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】
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