じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
11-2
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「終わった、のか……」
決着は一瞬だったせいで、俺はまだ勝利の実感を掴めずにいた。戦いが終わったことを、倒れていた仲間たちも気付いたようだ。
「……いやはや、吾輩もまだまだ未熟ですな。あれだけ啖呵を切ったというのに、結局ほとんど役に立てなんだ」
エラゼムが低木の茂みの中からむくりと起き上がる。彼の鎧は、ゴーレムに吹っ飛ばされたせいであちこち凹んでしまっている。
「何言っでるの、ごほ。あなたが剣を突き刺さなかったら、あいつに傷をづげられながっだよ」
フランが転がっていた草むらから身を起こすと、ガラガラ声で言った。フランはそのまま、力を使い果たしてへたり込んでいるウィルの元まで歩いて行った。
「ほら、あなたも。立てる?」
「ひぃー、ひぃー……む、むりです……」
「わかった。ほら」
フランはかがんで、ウィルの脇を抱えて自分の肩に腕を回させた。
「すみません……」
「いいよ」
フランがウィルを抱き起す。ところがその時、グチャっと嫌な音がして、フランの腕がだらりと垂れ下がった。傷だらけで酷使した体が、ついに限界を迎えたらしい。急に支えを失って、ウィルは顔面から地面にめり込んだ……見ちゃいられないな。俺は二人の元へ駆け寄った。
「フラン、ウィル、お疲れさん。とりあえずフラン、その傷を治しちまおう。見てて痛々しいよ」
「わがっだ」
俺は一声断ってから、フランの胸の上に手を重ねた。
「ディストーションハンド・ファズ!」
ブワーッ。俺の右手が陽炎のように揺らぐと、そこを通じて俺とフランの魂が繋がったような、奇妙な一体感があふれてくる。フランの全身の風穴はみるみるふさがり、べっとりと張り付いていた黒い血のりは、逆再生のように体の中へと吸い込まれていった。
「よし、いっちょ上がりだ。どうだ、フラン?」
「……あー、あー。うん、のども治った」
フランの声はいつも通りの、落ち着いたものに戻っていた。
「……今になって思ったけど、さっき棘に刺されたときに、“ファズ”で治しちまえばよかったな」
「別に、いいよ。どうせすぐまた怪我してたかもしれないし、きりがないから」
「そうか?……さて、ウィルはまだ動けそうにないよな?」
「む、むり……」
ウィルは顔の半分がまだ地面の中に埋まった状態で答えた。だろうなぁ。
「なぁアニ、“ファズ”の呪文じゃウィルのコレは治せないんだよな?」
『ええ。彼女の症状は魂疲れ、いわゆる魔力切れですからね。“ファズ”は心身の状態を戻すだけであって、魂や記憶といったものには干渉しませんから』
「そっか。魂の治し方まではわかんないしな……」
俺は半分うずもれるウィルを哀れに思ったが、今はそっとしておいてやることにした。ウィルもこんな姿をまじまじ見られたくはないだろう。俺は次に、少し離れたところに立っているエラゼムのもとへ歩いて行った。何をしてるんだろうと思ったが、どうやら吹き飛ばされた自分の大剣を拾いに行っていたらしい。
「エラゼムもお疲れ。剣は無事だったか?」
「桜下殿。ええ、問題ございません。吾輩のことより、フラン嬢とウィル嬢のことを先に看てくだされ」
「もう見てきたよ、二人とも大丈夫だ。あー、ウィルはまだあんなだけど」
「おお、なんと……痛ましい姿に」
エラゼムがあまりに神妙な声を出すもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。エラゼムもさすがに、ふ、ふ、ふ、と小さな笑いをこぼした。
「さぁ、エラゼムの鎧も治しちまおう」
俺はエラゼムの鎧に手をつくと、“ファズ”の呪文を唱えた。エラゼムのひしゃげた鎧が元通りに直る。
「かたじけない、桜下殿。しかし、あの少女の力は大したものですな。彼女がいなければ、この程度の損傷では済まなかったやもしれませぬ」
「ほんとだな。ライラが手を貸す気になってくれてよかったよ」
「あれだけの威力の上級魔法、吾輩が生きていたころでも見たことはありません。一体何者なのでしょう、彼女は……」
俺とエラゼムはそろって、少し離れたところにポツンと佇むライラを見つめた。彼女は誰かと勝利の喜びを分かち合うでもなく、それどころか自分の成果に対しても何ら興味がなさそうだった。
「桜下殿、行ってあげてくだされ」
「うん?ライラの所にか?」
「ええ。これは吾輩の勝手な想像なのですが、彼女が心変わりしたきっかけをお与えになったのは桜下殿だったのではないですか?」
「俺が?そりゃ、二、三、話しはしたけど……」
「桜下殿は……これは悪い意味ではありませんが……不思議な方ですからな。きっとこの場の誰より、桜下殿が行かれたほうが彼女も喜ぶことでしょう」
「んなことはないと思うけど……ま、それだけ言われちゃな。ちょっと行ってくるよ」
俺はエラゼムから離れ、最後にライラのそばへと戻ってきた。
「ライラ、まだきちんと礼を言ってなかったな。助かった、きみのおかげでゴーレムに勝てたよ」
「当然だよ!ライラは、偉大な大まほーつかいなんだから。それに……」
「それに?」
「……あなたの言ってる事、少しはわかったから。目の前で人が死にそうになってるのに、それを見ないふりするのは、いやだ」
……そうか。俺は思い出した。ライラたち家族は、村の人たちに村八分にされていた。もしも誰かがライラたちに手を差し伸べていれば、今頃ライラは普通の女の子として、幸せに暮らしていたかもしれないんだ……ライラはきっと、そんな村人たちと同じことはできなかったんだろう。
「ねえ、けどこの後どうするの?村長、死んじゃったけど」
「え?あ、そうだった……」
自業自得とはいえど、ヴォール村長は死んでしまった。ミシェルはヴォール村長をなくてはならない存在だと言っていたけど、それがこんなことに……
「あ!忘れてた、ミシェルはどこ行った!?」
しまった、気絶してその辺に転がしていたミシェルのことを完全に忘れていた。さっきの暴風でどこかに飛んで行ってしまったかも……俺は慌てて、近くを探し回った。
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「終わった、のか……」
決着は一瞬だったせいで、俺はまだ勝利の実感を掴めずにいた。戦いが終わったことを、倒れていた仲間たちも気付いたようだ。
「……いやはや、吾輩もまだまだ未熟ですな。あれだけ啖呵を切ったというのに、結局ほとんど役に立てなんだ」
エラゼムが低木の茂みの中からむくりと起き上がる。彼の鎧は、ゴーレムに吹っ飛ばされたせいであちこち凹んでしまっている。
「何言っでるの、ごほ。あなたが剣を突き刺さなかったら、あいつに傷をづげられながっだよ」
フランが転がっていた草むらから身を起こすと、ガラガラ声で言った。フランはそのまま、力を使い果たしてへたり込んでいるウィルの元まで歩いて行った。
「ほら、あなたも。立てる?」
「ひぃー、ひぃー……む、むりです……」
「わかった。ほら」
フランはかがんで、ウィルの脇を抱えて自分の肩に腕を回させた。
「すみません……」
「いいよ」
フランがウィルを抱き起す。ところがその時、グチャっと嫌な音がして、フランの腕がだらりと垂れ下がった。傷だらけで酷使した体が、ついに限界を迎えたらしい。急に支えを失って、ウィルは顔面から地面にめり込んだ……見ちゃいられないな。俺は二人の元へ駆け寄った。
「フラン、ウィル、お疲れさん。とりあえずフラン、その傷を治しちまおう。見てて痛々しいよ」
「わがっだ」
俺は一声断ってから、フランの胸の上に手を重ねた。
「ディストーションハンド・ファズ!」
ブワーッ。俺の右手が陽炎のように揺らぐと、そこを通じて俺とフランの魂が繋がったような、奇妙な一体感があふれてくる。フランの全身の風穴はみるみるふさがり、べっとりと張り付いていた黒い血のりは、逆再生のように体の中へと吸い込まれていった。
「よし、いっちょ上がりだ。どうだ、フラン?」
「……あー、あー。うん、のども治った」
フランの声はいつも通りの、落ち着いたものに戻っていた。
「……今になって思ったけど、さっき棘に刺されたときに、“ファズ”で治しちまえばよかったな」
「別に、いいよ。どうせすぐまた怪我してたかもしれないし、きりがないから」
「そうか?……さて、ウィルはまだ動けそうにないよな?」
「む、むり……」
ウィルは顔の半分がまだ地面の中に埋まった状態で答えた。だろうなぁ。
「なぁアニ、“ファズ”の呪文じゃウィルのコレは治せないんだよな?」
『ええ。彼女の症状は魂疲れ、いわゆる魔力切れですからね。“ファズ”は心身の状態を戻すだけであって、魂や記憶といったものには干渉しませんから』
「そっか。魂の治し方まではわかんないしな……」
俺は半分うずもれるウィルを哀れに思ったが、今はそっとしておいてやることにした。ウィルもこんな姿をまじまじ見られたくはないだろう。俺は次に、少し離れたところに立っているエラゼムのもとへ歩いて行った。何をしてるんだろうと思ったが、どうやら吹き飛ばされた自分の大剣を拾いに行っていたらしい。
「エラゼムもお疲れ。剣は無事だったか?」
「桜下殿。ええ、問題ございません。吾輩のことより、フラン嬢とウィル嬢のことを先に看てくだされ」
「もう見てきたよ、二人とも大丈夫だ。あー、ウィルはまだあんなだけど」
「おお、なんと……痛ましい姿に」
エラゼムがあまりに神妙な声を出すもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。エラゼムもさすがに、ふ、ふ、ふ、と小さな笑いをこぼした。
「さぁ、エラゼムの鎧も治しちまおう」
俺はエラゼムの鎧に手をつくと、“ファズ”の呪文を唱えた。エラゼムのひしゃげた鎧が元通りに直る。
「かたじけない、桜下殿。しかし、あの少女の力は大したものですな。彼女がいなければ、この程度の損傷では済まなかったやもしれませぬ」
「ほんとだな。ライラが手を貸す気になってくれてよかったよ」
「あれだけの威力の上級魔法、吾輩が生きていたころでも見たことはありません。一体何者なのでしょう、彼女は……」
俺とエラゼムはそろって、少し離れたところにポツンと佇むライラを見つめた。彼女は誰かと勝利の喜びを分かち合うでもなく、それどころか自分の成果に対しても何ら興味がなさそうだった。
「桜下殿、行ってあげてくだされ」
「うん?ライラの所にか?」
「ええ。これは吾輩の勝手な想像なのですが、彼女が心変わりしたきっかけをお与えになったのは桜下殿だったのではないですか?」
「俺が?そりゃ、二、三、話しはしたけど……」
「桜下殿は……これは悪い意味ではありませんが……不思議な方ですからな。きっとこの場の誰より、桜下殿が行かれたほうが彼女も喜ぶことでしょう」
「んなことはないと思うけど……ま、それだけ言われちゃな。ちょっと行ってくるよ」
俺はエラゼムから離れ、最後にライラのそばへと戻ってきた。
「ライラ、まだきちんと礼を言ってなかったな。助かった、きみのおかげでゴーレムに勝てたよ」
「当然だよ!ライラは、偉大な大まほーつかいなんだから。それに……」
「それに?」
「……あなたの言ってる事、少しはわかったから。目の前で人が死にそうになってるのに、それを見ないふりするのは、いやだ」
……そうか。俺は思い出した。ライラたち家族は、村の人たちに村八分にされていた。もしも誰かがライラたちに手を差し伸べていれば、今頃ライラは普通の女の子として、幸せに暮らしていたかもしれないんだ……ライラはきっと、そんな村人たちと同じことはできなかったんだろう。
「ねえ、けどこの後どうするの?村長、死んじゃったけど」
「え?あ、そうだった……」
自業自得とはいえど、ヴォール村長は死んでしまった。ミシェルはヴォール村長をなくてはならない存在だと言っていたけど、それがこんなことに……
「あ!忘れてた、ミシェルはどこ行った!?」
しまった、気絶してその辺に転がしていたミシェルのことを完全に忘れていた。さっきの暴風でどこかに飛んで行ってしまったかも……俺は慌てて、近くを探し回った。
つづく
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