じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

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俺は三人の仲間のうち、まずはフランの方に目を向けた。フランは河原の砂の上に腰を下ろし、足元に生える小さな花を手袋の指先でいじっている。

「フランは、高機動力・高火力の、うちの切り込み隊長だ」

『役割でいうと、尖兵ですかね。先行して敵陣に突っ込み、後続の道を開く』

「うん。怪力と猛毒の鉤爪の前じゃ、並みの鎧は歯が立たない。足も早いし、目もいいから、一番槍にぴったりだ。けど一方で、防御の面では隙があると思う」

『防御面ですか?ゾンビの防御力となると、何とも言い難いですが』

「そう。フランはエラゼムに腕を吹っ飛ばされたり、なにかと危ない場面が多いんだ。けど死なない不死性で、すべてをチャラにしてる。骨を切らせて肉を断つスタイルっていうのかな」

『アンデッドであることを考えれば、理に適っていると言えますね』

「ああ。そういうところも、彼女が先頭向きなところだと思うよ」

俺は次に、切れ味の悪いナイフでベーコンと悪戦苦闘しているウィルを見た。

「次に、ウィル。あいつは何といっても、幽霊であることがでかい。誰にも見つからないのがどれだけ便利か、昨日で思い知ったよ」

『そうですね。兵種でいえば諜報か密偵、相手の混乱や攪乱がメインですか』

「壁をすりぬけての情報収集、魔法での不意打ち、憑りついて相手を操る……器用さで言ったら、間違いなくトップだな。反面、攻撃力は最低だけど」

『ゴーストとは、本来そういうモンスターですよ。攻撃魔法を使えたら、話は違ってきたでしょうが……』

「ま、そんなに万能キャラはそういないってこったな。メインで張るよりは、裏方で暗躍するタイプだ」

そして俺は最後に、ウィルが起こした焚き火に小枝を放り込むエラゼムを見た。

「エラゼムは、もう見た目からしても、正統派騎士って感じだよな。高い防御力、剣の超絶技巧。単純な強さなら、間違いなくエラゼムが一番だよ」

『末恐ろしいことです。たかがレイスがそこまでの実力を身に着けるなんて……』

「俺たちにとってはラッキーだったじゃないか。けど、エラゼムは足が速くない。鎧を着てるんだから当然っちゃ当然だけど。だから前衛よりは後衛、詰めやしんがりが向いてるのかなって」

『なるほど。後方にいれば、主様の近くにいることもできますね。彼の技術力ならば、護衛としても最適でしょう』

「だよな。ガード役はエラゼムかなって思ったんだよ。で、そうなると残るは俺とアニだ」

『私たちもやるのですか?主様は最重要人物になるのですから、別に戦闘はしなくても……』

「ダメだ。トータルバランスを考えるんだから、当然俺たちも含まれていなきゃ。アニは、補助魔法が得意なんだよな」

『得意というか、それしかできません。私が唯一扱える属性である、無属性魔法の大半は攻撃に適していません。魔力量も多くないので、威力も出ませんし』

「けど、使えるってだけでも大きいよ、魔法ってのは。アニのおかげで、一緒にいる俺にも役割ができるしな。あいにくと俺は、専門職だから……」

『専門職、まあそうですね。ある意味究極の専門です。主様のネクロマンシーがなければ、私たちの共通項は無くなってしまうんですから。私たちが一つの軍団であるためには、主様の存在が必要不可欠です』

「まぁ、な。“玉”がとられちゃゲームにならないし。残念なのは、戦力面では俺が一番役に立たないってことだけど。今はそれについては保留しよう」

もう悩まないって決めたからな。もっと強くなって、それが気にならないくらいになってやるさ。
俺は流木からぴょんと飛び降りると、棒切れを拾って地面に図を描いた。

「つまり、いままでの内容をまとめ、その上で俺が考える陣形に配置すると、こうだ。まず先頭にフラン。その後ろに、俺とエラゼム」

俺は△を地面にかくと、その下に◇と○を隣り合わせてかいた。

「俺がやられちゃオシマイだから、エラゼムには俺のガードになってもらう。攻撃はフランが担当だ。そして、ウィルは適宜、最適な場所へ配置」

俺は三つの図形から少し離れたところに、×をかいた。

「ウィルは補足されない上に飛べるから、戦場のどこへでも自由に行ける。基本的には、フランのサポート目的で敵を撹乱」

俺は△と×の間を矢印で結んだ。

「と、いうのがとりあえずの展開図なんだけど。ここまでで、アニはどう思った?」

『ふむ。各死霊たちの役割、そして分配については、ほとんど主様と同意見です。現状は、これでいいんじゃないでしょうか』

「含みのある言い方だな。聞かせてくれよ」

『ええ。前にもこんな話が出たかと思いますが、この陣形は遠距離攻撃に弱すぎます。相手に距離を置かれると厳しいでしょうね。弓、投石、大火力の攻撃魔法……』

「ああ、そんな話をしたっけな。それは、こっちに魔法で攻撃できるやつがいないから?」

『それもあります。そして、魔法を防ぐすべもありません。いくらあの騎士の盾でも、吹き上がる炎やほとばしる雷までは防げないでしょう』

「ふーむ、なるほどなぁ」

俺は地面にかいた図を改めて見下ろした。いくらフランの健脚でも、一瞬で四方八方の相手はできない。遠距離攻撃部隊に二手に分かれられただけで、俺たちは一気にピンチになる。

「とすると、俺たちに今必要なのは……遠くの敵を攻撃できて、かつ相手の魔法をかき消せる力を持ったやつ……つまり、魔法使いだな」

『ただの魔術師ではダメですね。凄腕の、を頭につけなければ。その二つを同時にこなせる魔術師は、そうほいほいいるものではありませんよ』

ぬう。俺は地面に☆を、他の図たちから離れたところにかいた。

「この星印くんは一人じゃなくてもいいかもな。攻撃と防御役で、一人ずつとか……」

そこまで言って俺が顔を上げると、目の前に銀色のつむじがあった……へ?気づいたら、フランが目の前にしゃがみこんでいる。その後ろに腕を組んだエラゼムが、となりにはウィルがしげしげと地面を覗き込んでいた。

「な、なんだよ。みんないたのか」

「だって、なんだかゴソゴソ二人でやってるんですもん。私たちのことを話していたんですから、聞いてもいいでしょう?」

ウィルが当然です、と胸を反らす。隠し事をされたと思っているのか?

「別に隠してたわけじゃないんだけどな。ちょっと、パーティの見直しをしようと思って」

「みたいですねぇ。なんとなくわかります」

ウィルが地面にかかれた図形たちを見下ろす。エラゼムががしゃりと鎧を鳴らしてうなずいた。

「理にかなった陣形のように見えます。少々お話を聞いてしまったのですが、魔術師の増員を検討しているとか」

「ああ。この先、魔法使いのじいちゃんの幽霊とかに出会えればいいんだけど」

「魔術師は希少な人材ですからな。そのうえで並み以上の腕前となれば、少々難しいかもしれませんが……その分加入ができれば、頼もしい戦力になってくれるでしょう」

「おう。ふふふ、今から楽しみだぜ」

「……まぁ、それもいいですけど。とりあえず、朝ごはん冷めちゃいますけど?」



つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。

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