じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
7-2
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ドガシャーーーン!ドゴオォォォン……
「うぉ。何事だ!」
司令部として使用している営舎の一室で、エドガーが大声を上げた。それとほぼ同時に、一人の兵士が部屋に飛び込んでくる。
「え、エドガー隊長!東部地区で戦闘!勇者の率いる死霊と、捜索に出ていた警戒隊が交戦中です!」
「なにぃ。なら、このバカでかい騒音はなんだ?」
「その死霊が、とんでもない強さでして……街を吹き飛ばそうかという勢いです。警戒隊が苦戦中!」
「ぬうぅ……やつら、西門はあきらめて、東門から脱出する気か。そうはさせん!」
エドガーはだっと立ち上がると、営舎を飛び出そうとし……
「待ってください!隊長が前線に飛び出して行ってどうするんですか!」
今にもすっ飛んでいきそうなエドガーの肩をつかんだのは、切れ目の兵士・ヘイズだった。
「あなたは部隊長なんです。ここでじっとしててください」
「何を言うか!私の剣は敵を打ち倒すために身に着けているのであって、偉そうにふんぞり返るためにぶら下げているのではない!」
「いや、オレの話聞いてました?」
ヘイズが心底呆れた顔をすると、エドガーは顔を赤くしてヘイズに食い掛かった。
「ヘイズ、お前こそ聞いてなかったのか!敵は並みの腕前じゃない。私レベルの兵でなくては相手になるわけなかろうが」
「ぬ……しかし、それだと前線の指揮が」
「おお!ならちょうどよい、ヘイズ。おぬしが指揮をとれ!」
「はぁ?」
ヘイズは珍しく、切れ長の目を大きく見開いた。
「おぬしは私よりよっぽど戦局の見極めがうまい。お前に任せれば安心だ」
「え、エドガー隊長。なに言ってるのかわかってます?寝ぼけてんすか?」
「こやつめ!この隊の指揮権を預かっているのはこの私だ!その私がお前に前線を預けると言っているのだ。案ずるな、おぬしの手腕は私が保証してやる」
「いや、そういわれましても……」
「返事は!」
エドガーが目の前で大声をあげると、つばがシャワーのようにヘイズの顔に降りかかった。ヘイズはうんざりして敬礼を返した。
「……了。わかりましたよ、もう。ここは受け持ちますから、隊長はとっとと勇者をふんじばって来てください」
「よおし。お前の減らず口についての説教は、その後にしておいてやる。頼んだぞ!」
言うが早いか、エドガーは扉を蹴破るようにして飛び出して行ってしまった。残されたヘイズは、やれやれと目頭を押さえた。
「ったく、脳筋隊長め……しかし、やるからには務めを果たしますかね」
ヘイズはこれからの重労働を思って、首をぐるりと回した。
「……ん?」
ヘイズははたと視線を止めた。いま、部屋の隅に何かいたような……
「気のせいか……?」
もう一度そこを見ても、ネズミ一匹見当たらない……どうやら、ありもしない幻でも見たらしい。柄にもなく緊張しているのかもしれないなと、ヘイズは力なく笑った。
「さて、じゃあ始めるとしますか」
ヘイズはパンっと膝を叩くと、伝令役の兵士を探して部屋を出て行った。
……その部屋から、するりと抜け出すもう一つの存在がいたことに、気づく者はいなかった……
「……桜下さん、桜下さん」
「お、ウィルか?おーいフラン、ウィルが戻ったぞ」
俺はかぶっていた空き箱をどけると、ぷはっと息をついた。身を隠すためとはいえ、息苦しくてかなわなかった。そして俺の横に、建物の屋根から飛び降りてきたフランがすとっと着地した。
「で、どうだった、ウィル?奴らの拠点は見つかったか?」
「ええ、ビンゴでした。ここから少し離れたところにある営舎が、司令部になっていました。今全権を担っているのは、あのヘビみたいな目をしたヘイズという方です」
「おっしゃ!そこの兵はどれくらいいる?」
「多くはなかったです。ほとんどが門の警備に出ているみたいですね。そこで聞いたんですけど、今この街にいるのは先遣隊で、このあと王都からさらに援軍がやってくるみたいなんです」
「へぇ。あ、そうか。俺がいつこの町に訪れるか、連中は分かってなかったんだもんな。本当はもっと準備を整えてから戦うつもりだったのか」
「そうかもしれません。とにかく今は、本軍が来るまでぜったい門を開けないようにって感じでした。残りの兵もみんなエラゼムさんのところへ行ってしまって、司令部は相当手薄になってましたよ」
「よしよし、エラゼムがきっちりおとりになってくれてるな。兵の数が少ない今がチャンスだ。俺たちも動くとするか!」
ウィルは緊張した面持ちで、フランは相変わらず無表情で、こくんとうなずいた。俺はエラゼムから引き取った荷袋を、よいしょと担いだ。重いけど、持てないほどじゃないな。けどさすがに、これを背負ったままおとり役はさせられなかった。じゃあ俺が動けないじゃないかってか?ちっちっち、俺には秘策があるのだ。
「じゃ、フラン。度々だが、ちょいと失礼」
ふぅ、またこれだ。俺はフランの背中にひょいと乗っかると、細い首にぎゅっと手をまわした。俺が鈍足でも、健脚のフランに背負ってもらえば無問題だ。亀みたいでビジュアルはよろしくないが、今は実用性重視!
「よし、目指すは相手の頭脳のいるところだ!ウィル、案内してくれ!」
「はい!」
「よっし、出撃ぃー!」
グウーン!猛烈な加速に思わず振り落とされそうになる。フランは俺と荷袋を抱えた状態でも、恐ろしい速度で走り出す。かと思えば軽々と飛び上がり、屋根の上に着地した。人目に付くのはまずいからな、人たちの頭の上を行くわけだ。
「こちらです!ついてきてください!」
ひゅーんと、ウィルが俺たちの前を飛んで先導する。フランはその後を追って、ッターン!屋根を蹴り、次の建物の屋根に着地した。ガチャン!重さに耐えかね、瓦が鈍い音を出す。割れてしまったかもしれないな。けど、人の家の心配をしているどころじゃない。油断すると、衝撃で俺の頭がかち割れそうだ。フランはすぐさま次の屋根へと飛び、俺の体はふわりと無重力になった。くぅー、ちくしょう。爽快だぜ!
「ヒャッホウ!フラン、どんどんいけー!」
「うるさい!舌噛むから黙って!」
「……」
俺、やっぱりこの子に嫌われてるんじゃないだろうか……
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「うぉ。何事だ!」
司令部として使用している営舎の一室で、エドガーが大声を上げた。それとほぼ同時に、一人の兵士が部屋に飛び込んでくる。
「え、エドガー隊長!東部地区で戦闘!勇者の率いる死霊と、捜索に出ていた警戒隊が交戦中です!」
「なにぃ。なら、このバカでかい騒音はなんだ?」
「その死霊が、とんでもない強さでして……街を吹き飛ばそうかという勢いです。警戒隊が苦戦中!」
「ぬうぅ……やつら、西門はあきらめて、東門から脱出する気か。そうはさせん!」
エドガーはだっと立ち上がると、営舎を飛び出そうとし……
「待ってください!隊長が前線に飛び出して行ってどうするんですか!」
今にもすっ飛んでいきそうなエドガーの肩をつかんだのは、切れ目の兵士・ヘイズだった。
「あなたは部隊長なんです。ここでじっとしててください」
「何を言うか!私の剣は敵を打ち倒すために身に着けているのであって、偉そうにふんぞり返るためにぶら下げているのではない!」
「いや、オレの話聞いてました?」
ヘイズが心底呆れた顔をすると、エドガーは顔を赤くしてヘイズに食い掛かった。
「ヘイズ、お前こそ聞いてなかったのか!敵は並みの腕前じゃない。私レベルの兵でなくては相手になるわけなかろうが」
「ぬ……しかし、それだと前線の指揮が」
「おお!ならちょうどよい、ヘイズ。おぬしが指揮をとれ!」
「はぁ?」
ヘイズは珍しく、切れ長の目を大きく見開いた。
「おぬしは私よりよっぽど戦局の見極めがうまい。お前に任せれば安心だ」
「え、エドガー隊長。なに言ってるのかわかってます?寝ぼけてんすか?」
「こやつめ!この隊の指揮権を預かっているのはこの私だ!その私がお前に前線を預けると言っているのだ。案ずるな、おぬしの手腕は私が保証してやる」
「いや、そういわれましても……」
「返事は!」
エドガーが目の前で大声をあげると、つばがシャワーのようにヘイズの顔に降りかかった。ヘイズはうんざりして敬礼を返した。
「……了。わかりましたよ、もう。ここは受け持ちますから、隊長はとっとと勇者をふんじばって来てください」
「よおし。お前の減らず口についての説教は、その後にしておいてやる。頼んだぞ!」
言うが早いか、エドガーは扉を蹴破るようにして飛び出して行ってしまった。残されたヘイズは、やれやれと目頭を押さえた。
「ったく、脳筋隊長め……しかし、やるからには務めを果たしますかね」
ヘイズはこれからの重労働を思って、首をぐるりと回した。
「……ん?」
ヘイズははたと視線を止めた。いま、部屋の隅に何かいたような……
「気のせいか……?」
もう一度そこを見ても、ネズミ一匹見当たらない……どうやら、ありもしない幻でも見たらしい。柄にもなく緊張しているのかもしれないなと、ヘイズは力なく笑った。
「さて、じゃあ始めるとしますか」
ヘイズはパンっと膝を叩くと、伝令役の兵士を探して部屋を出て行った。
……その部屋から、するりと抜け出すもう一つの存在がいたことに、気づく者はいなかった……
「……桜下さん、桜下さん」
「お、ウィルか?おーいフラン、ウィルが戻ったぞ」
俺はかぶっていた空き箱をどけると、ぷはっと息をついた。身を隠すためとはいえ、息苦しくてかなわなかった。そして俺の横に、建物の屋根から飛び降りてきたフランがすとっと着地した。
「で、どうだった、ウィル?奴らの拠点は見つかったか?」
「ええ、ビンゴでした。ここから少し離れたところにある営舎が、司令部になっていました。今全権を担っているのは、あのヘビみたいな目をしたヘイズという方です」
「おっしゃ!そこの兵はどれくらいいる?」
「多くはなかったです。ほとんどが門の警備に出ているみたいですね。そこで聞いたんですけど、今この街にいるのは先遣隊で、このあと王都からさらに援軍がやってくるみたいなんです」
「へぇ。あ、そうか。俺がいつこの町に訪れるか、連中は分かってなかったんだもんな。本当はもっと準備を整えてから戦うつもりだったのか」
「そうかもしれません。とにかく今は、本軍が来るまでぜったい門を開けないようにって感じでした。残りの兵もみんなエラゼムさんのところへ行ってしまって、司令部は相当手薄になってましたよ」
「よしよし、エラゼムがきっちりおとりになってくれてるな。兵の数が少ない今がチャンスだ。俺たちも動くとするか!」
ウィルは緊張した面持ちで、フランは相変わらず無表情で、こくんとうなずいた。俺はエラゼムから引き取った荷袋を、よいしょと担いだ。重いけど、持てないほどじゃないな。けどさすがに、これを背負ったままおとり役はさせられなかった。じゃあ俺が動けないじゃないかってか?ちっちっち、俺には秘策があるのだ。
「じゃ、フラン。度々だが、ちょいと失礼」
ふぅ、またこれだ。俺はフランの背中にひょいと乗っかると、細い首にぎゅっと手をまわした。俺が鈍足でも、健脚のフランに背負ってもらえば無問題だ。亀みたいでビジュアルはよろしくないが、今は実用性重視!
「よし、目指すは相手の頭脳のいるところだ!ウィル、案内してくれ!」
「はい!」
「よっし、出撃ぃー!」
グウーン!猛烈な加速に思わず振り落とされそうになる。フランは俺と荷袋を抱えた状態でも、恐ろしい速度で走り出す。かと思えば軽々と飛び上がり、屋根の上に着地した。人目に付くのはまずいからな、人たちの頭の上を行くわけだ。
「こちらです!ついてきてください!」
ひゅーんと、ウィルが俺たちの前を飛んで先導する。フランはその後を追って、ッターン!屋根を蹴り、次の建物の屋根に着地した。ガチャン!重さに耐えかね、瓦が鈍い音を出す。割れてしまったかもしれないな。けど、人の家の心配をしているどころじゃない。油断すると、衝撃で俺の頭がかち割れそうだ。フランはすぐさま次の屋根へと飛び、俺の体はふわりと無重力になった。くぅー、ちくしょう。爽快だぜ!
「ヒャッホウ!フラン、どんどんいけー!」
「うるさい!舌噛むから黙って!」
「……」
俺、やっぱりこの子に嫌われてるんじゃないだろうか……
つづく
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