じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。
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「まあいい、ならこれで関所対策はオッケーだな。よしよし」
「あの、それなら桜下さん。ちょっと相談なのですが……」
「ん?なんだよウィル」
ウィルが折りいった様子で話しかけてきた。手をおなかの前で合わせて、もじもじしている。どうしたんだろう?
「ウィル?」
「あの……その馬具って、魔法の道具なんですよね?だったら、幽霊にも使えたりなんてことは……」
「へ?幽霊に?」
「む、無理ですよねさすがに。言ってみただけなんです、やっぱり気にしないでください」
「なんだよ、まだ何も言ってないだろ。ちょっと驚いたけど……」
けど、どういう意味だ?幽霊にも使えるかって、つまりウィルにも装備できるかってことだよな。どこかに鎧を着けたいのか?ウィルは相変わらずもじもじ、おなかの前で指をかみ合わせている……あ。
「ウィル、もしかしておなかの傷が気になるのか?」
「う……その、はい。やっぱりどうしても気になってしまって。もし、フランさんみたいに覆い隠せたらなって……」
なるほどな。ウィルの腹には、致命傷となった大穴があいている。崖から落ちて、折れた木に貫かれた際にできた傷だ。幽霊のウィルには痛みも、傷が広がることもないのだけれど、それでも自分の体に穴があいているのは気になるのだろう。そういえば、昨日フランの腕をくっつけた時も、そんなようなことを言っていたな。
「うん、事情は分かった。なら試してみようぜ」
「い、いいんですか?」
「おう。それに、俺の見立てでは、そんなに無謀でもないと思うんだよな。ウィルは物に触ることができるだろ。今も杖を持ってるわけだし。てことは、物側からウィルに触れることもできるんじゃないか?」
「あ……な、なるほど」
ウィルは自分の手の中の、ご両親ゆかりの杖を見下ろした。
「てことでウィル、とりあえずなにか持ってみてくれよ」
「わかりました。じゃあ、これを……」
ウィルは近くにあった魔道具の中から、蹄鉄を拾い上げた。蹄鉄は問題なくウィルの手元に収まっている。
「うん、やっぱり物は持てるんだな」
「そうですね。ただ……」
ウィルはその蹄鉄を、ブレスレットのように自分の手首に通した。そして瞳を閉じると、ふぅと息を吐く。すると……カランカラーン。
「あれ」
「やっぱり……落ちてしまいますね」
蹄鉄はウィルの腕をすり抜けて、地面に落っこちてしまった。ウィルは自分の手首を顔の前にかざした。
「たぶん、私が“持とう”ときっちり意識している間だけ、ものに触れられるんだと思います。ちょっとでも意識がそれると、さっきみたいにすり抜けちゃうんですね」
あ、それもそうか。ウィルはいままでも壁や床をすり抜けていた。ウィルがあらゆるものに触れられるなら、そんな芸当はできないはずだ。俺もウィルのことを突き抜けたこともあったくらいだし。だが逆に、俺がウィルに触れたこともあったぞ?
「……ウィル、はいターッチ」
「へ、は、はい?」
わけが分からない様子でおろおろするウィルをよそに、俺は手を差し出した。
「え、えっと。こうですか?」
パン。俺とウィルの手は、小気味いい破裂音をかなでた。
「う~ん、つまりこういうことかな。ウィルが触ろうと思ったものは触れるし、ウィルに触ろうと思ったものもウィルに触れられる」
「あ……そう、なんですかね。でも、確かにそうかも」
ウィルは自分の手のひらと、俺の手とを交互に見比べた。
「それかもしかしたら、ネクロマンスの力も影響あんのかもな。うし、ちょっと試してみよう」
俺はウィルが落とした蹄鉄を拾い上げると、それを両手で握ってぐっと力を込めた。そして、頭の中で強く念じる。
(ウィルに触れたい、ウィルに触れたい、ウィルに触れたい……)
……断じて変な意味じゃないぞ?
ともかく、そうして念じていると、蹄鉄がヴンっと、一瞬輪郭を失った気がした。
(あ、これ、ディストーションハンドの時の反応にそっくりだ)
これは、もしかするかもしれないぞ。俺は自分の清き想いがこもった蹄鉄を、ウィルに差し出した。
「ウィル、これならどうだ?」
「え?さっきと同じようにすればいいんですか?」
ウィルはいぶかしげな様子で蹄鉄を受け取ると、さっきと同じように手首に通した。それから目をつぶって、意識をそらしてみる。さて……
「……っ!見てください桜下さん、落っこちませんよ!」
蹄鉄は、ウィルの手首にしっかり引っかかったままだった。やった、もくろみ通りだ。
「おお、うまくいったな」
「けど、いったい何をしたんですか?」
「能力を使うときみたいに、力を込めて念じてみたんだ。よし、次はもっと大きなものにすれば、うまいこといくんじゃないか?」
ウィルの胴体を覆えるような、腹巻みたいなのがいいよな。俺は残りの馬具の中から、大きなドラム缶の輪切りみたいな馬具を持ち上げた。
「ほら、これなんかどうだ?ぴったりだろ」
「……桜下さん、私のウエスト、いくつだと思ってるんですか?」
「へ?」
お、俺だって、そのままでいけると思ってたわけじゃないぞ。形は近いから、あとはアニに成形してもらえばいいだろう。
「というわけでアニ、また頼めるか」
『わかりました。ではその前に、正確なサイズを教えてもらえますか?』
「は?サイズ?」
『ええ。それがわからなければ、成形のしようがありません。幽霊娘、ウエストのサイズを教えないさい』
「あー……だ、そうなんだけど」
「え、え?そんな、適当でいいですよ。だいたいで……」
『それで合わなかったら二度手間になるじゃないですか。私に二倍の労力を割かせるつもりですか?いいから、早く教えなさい』
「…………」
ウィルは、唇をかみしめてぷるぷると震えている。ま、まるで爆発寸前の爆弾みたいだ。
「うぃ、ウィル?俺、ウィルはスリムだと思うぞ?」
「……うあぁー!黙っててくださいよぉ!」
うひゃっ。ちぇ、なんなんだ。平気で下ネタすれすれのことは言うくせにな?オトメゴコロってのは、俺の想像以上に複雑らしい。
「……一キュビット、と、二十六ハンキュビットです……」
ウィルがそよ風のように小さな声でつぶやいた。
『ふむ……意外と肉付きがいいんですね』
「わあぁぁぁー!これでも村では細いほうだったんですからね!」
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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「まあいい、ならこれで関所対策はオッケーだな。よしよし」
「あの、それなら桜下さん。ちょっと相談なのですが……」
「ん?なんだよウィル」
ウィルが折りいった様子で話しかけてきた。手をおなかの前で合わせて、もじもじしている。どうしたんだろう?
「ウィル?」
「あの……その馬具って、魔法の道具なんですよね?だったら、幽霊にも使えたりなんてことは……」
「へ?幽霊に?」
「む、無理ですよねさすがに。言ってみただけなんです、やっぱり気にしないでください」
「なんだよ、まだ何も言ってないだろ。ちょっと驚いたけど……」
けど、どういう意味だ?幽霊にも使えるかって、つまりウィルにも装備できるかってことだよな。どこかに鎧を着けたいのか?ウィルは相変わらずもじもじ、おなかの前で指をかみ合わせている……あ。
「ウィル、もしかしておなかの傷が気になるのか?」
「う……その、はい。やっぱりどうしても気になってしまって。もし、フランさんみたいに覆い隠せたらなって……」
なるほどな。ウィルの腹には、致命傷となった大穴があいている。崖から落ちて、折れた木に貫かれた際にできた傷だ。幽霊のウィルには痛みも、傷が広がることもないのだけれど、それでも自分の体に穴があいているのは気になるのだろう。そういえば、昨日フランの腕をくっつけた時も、そんなようなことを言っていたな。
「うん、事情は分かった。なら試してみようぜ」
「い、いいんですか?」
「おう。それに、俺の見立てでは、そんなに無謀でもないと思うんだよな。ウィルは物に触ることができるだろ。今も杖を持ってるわけだし。てことは、物側からウィルに触れることもできるんじゃないか?」
「あ……な、なるほど」
ウィルは自分の手の中の、ご両親ゆかりの杖を見下ろした。
「てことでウィル、とりあえずなにか持ってみてくれよ」
「わかりました。じゃあ、これを……」
ウィルは近くにあった魔道具の中から、蹄鉄を拾い上げた。蹄鉄は問題なくウィルの手元に収まっている。
「うん、やっぱり物は持てるんだな」
「そうですね。ただ……」
ウィルはその蹄鉄を、ブレスレットのように自分の手首に通した。そして瞳を閉じると、ふぅと息を吐く。すると……カランカラーン。
「あれ」
「やっぱり……落ちてしまいますね」
蹄鉄はウィルの腕をすり抜けて、地面に落っこちてしまった。ウィルは自分の手首を顔の前にかざした。
「たぶん、私が“持とう”ときっちり意識している間だけ、ものに触れられるんだと思います。ちょっとでも意識がそれると、さっきみたいにすり抜けちゃうんですね」
あ、それもそうか。ウィルはいままでも壁や床をすり抜けていた。ウィルがあらゆるものに触れられるなら、そんな芸当はできないはずだ。俺もウィルのことを突き抜けたこともあったくらいだし。だが逆に、俺がウィルに触れたこともあったぞ?
「……ウィル、はいターッチ」
「へ、は、はい?」
わけが分からない様子でおろおろするウィルをよそに、俺は手を差し出した。
「え、えっと。こうですか?」
パン。俺とウィルの手は、小気味いい破裂音をかなでた。
「う~ん、つまりこういうことかな。ウィルが触ろうと思ったものは触れるし、ウィルに触ろうと思ったものもウィルに触れられる」
「あ……そう、なんですかね。でも、確かにそうかも」
ウィルは自分の手のひらと、俺の手とを交互に見比べた。
「それかもしかしたら、ネクロマンスの力も影響あんのかもな。うし、ちょっと試してみよう」
俺はウィルが落とした蹄鉄を拾い上げると、それを両手で握ってぐっと力を込めた。そして、頭の中で強く念じる。
(ウィルに触れたい、ウィルに触れたい、ウィルに触れたい……)
……断じて変な意味じゃないぞ?
ともかく、そうして念じていると、蹄鉄がヴンっと、一瞬輪郭を失った気がした。
(あ、これ、ディストーションハンドの時の反応にそっくりだ)
これは、もしかするかもしれないぞ。俺は自分の清き想いがこもった蹄鉄を、ウィルに差し出した。
「ウィル、これならどうだ?」
「え?さっきと同じようにすればいいんですか?」
ウィルはいぶかしげな様子で蹄鉄を受け取ると、さっきと同じように手首に通した。それから目をつぶって、意識をそらしてみる。さて……
「……っ!見てください桜下さん、落っこちませんよ!」
蹄鉄は、ウィルの手首にしっかり引っかかったままだった。やった、もくろみ通りだ。
「おお、うまくいったな」
「けど、いったい何をしたんですか?」
「能力を使うときみたいに、力を込めて念じてみたんだ。よし、次はもっと大きなものにすれば、うまいこといくんじゃないか?」
ウィルの胴体を覆えるような、腹巻みたいなのがいいよな。俺は残りの馬具の中から、大きなドラム缶の輪切りみたいな馬具を持ち上げた。
「ほら、これなんかどうだ?ぴったりだろ」
「……桜下さん、私のウエスト、いくつだと思ってるんですか?」
「へ?」
お、俺だって、そのままでいけると思ってたわけじゃないぞ。形は近いから、あとはアニに成形してもらえばいいだろう。
「というわけでアニ、また頼めるか」
『わかりました。ではその前に、正確なサイズを教えてもらえますか?』
「は?サイズ?」
『ええ。それがわからなければ、成形のしようがありません。幽霊娘、ウエストのサイズを教えないさい』
「あー……だ、そうなんだけど」
「え、え?そんな、適当でいいですよ。だいたいで……」
『それで合わなかったら二度手間になるじゃないですか。私に二倍の労力を割かせるつもりですか?いいから、早く教えなさい』
「…………」
ウィルは、唇をかみしめてぷるぷると震えている。ま、まるで爆発寸前の爆弾みたいだ。
「うぃ、ウィル?俺、ウィルはスリムだと思うぞ?」
「……うあぁー!黙っててくださいよぉ!」
うひゃっ。ちぇ、なんなんだ。平気で下ネタすれすれのことは言うくせにな?オトメゴコロってのは、俺の想像以上に複雑らしい。
「……一キュビット、と、二十六ハンキュビットです……」
ウィルがそよ風のように小さな声でつぶやいた。
『ふむ……意外と肉付きがいいんですね』
「わあぁぁぁー!これでも村では細いほうだったんですからね!」
つづく
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