じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。

万怒 羅豪羅

2-3

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猟師たちは石弓に矢を装填した。俺も剣の柄をぎゅっと握りなおす。
石弓を構えた猟師たちは、少しずつ横に広がる。あれ、俺たちはどうすればいいんだ?するとウッドが、小声でささやいた。

「お前たちは、俺たちの後ろにいろ。下手に孤立すると狙われるからな。いいか、ぴったりついてくるんだぞ。そうすりゃ、俺たちが守ってやる」

「わかった」

うなずくと、ウッドは離れていった。俺は洞窟の方を見た。真っ暗で、オオカミの姿も、何も見えない。奴らも、こっちに気付いているのだろうか?

「気付いてやがるな」

俺の心を読んだかのように、猟師の誰かがぼそりとつぶやいた。ごくりと唾をのむ。てことは、互いに睨みあっているってことだな。うわあ、一触即発ってやつじゃないか。
俺たちは息を殺して、じっと待ち続ける。となりの人の荒い鼻息が聞こえる。今か、いつか。十秒後か、百秒後か、一時間か……

「来るぞ」

え?来るって、どこへ?

「ウオオオォォォン!」

「ガルルル!ウオオオォ!」

うひゃ!身の毛もよだつ唸り声とともに、オオカミたちがいっせいに洞窟から飛び出してきた!

「焦るな!よーく狙えよ!」

エドの鋭い声。みなが一斉に石弓を構える。オオカミは真っ直ぐ俺たちのいる林へ迫ってくる。いち、に、さん……十頭はいるだろうか。俺たちの人数もそれくらいだ。数は互角……オオカミたちはものすごいスピードで迫ってくる。俺たちとの距離はぐんぐん縮まっていく。もう、奴らは目と鼻の先だ……

「いまだ!」

ドシュシュシュシュ!

「ギャイィン!」

「ギャルーン!」

矢が雨脚のように降り注ぎ、次々とオオカミたちに命中した!身を隠すことができないオオカミたちは、なすすべなくバタバタと弓の前に倒れていく。先頭が全滅したのを見て、後ろにいた数匹のオオカミたちは尻尾を巻いて逃げ始めた。

「逃がすな!追え!」

「うおおお!」

いざ、突撃ー!
雄たけびを上げて駆けだした猟師たちの後を、俺とフランも必死に走ってついて行く。林の中から飛び出してきた俺たちを見て、オオカミたちはますます逃げ足を速めた。
矢に撃たれたオオカミは、逃げる仲間の退路を作ろうと、瀕死になりながらも俺たちの足に噛みつこうとしてきた。猟師たちは足に食らいつこうとするオオカミの頭を蹴とばすと、斧を一息に振り下ろす。

「キャイイン」

一瞬でオオカミは静かになった。
その間に残りのオオカミは、巣穴に逃げこんだ。一匹だけ巣穴から逸れ、森に逃げ込もうとしたが、猟師はそれを見逃さない。再装填された石弓に背中を撃たれ、どさりと倒れた。

「残りは巣穴だ!」

崖の裂け目を目指して猟師たちが殺到する。その時だ。
ジャルルル。
まるで金属が石をかき分けるような、不気味な音が洞窟の奥から聞こえてきた。みんなが足を止めたので、俺も慌てて立ち止まった。耳を澄ませる……

「グルルルルル……」

う、うわー!
二メートルはありそうな巨大な人影が、洞窟の入口に立ちふさがった。いや、人の形だけど、人じゃない。全身毛むくじゃらで、手にはフランといい勝負な巨大な爪。鋭い牙と、血走った黄色の瞳。あれが、半狼・ルーガルーか!

「出やがったな。大将のお出ましだ」

ウッドはそう言うと、まさかりを構えてにやりと笑った。アイツを前にして、なんで笑っていられるんだ?

「ガオオォォォ!」

恐ろしい唸り声を上げて、ルーガルーが駆け出した!数では圧倒的に多い俺たちを、少しも恐れていない。むしろ倒された仲間たちの死骸を見て、逆上していそうだ。

「この化物!」

槍を構えた猟師がルーガルーを突き刺そうとする。だがルーガルーは上から爪を振り下ろすと、槍をバラバラにしてしまった。その反対側から、今度は別の猟師が斧を振り下ろす。

「ガルゥ!」

ルーガルーは斧を片手で受け止めた。グジュ!奴の手から血飛沫が飛ぶ。それでもルーガルーは少しもひるまず、斧を奪い取って放り捨ててしまった。

「おりゃー!」

「受けて見ろ!」

ルーガルーが立ち止まった所へ畳みかけるように、ウッドが正面から、そして後ろからエドがまさかりを振りかぶる。

「グエーン!」

エドのまさかりがルーガルーの背中にぶっ刺さった!だがウッドの攻撃は、奴に届かなかった。ルーガルーは足を振り上げ、ウッドの腹を思いきり蹴りとばしたのだ。ウッドの体がくの字に折れ曲がる。

「ぐはっ」

「ウッド!」

ウッドがぶっ飛んでくる!俺はこけそうになりながら走り出すと、すんでのところでウッドを受け止めた。ぐわ、重い!ガタイの良いウッドの衝撃に、俺もドスンと尻もちをついた。

「うぐ……けほっ」

「ウッド!大丈夫か!」

「ああ……ちくしょう、油断した」

ウッドはみぞおちを蹴られて息も絶え絶えだが、大したケガはなさそうだ。

「ぐああ!」

今度は、なんだ!?背後から斬りかかったエドが、ルーガルーの肘鉄をくらったようだ。エドは鼻を抑えてよろめいている。もじゃもじゃのひげに、血が滴っていた。

「グルオオ!」

ルーガルーが飛んだ!奴は高々と跳び上がると、絶壁に爪を突き刺して張り付いた。なんて身軽な、まるでクモだ!突然の行動に、猟師たちが動揺する。ルーガルーは猟師の一人に狙いをつけたのか、壁を蹴って、そいつ目がけてまっすぐ飛び込んできた!

「う、うわあぁ!」

「危ない!」

間一髪、俺は夢中で狙われた男の襟首をつかむと、思い切り引き倒した。男は後ろに倒れ、俺も地面を転がる。さっきまで男が立っていたところに、ルーガルーの爪が深々突き刺さっていた。あ、危なかった……

「グルルルルル……」

「おっと……まずいぞ」

ほっとしたのもつかの間、ルーガルーの黄色い瞳が、今度は俺を見据えている。さっきからちょろちょろしている俺に、だいぶご立腹の様子だ。
ルーガルーがこちらへ駆けだした!

「逃げろボウズ!ちくしょう、これでも喰らえ!」

エドがやけくそになって、斧を投げつける。だがルーガルーは片腕でそれを受けた。グジャ!腕に深々斧が刺さるが、それでも奴は止まらない。ちくしょう、肉を切らせて骨を断つってわけか?冗談じゃないぜ!

「剣を振って!」

え?フランが叫んだ。俺は頭が理解するよりも早く、剣をブゥンと振り回した。
ああっ!けど俺の振るった剣は、ルーガルーの胸元すんでのところで当たらなかった。大振りを空振りし、俺の上半身はがら空きだ。それを奴が見逃すはずもない。ああ、奴の目を見てしまった。かっと見開かれた瞳。牙をむき出しにし、獲物の血を見る興奮で口を歪めているようだ。ルーガルーの剣のような鋭い爪は、もう目の前に迫っていた。

「もうダメだ!」

「ダメじゃない!」

その時、俺のわきから、するりとフランが躍り出た。

「フッ!!」

ズバンッ。フランの鉤爪が一閃する。突然現れた小さな影に、ルーガルーは対応できなかった。
ルーガルーの腕は、真っ二つに切り落とされた。



つづく
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