現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

陽の差すダンジョン・アルカン5

 いざゆかん、魅惑のシャワータイム。


 指をわきわきと入念なウォーミングアップ。
といっても、手元で操作するわけではないのだが、まぁいい。


 こういったものは気持ちの問題なのだ。
さあ、いつでも発射準備オッケーなのだぜ、ローズさん。




「ごっ、ご主人様っ!」




 ……なんだね、クリスティーナさん。
やまださんはちょっと忙しいのだよ、邪魔しないでくれるかね。




「どうしたんだ、クリスティーナ?」




「わたしがっ、隠しますね!」




 隠すってなにをよ。


 ここには隠すもんなてないけど。
むしろどちらかといえば、率先して見せて頂きたい。


 などと考えていると、クリスティーナのお手てが目の前を塞ぐ。
目の前が闇で覆われた時、自身が罠の中に落ちたことに気づいた。


 くっ……計ったな。


 しかし、しかしだ。俺にはこれを振り払うすべを持たない。
そんな事をすれば、ローズの裸を見たいと声高々に宣言しているようなもの。


 今後のパーティー活動を考えれば、それだけは断じて避けなければいけない。
まさかこんなところに、伏兵が潜んでいたとは……クリスティーナなんて恐ろしい子。




 カタ……カサ……スッ――。




 こっ、これは……そんな、装備を外して服を脱いでいる音かっ!?


 視界を奪われたことで、音がより鮮明に聞こえてくるようだ。
十数センチ先、手を伸ばせば届いてしまうそんな距離で、異性が服を脱いでいるという事実。


 なんという圧倒的リアリティー。
危うく童貞を脱してしまったかのような錯覚を覚えてしまいそうだ。


 やばいな目隠し……新しい可能性に目覚めてしまいそう。




「わぁっ、ローズさん大きいですね! 肌もスベスベですし」




 大きいですね……いですね……すね……。


 ……。


 わあああいっ!。


 ローズさん大きいってさ! 




「そ、そうかしら? クリスティーナも大きそうに見えるけど」




「わ、わたしはそんな……」




 脳内に響くリフレイン。妄想が、妄想が、どこまでも広がっていく。


 このままでは、行き場を失った血流が登頂を果たしてしまうではないか。
しかし、抑えようと焦れば焦るほど、一点を目指し、集結しようとする血流。


 まさに、絶体絶命とはこの事。


 主にやまださんの社会生命がピンチだ。




「あ、あの……お湯をお願いしてもいいかしら?」




「あ、はい。今だします」




 ナイスタイミングだよ、ローズさん。


 今まさに設営されようとしているテントを阻止する為にも、ここは一つ魔法に集中させていただこう。


 掌に向けて魔力が流れるイメージ。


 すると、体の中心部から何かが抜ける感覚と共に、温水が噴きだす。


 そう、先ほど。調整に、調整を重ねて作りあげた理想のシャワーだ。
温度、水圧どれをとっても、一流ホテルにも負けないものだと自負する自慢の一品である。




「ダンジョンの中で湯浴みができるなんてとても贅沢だわ」




「魔力は気にせずに、ゆっくりと汚れを落としてください」




「ありがとう、その言葉に甘えようかしら」




 などと、余裕のある男を演出。


 どうやらこのシャワーを喜んでもらえた様子、頑張った甲斐があるじゃんね。


 とここで、一つ思い浮かぶ。


 このシャワーに、回復魔法をミックスしてみたらどうだろうか。
湯船のようなホッと一息とまではいかないが、多少は疲れがとれるかもしれない。


 一度に、二つ以上の魔法を使った経験はないが。
物は試しに、やってみてもいいかもしれないな。


 失敗したとしても回復魔法だ、爆発なんてしないだろうし。
せいぜい、魔法の発動が止まるくらいのもだろう。


 では、さっそく。


 イメージを練る、緑色したキラキラと光る癒し成分。
それを水属性魔法で作るシャワーに合わせる入浴剤。


 おっ、お。上手くいった感じがビンビンときたぞ。
クリスティーナに目隠しされている都合、目視での確認はできないが。


 これは絶対、上手くいっているって。




「っ……!」




 どうだろうか、ローズさんのリアクションがないのが、ちょっと不安なのだけれど。




「あっ、あ……んっ……」




 不安になって間もなく、当人から声があがる。




「大丈夫ですか、ローズさん?」




「だ、大丈夫よ。ただ、お湯がとても気持ちよくて……」




 思惑は成功し、ローズさんからご好評を頂いたようだ。
今度、機会があれば湯船にこのお湯を張ってみるのもいいかもしれないな。


 これは日本人的に、是非とも入ってみたい。




「少しでも疲労がとれればと、お湯に回復魔法を加えてみました」




「お湯に回復魔法を!?」




「ええ、いかがでしょうか?」




「とても気持ちがいいわっ……んっ……最高よ。これはクセになってしまそう……」




「さすがご主人様ですっ。複合魔法まで使いこなしてしまうなんて」




 なるほど。こちらの世界では、複数の魔法を同時に使用するのはレアなのか。
日本ではよく見かけていたけどな、といっても漫画や小説の中の話だが。




「ヤマダ様っ、アレは……!?」




 クレアさんの声があがる。


 ちょっと緊迫した感じ。


 しかし、アレと言われても。やまださんは今、目隠しされていて見ることができないのだけれど。




「ご、ご主人様……来ていますっ!」




 だから、なにがよ。
もしかして、阻止したと思っていたテントが設営されてしまったのだろうか。


 それは一大事である。
だけれど、そんな感覚はないから大丈夫だと思うけど。


 というか、信じてる。……お願い。




 ここで、目を塞いでいたクリスティーナのお手てが離れた。


 少しばかりの眩しさを感じながら、目を開くとそこには――

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