現実世界にダンジョン現る! ~アラサーフリーターは元聖女のスケルトンと一緒に成り上がります!~

私は航空券A

乗り合い馬車は行く3

 盗賊団にやられてしまった、『黒鉄の剣』メンバーの元へ駆け寄る。
様子を伺えば、全員が全員、重症と言ってもいいダメージ。


 死者が出ていないのは、不幸中の幸いと言ったところだろうか。


 とくに、馬車の中で話しかけてきた男……名前なんて言ったけ。


 ええっと、セニョ……セニョールでいいか。どこか、メキシカンな感じがするしな。


 とにかく、セニョールの傷が酷い。


 放っておけば、そう長くないのが見てわかる。虫の息というやつだ。
きっと、このパーティーでの盾役が彼なのだろう。


 さて、どうしたものか。
多少の会話を交わしたせいか。心情的にも、このまま放っておいていくワケにもいかない。


 クリスティーナがこの場にいれば、回復を頼めるのだが。
いない人間を嘆いていても、仕方がない。


 ここは一つ、自力で頑張ってみようじゃないか。
確か、スキルで回復魔法をとっていたハズだ。




 というワケで。ステータスウィンドウさん、かもん。


スキルポイント:20 


アクティブ:スキル 
HPストック:LvMax
フルスイング:Lv1
火属性魔法:Lv20
回復魔法:Lv2


パッシブ:スキル
アイテムパック:LvMax
マップ:LvMax
言語:LvMax 




 とっておいて良かった、回復魔法。
Lv2という数値に些か不安を感じてしまうが、……まぁいい、とりあえずは試してみてからだ。
ダメだったら、余っているスキルポイントを振りなおして再度、挑戦しよう。


 掌を横たわるセニョールに向けて。




「とふぁっあ」




 傷が癒えるイメージで、掛け声をあげる。


 すると、薄っすらと輝きだす彼の体。


 それと同時に、体からMPが抜ける感覚が。


 次第に、その光は輝きを増していき、柔らかな光がセニョールの全体を包み込む。
大きく裂けていた傷に肉が盛り上がり、まるで逆再生しているかのように傷が治っていく。


 どうやら、上手く発動したようだ。


 しかし、この治癒力はLv2というには、ちょっと凄すぎないか。
アレだけ酷かったセニョールの傷が、完治と言っていいほどに塞がっている。


 これは、想像以上の効果だ。
もしかするとこれは、INT値が回復力に加算されているのではないだろうか。




「ん……」




 傷が癒えたせいか、失っていたセニョールの意識が戻る。




「あ、あんたは……」




「よかった、意識が戻ったようですね」




「……これは、あんたがやったのか?」




 多少、ぼんやりとしているが。
ここまで話せれば大丈夫だろう、残りの怪我人も治してしまおう。


 セニョールほどではないが、どれも、軽い怪我には思えない。




「もう、大丈夫そうですね。では、残りのパーティーメンバーの治療に向かいます」




「……ああ、すまない」




 残りのメンバーの一人に回復魔法をかけていると、後ろから声がかかる。


 その声は、ローズだ。




「え、えっと。わっ、私も何か手伝えることはないかしら?」




 指をモジモジと絡めながら、視線はやや下向きでそう言うローズ。


 しかし、回復魔法で傷が癒えてしまう都合上、とくに手伝いは必要がないのだよな。
だからと言って、せっかく手伝いたいと申し出てきたローズを無碍にするのもアレなので。




「ありがとうございます。でしたら、この水をセニョールさんに飲ませてあげてくれませんか?」




 『アイテムパック』から取り出した、ミネラルウォーターの入ったペットボトルを手渡す。




「セ、セニョール……?」




 あっ、やべ。思わず口にだしてしまったわ。
完全に俺の中で、セニョールで定着してしまったよ。アミーゴ。




「いえ、何でもありません」




「そ、そう? なら、いいのだけれど」




「開け方はわかりますか? 蓋をひねるように回せば外せます」




「わかったわっ! じゃあ、水を飲ませてくるわ」




 と言うと、ローズはペットボトルを持って、セニョールの元へ走りだした。


 その後、残りのメンバーにも回復魔法をかけて回り。


 無事に、全員の傷を治すことができた。


 あれだけの傷を完全に治してしまうほどの回復魔法を連発したのにも関わらず、MPは思ったよりも減らなかった。


 全体の、三分の一ぐらいを消費しただけだ。
予想では半分くらいは持っていかれるかと、覚悟はしていたのだけど。


 まぁ、燃費が良いに越したことはない。
また時間があるときにでも、スキルポイントを回復魔法に振っておいてもいいかもしれないな。


 やはり、自前で回復手段を持つか、持たないかでは大違いだ。




 そして、今は、再びダンジョンへと進みだした馬車の中だ。
このアクシデントで、馬車に被害がなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。


 カタカタと揺れる中、座る位置も盗賊団に襲撃を受ける前と変わらない。


 変わったといえば、『黒鉄の剣』メンバーが俺に向ける視線だろうか。
当初、ルーキーを見るようなものだったが、今は尊敬すら感じさせるものだ。


 間違っても、社会の底辺を担う、フリーターなんぞに向けるようなものではない。
普段、そんな視線に慣れていないせいか、どうにも居心地がよろしくない。


 ケツのあたりがモゾモゾとしてしまう。


 そして、そうさせる原因がもう一つ。




「今回は本当に助かった。本当にありがとう!」




 そう言って、深々と頭を下げるセニョール。
他のメンバーも、同じように頭を下げている。


 馬車が動き出してからというもの、ずっとこの調子だ。


 何度、お礼の言葉を貰ったことか。


 そろそろ、やめてほしいのだけれど……。




「もう充分、お礼を言ってもらいましたので、どうぞ頭をあげてください」




「いや、そんな事はない。貴殿がいなければ、我々のパーティーは全滅していただろう。
間違いなく、貴殿は、我々の命の恩人だ。
その恩人に対して、この程度の礼を重ねたところで、決して足りるものではない。
『黒鉄の剣』はこの恩に報いたい、何をお礼とすれば喜ばれるだろうか」




「そんな、お礼なんて……」




 こう謙遜しまうのは、日本人なら仕方なのないことだろう。


 ふと、横に目をやれば何やら自慢げなローズさん。
腕を組み、アゴをあげて、今にもフフンと鼻歌など唄ってしまいそうな感じである。


 なにが、彼女の琴線にふれてしまったのだろうか。




「そういうワケにはいかない。もし、金銭でよければ、街か今向かっている集落で換金するまで待ってもらえれば、満足してもらえる金額を用意することができるのだが」




「そうですね……では、こうしませんか? 次に、ボクが困っていた時に、手を貸してもらうというのはどうでしょうか?」




「いや、しかしそんなことでは、あまりにも申し訳が……」




「見ての通りボクは異国の出で、当然、国が違えば、勝手も違う。困ることも多々あると思います。
そんなときに、手助けをしてくれる人がいるというのは、大変心強いものです。
ですから、ボクにとってこれは、金銭を貰うよりもずっと価値があるのですよ」




「……わかった。『黒鉄の剣』は、何かあれば喜んで手を貸そう。
と、言っても盗賊団をいとも簡単に撃退するその実力と、司祭級の回復魔法を持つ貴殿の力になれるとは、とっても思えないがな」




「そ、そうよ! 彼はすごいのだからっ!」




 会心のドヤ顔で、ローズが続く。




「ああ、違いないっ」




 と、言い終えると豪快に笑いだすセニョール。
それにつられて、他のメンバーにも笑みが浮かんだ。


 こんなかんなで、馬車の中は和やかな雰囲気で。
しかし、俺だけはモゾモゾとした居心地のわるさを感じつつも、馬車はダンジョンへ向けて進んだ。



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