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年下御曹司は白衣の花嫁と極夜の息子を今度こそ! 手放さない

ささゆき細雪

Chapter,4_03. 婚姻届と気の早い花嫁衣裳

 朔に仕事で悩んでいると誤解されたまま抱き潰された木曜日の朝。すでに時計の針は九時を過ぎていた。

「ちょっとサクくん! なんで起こしてくれないの! ……むっ?」

 ベッドからむくりと起き上がった淑乃は、朔に抱きしめられ唇を奪われ何も言えなくなってしまう。
 朔は彼女の髪を撫でながら、宥めるように言葉を紡ぐ。

「今日は休診日。それにトーヤなら俺が作った朝食食べて、学校に行ったよ」
「――あ、ありがと」
「ママは仕事でお疲れだから寝ているって伝えたら、無理しないで、だってさ」
「ん……」
「ほんとうは、俺が淑乃を夜遅くまで手放せないからなんだけどね」
「もう、サクくんってば……」

 気怠い身体に鞭打って、淑乃がベッドから立ちあがれば、朔が彼女の部屋着をそそくさと脱がせてはだかにしてしまう。
 朝陽が差し込む寝室で無防備な状態にされた淑乃は、彼の手で彼が選んだ薄紫色の下着をつけられ、そのまま白地に桃色の小花がプリントされたワンピースに袖を通され背中のリボンを結ばれる。なんだか自分がお姫様になったような錯覚に、淑乃は柄にもなく戸惑いの表情を浮かべる。

「よしのは淡い色が似合うよね。今日はカウンセリングもお休みでしょ?」
「お休みだけど午後からカルテを……」
「じゃあ午前中に一緒に役所行こう。婚姻届もらいに行かないと、結婚の許しをもらってもすぐに手続きできないだろ?」

 午後から診療所に戻らないといけないが、役所に行くだけなら午前のうちに用事を済ませられるはずだ。
 淑乃が頷けば、嬉しそうに朔が笑顔を見せる。

「ひさびさにふたりでデートできるな」
「午前中だけだからね」
「わかってるよ。役所行ってデパート行ってお昼ごはん食べるまでつきあってくれれば今日は充分」
「……役所だけじゃないの?」

 淑乃がきょとんとした表情で問返せば、朔が軽く首を縦にふる。

「よしのの服も見に行きたいからね」
「服はもういいわよ」
「日曜日に挨拶に行くときに着ていく服は?」
「……え?」
「さすがに和服だと俺着付けできないから、ひとをお願いしないといけないよね」
「サクくんっ!?」
「冗談だよ。トーヤも一緒だからそんなに堅苦しい格好じゃなくて大丈夫。俺もスーツだし」
「じゃああたしもスーツでいいです」
「いまからオーダーメイドのスーツを注文すると間に合わないけど……」
「だ、だからなんで買う方向で、それもオーダーメイドって発想になるのよ!?」

 そういえば、学生時代は買い物デートなどしたことがなかった。淑乃も朔も大学敷地内で過ごすことが多かったからデートといえば図書館、博物館、美術館、劇場などが主で、わざわざ繁華街に買い物に繰り出すこともなかったからだ。生活用品の多くは通販で事足りたし、大学周辺にある量販店に行けば急ぎのときに必要最低限なものを購入できた。淑乃が持っているスーツも街道沿いの紳士服店の閉店セールで格安で準備したものだ。
 産後に購入したそれは、灯夜の入園式や入学式のときのセレモニースーツとして現役で活躍している。母親が着慣れた服でいる方が灯夜も緊張しないだろうから、それで充分だと淑乃は考えていたのだ。

「わかったわかった。服についてはよしのにまかせるよ」

 結婚の挨拶に行くためにわざわざ彼に服を買ってもらう必要はないと力説する淑乃を微笑ましく見つめていた朔は、すこしだけ名残惜しそうな顔をしたが、彼女の意見を聞き入れてくれた。

「そのかわり」


   * * *


 シルクの布に、繊細な意匠のレースと透き通ったシフォンリボン、八重咲きの薔薇やトルコギキョウを彷彿させる豪奢な造花に、小粒ながらも存在感のある淡水真珠、どれもこれも高品質の素材が所狭しと象牙の卓のうえに並べられ、手に取られるのを待っていた。
 同じ場所に飾られたトルソーには床までドレープが重なった純白のドレスが着せられていて、サンプルとは思えない輝きを魅せている。
 淑乃に似合いそうだと朔が口をひらけば、店員が嬉しそうに賛同して声を弾ませる。

「ええ、こちらの裾の長いタイプはいまの流行なんですよ。あちらにもご用意しておりますのでぜひご覧ください!」

 ――なんで、こんなことになっているんだろう?

「会社のことを考えると、結婚式を挙げないって選択肢はないだろ」
「サクくん、さすがに気が早すぎると思うよ。まだ結婚式の日程すら決めてないのに」
「オーダーメイドは時間がかかるからちょうどいいよ。いまのうちに採寸だけして……」
「……太ったらどうするの」
「もちろん調整できるようにはしてもらうよ。赤ちゃんができても大丈夫なようにね」
「――!?」

 朔と一緒に役所に婚姻届をもらいに行った足で案内されたのは、デパートのVIP御用達ブライダルサロン。貸衣装ではなく、オーダーメイドでウェディングドレスを作成するのだという。
 結婚しようというはなしはしたが、結婚式をしようとは言っていないと淑乃が唇を尖らせれば、入籍だけですむわけがないと逆に朔に諭されてしまった。

「俺だって家族単位のささやかな挙式で充分だと思うけどさ。会社向けの披露宴を行うなら最高に着飾って見せびらかしたいんだよ……だから日曜日はスーツでいいから、結婚式の衣装は俺と一緒に一から作ろう?」
「……もう」

 そもそもの発端は淑乃が今度の日曜日に朔の父親に挨拶するために服を買う買わないというものだった。これならはじめから素直に服を買ってもらえばよかったのだろうか……いや、朔のことだから淑乃が否と言えないよう花嫁衣裳を準備させるためにあえて日曜日の件を譲って、こっちに誘導した可能性が高い。

「――じゃあ、甘すぎないロマンティックなドレスがいい」
「了解」
「気が早いよ……」

 きっと朔は結婚式で淑乃を最高に着飾って、大勢の人間に見せつけたいのだ。
 いままで日陰の立場に甘んじていた彼女が自分の運命の相手である、と表舞台で。

「早いもんか……俺はずっとよしのを花嫁にすることを学生時代から考えていたんだから」

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