立花 祈

雛芥子

次の日の夜も、黒猫はやってきた。

舞子も黒猫の訪れを楽しみに、月が出始めた時間から窓の外を気にしていた。

黒猫の足早な様子から、いいことがあったんだとすぐわかった。



「ぼく、彼女に花を渡したんだ。そしたら、すっごく喜んでくれて。

彼女みたいに綺麗な橙色の花なんだよ。一番素敵なものを渡したくて、いつも行かない遠くまで行ったんだ」



「それは、よかったわね。きっと部屋に飾って、あなたの事を思い出してくれる。」



黒猫はそれを聞いて満足そうな笑みを浮かべた。

よく見ると、いつも以上に毛並みは美しく、彼女に会うために彼なりの準備をしたことは、人間の舞子でもよくわかった。

舞子も幸せな気持ちになり、一匹と一人で過ごす時間がなんだか舞子は好きになった。

また聞かせに来てもいいのよと、舞子は言った。



彼と別れてから、

この三年間一度も心から愛されたことなんてないんじゃないかと

自分がみじめになったが、

今晩はそんなことはなかったと思い返す出来事を思い浮かべていた。



舞子が好きだと思ってと買ってきてくれたプリン味のアイスも、

枯れてしまうけれどもそれがいいのだと言っていた花も、彼はいつも大好きな笑顔と共に届けてくれた。



終わりになってしまったけれど、きちんと愛されていたことを思い出しては、

つらい気持ちと共に幸せな日々であったことが舞子を勇気づけた。

コメント

コメントを書く

「文学」の人気作品

書籍化作品