立花 祈

黒猫


よく晴れた日の朝だった。

舞子は昨日の夜の出来事を思い出し、あぁそうかあれは夢じゃなかったんだと伸びをした。

3年間付き合った彼と別れを告げ、次の休みからはどう過ごそうかと窓を開けたとき、

そこに1匹の猫がいた。

舞子の部屋は1階で、よく庭に虫や鳥や猫なんかが迷い込むが、

その猫がいきなり話し出したもので、舞子は少し飛び上がった。



「これ、落とし物?そこに、落ちていたんだけど」

黒い毛つやつやとした毛並みが口に咥えていたのは、

元彼の誕生日にあげたお揃いのピアスの片方だった。

「そうね、大切だった人の落とし物」



「でも、もう私のではないわ。」

猫は不思議そうに舞子の目をじっと見つめていたが、それが不要だと分かったのか

その場から退いた。



不思議な朝だった。

ただ、舞子にとってはいつもの変わらぬ日常は昨日の彼との別れによって

大きく変わる事となるのだし、猫が喋るなんてことは、そのとき大切なことではなかった。



舞子はいつものように支度をし、

仕事に出かけた。

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