偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.87

 “コイト・ウタナ”の自社ホームページに代表取締役社長として攷斗の顔写真が掲載されるや、ネットニュースで話題になり、SNSで瞬く間に拡散されていった。
 その中でも多いのが『社長イケメン!』『コイトさんファンになった!』『ウタナの服めっちゃ買う!』といった書き込みだった。
 苦笑気味の攷斗にそれを報告されたひぃなも、攷斗と同じように顔が苦み走っていく。
「迷惑かけるようだったら、すぐ教えて。電話も可」
「はい」
「結婚してることは特に公表してないから大丈夫だとは思うけど」
「はい」
「この感じだとバレるのにそう時間はかからないかと」
「はい。同様の見解でございます」
 二人で顔を見合わせ、正真正銘の苦笑を浮かべる。
「いや、予想外だった」
「んー、まぁ、ね」
 ひぃなはある程度予想が出来ていたが、それにしても規模が大きすぎる。
 ニュースサイトの投稿についた転用拡散やお気に入りの数は、万を数えていた。海外でも名の通るブランドが故、それは海外ユーザーからも大きな反響を得ているようだ。
「宣伝になるのはありがたいけど、なー」
 攷斗はどこか複雑そう。
「少し落ち着けば、ホントにウタナのデザインが好きな人が残るか、デザインも好きになってくれる人が残るよ」
「ポジティブだね」
「だってウタナのデザイン、本当に素敵だから」
「……ありがとう。俺が手掛けたデザインじゃないのもあるけどね」
 照れ隠しに小憎らしいことを言う。
「私が着てるやつは?」
「ひなが持ってるのは、俺が視た限りでは、ほとんど俺のだね」
「そうなんだ」
 ウタナのデザインにはいくつかの特徴がある。メインはいわゆる“オフィスカジュアル”系で、ひぃなの手持ちはほとんどそのラインだ。
 砕けたカジュアル系や少々奇抜なものも扱っているが、さすがに体系や年齢を選ぶ。
「実はうちのデザインの服って、タグが何種類かあるんだけどさ」
「あ、色違うやつ?」
「そうそう。さすが」
 攷斗曰く、タグの布地の色で誰がデザインしたかわかるようになっているそうだ。攷斗がデザインしたものは何色のタグが付いているのか聞いてみたが、
「ナイショ」
 語尾に音符マークかハートマークが付くような口調で、真正面からはぐらかされた。
 自室に戻った際確認してみたが、ひぃなのクローゼットに入っているウタナの服は、黄色地のタグが付いた服が大半だった。
 試しに数日間、タグの色を確認しながらウタナの服を着てみると、攷斗の反応の違いに気付く。
(わかりやすくて可愛いな。わざとかな)
 おそらくは黄色タグが攷斗のデザインなのだろう。それを着たひぃなを見る目の優しさが物語っている。
 “目は口程に物を言う”とは良く言ったものだ、なんて、ひぃなは少し親父臭いことを考えた。

* * *

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