偽装結婚を偽装してみた
Chapter.83
客用の布団セットを持ち込んで、ベッドから少し離れた場所に敷く。その光景を、ひぃなはぼんやり座ったまま眺めている。
「寝てていいよ? なにかあったらこれ押して」
どこから持ってきたのか、ホテルのロビーにあるような呼び鈴を枕元に置いた。
「ごめん、ね…?」
ひぃながかすれた声でようやっとつぶやく。
「全然? ここんとこ色々あったし…謝るのは俺のほうだし…。そばにいるから、ゆっくり休んで」
小さく、ゆっくりと頭を横に振る。いつもより幼い表情。
「なにもしないから。寝てなって」
寝かせようとベッドに腰かけひぃなの身体を支えるが、ひぃなはなおも首をゆっくり振りながら、ためらうように攷斗の腕を緩くつかんだ。
熱い指先が地肌に触れる。
攷斗はひぃなの上気する頬に、柔らかい果実に触れるように手のひらを添えた。
「……心細い?」
揺れる瞳が攷斗を見つめて。しばらくして、ゆっくりとうなずいた。
攷斗は優しく微笑んで、ひぃなの熱い身体をそっと抱き寄せる。
「そういうときは遠慮しないでいいから、教えてね? 困ったときは、たくさん甘えてよ」
「……ごめん……」
「怒ってるんじゃなくてね? さみしいなーって」
頬から耳、そして頭を優しく撫でて、なだめる。
熱で敏感になった肌に滑る攷斗の手の感触が心地良い。
その感覚に溺れるように、それでいて熱に浮かされるように、頭の中に渦巻く言葉が勝手に音になって、口から出ていく。
「きらいに…ならない……?」
「うん。ならない」
ひぃなを愛おしそうに抱いて、攷斗が困ったように笑う。
「ほんと…?」
「ほんと」
思考が口から音になって出ていることに、ひぃなは気付いていない。夢の中でしゃべっているような感覚のまま、ひぃなが言葉を紡ぐ。
「わたし……」
縁取りのぼやけた口調に気付いた攷斗は、黙って続きを待つ。
「わたし…ほんとの、おくさんに、なれるかな……」
意外すぎる発言に、攷斗が目を丸くした。
「……なれるし、なってほしいと思ってるよ」
熱い頬を撫でながら、攷斗が穏やかに微笑む。
ユメかリアルか、どこかの狭間にいるような表情のひぃなが、ゆっくりと身体を離し、上目遣いに攷斗を見つめた。
「…すき……?」
「……うん。好きだよ」
しっかりとひぃなを見つめて言った攷斗の返答に、ひぃながふにゃりと笑って、触れたままの攷斗の手のひらに頬ずりをした。
(かっわいい……!)
病人じゃなかったらこのまま押し倒してたところだ。あぶない。
「今日も、これからもずっとそばにいるから。いまは、ゆっくり休んで?」
ひぃなは嬉しそうに微笑みながらゆっくりうなずいて、攷斗に支えられながら身体を横たえる。片方の手を繋いだまま枕に頭を乗せると、安心したように瞼を閉じて寝息を立てた。
(熱が下がったら覚えてないんだろうな)
それでも、怖くて触れることの出来なかったひぃなの本心が少し見えた気がして、攷斗は嬉しかった。
ほどなくしてひぃなの手の力が緩む。布団を掛け直してホッと息を吐く。
(すげぇ好きだなー)
持ち込んだタブレットで仕事の進捗を確認しつつ、時折ひぃなの様子も確認しながら、自分の気持ちも再確認する。
(いい加減、本気で気持ち伝えないとダメだな……)
気持ちもそうだが、何より攷斗を度々襲う煩悩を抑えるのにも限界が見える。婚姻届を出してから半年あまり。契約上の夫婦を装っているから、いまだ身体の関係はない。むしろ、これからもあるかどうかはわからない。
お互いの気持ちを確認して、名実ともに夫婦になってから。
婚姻届を出すとき、攷斗は密かに自分に誓った。
でないと、いつひぃなを傷つけてしまうかわからなかったから。
「寝てていいよ? なにかあったらこれ押して」
どこから持ってきたのか、ホテルのロビーにあるような呼び鈴を枕元に置いた。
「ごめん、ね…?」
ひぃながかすれた声でようやっとつぶやく。
「全然? ここんとこ色々あったし…謝るのは俺のほうだし…。そばにいるから、ゆっくり休んで」
小さく、ゆっくりと頭を横に振る。いつもより幼い表情。
「なにもしないから。寝てなって」
寝かせようとベッドに腰かけひぃなの身体を支えるが、ひぃなはなおも首をゆっくり振りながら、ためらうように攷斗の腕を緩くつかんだ。
熱い指先が地肌に触れる。
攷斗はひぃなの上気する頬に、柔らかい果実に触れるように手のひらを添えた。
「……心細い?」
揺れる瞳が攷斗を見つめて。しばらくして、ゆっくりとうなずいた。
攷斗は優しく微笑んで、ひぃなの熱い身体をそっと抱き寄せる。
「そういうときは遠慮しないでいいから、教えてね? 困ったときは、たくさん甘えてよ」
「……ごめん……」
「怒ってるんじゃなくてね? さみしいなーって」
頬から耳、そして頭を優しく撫でて、なだめる。
熱で敏感になった肌に滑る攷斗の手の感触が心地良い。
その感覚に溺れるように、それでいて熱に浮かされるように、頭の中に渦巻く言葉が勝手に音になって、口から出ていく。
「きらいに…ならない……?」
「うん。ならない」
ひぃなを愛おしそうに抱いて、攷斗が困ったように笑う。
「ほんと…?」
「ほんと」
思考が口から音になって出ていることに、ひぃなは気付いていない。夢の中でしゃべっているような感覚のまま、ひぃなが言葉を紡ぐ。
「わたし……」
縁取りのぼやけた口調に気付いた攷斗は、黙って続きを待つ。
「わたし…ほんとの、おくさんに、なれるかな……」
意外すぎる発言に、攷斗が目を丸くした。
「……なれるし、なってほしいと思ってるよ」
熱い頬を撫でながら、攷斗が穏やかに微笑む。
ユメかリアルか、どこかの狭間にいるような表情のひぃなが、ゆっくりと身体を離し、上目遣いに攷斗を見つめた。
「…すき……?」
「……うん。好きだよ」
しっかりとひぃなを見つめて言った攷斗の返答に、ひぃながふにゃりと笑って、触れたままの攷斗の手のひらに頬ずりをした。
(かっわいい……!)
病人じゃなかったらこのまま押し倒してたところだ。あぶない。
「今日も、これからもずっとそばにいるから。いまは、ゆっくり休んで?」
ひぃなは嬉しそうに微笑みながらゆっくりうなずいて、攷斗に支えられながら身体を横たえる。片方の手を繋いだまま枕に頭を乗せると、安心したように瞼を閉じて寝息を立てた。
(熱が下がったら覚えてないんだろうな)
それでも、怖くて触れることの出来なかったひぃなの本心が少し見えた気がして、攷斗は嬉しかった。
ほどなくしてひぃなの手の力が緩む。布団を掛け直してホッと息を吐く。
(すげぇ好きだなー)
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(いい加減、本気で気持ち伝えないとダメだな……)
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