偽装結婚を偽装してみた
Chapter.73
「オレら、友達の延長みたいな感じで付き合い始めて、まぁそれなりに? 恋人同士っぽいことはやってるんですけど」
テレテレしながら嬉しそうに話す湖池は変わらず可愛らしいが、ひぃなと攷斗は少し困り始める。きっと、湖池が想像しているような“経緯”が、棚井夫妻には、ない。
「あんまりマジメな話をしないまま来ちゃったんで、いきなり言ったら驚くかなーと」
三十代で三年付き合っていれば相手だって考えているだろうから、そんなに驚かないと思うが、本人的にはやはり不安が残るらしい。
「うちは自由な社風だし、オレらの部署もお二人んときみたいにフロア違うし、社内で会うこともそうそうないから、どっちになっても気まずいとかはないと思うんだけど、やっぱ、不安なんですよね」
うんうんと攷斗がうなずく。思い当たる節がありすぎるからだ。
その隣で、遅ればせながら(やっぱりそうなんだ)とひぃなも密かに思う。
「だから、二人のなれそめっていうか、どういう流れだったのか聞きたくて……」
「なんだ、それなら最初から言ってくれればよかったのに」
「や。それが目的で誘ったんじゃないよ。普通に二人でいるところが見たかったっていうか」
「誰目線なの」
「いや、急な話だったからびっくりしてさ~」
それは当事者もだよ、と二人は思うが、口には出せない。
「差し支えなかったら、プロポーズの言葉とか~……」
「差し支えございますのでお教えできません」
攷斗が業務口調で拒否をした。
「え~、いいじゃん。参考にしたいんだって」
「参考には、ならないと思う、よ……?」
ひぃなが控えめに伝える。なんせ“ケッコン、カッコカリ”をしようと持ち出されたのだ。
この関係がカッコカリなことは、夫妻以外に堀河しか知らない。
もう、それは取れてもいいんじゃないかと思っているが、一人の意見で判断出来るものでもない、とも思っている。
「いいじゃん別に。普通に言えば」
「なんて?」
「だから、結婚しようって。ちゃんと付き合ってんだし、向こうだって言われても不思議じゃないんじゃないの?」
自分に出来なかったことを言っている自覚のある攷斗は、口の端に苦笑いを貼り付けながら湖池にアドバイスをしている。
「時森チーフもそうでした?」
「んんっ?」
飲んでいた酒を吹き出しそうになって、少し慌てて、おしぼりで口元を拭いた。
「そ、うだね…。ちゃんと付き合ってる上で、そう言われたら、不思議だとは思わないかな。二人とももう大人だし、紙尾ちゃんだって考えてないわけじゃないと思うけど」
「そうですかねぇ……」
当事者は、周りにどんなに言われても不安を拭えない。
おしぼりを置いて、自分と話しているときの堀河はこんな気持ちなのかな、などと考えてみる。
紙尾には、あまり踏み込むのも悪いかと思って、プライベートな話は向こうからされるまで聞かないようにしていたが、そろそろ年齢的にもなーなんて話を聞いたことがあるので、湖池にその意思があるなら早いほうがいいと思う。
湖池が不安なのもわかるが、やはり出来れば、男性からビシッと言ってもらったほうが女性的には安心するものだ。
が、それをどう伝えよう。
「あっちはあんまり結婚願望なさそうなんですよね……」
「そうなの?」
「さりげなく話振ったりしてるんですけど、あんまり乗ってこないというか……」
「さりげなさすぎて気付いてないだけなんじゃない?」
「えー? そんなことありますー?」
「人によってはある」
実際、ひぃなの元婚約者が回りくどいタイプで、遠回しすぎて言われた瞬間に気付けず、あとになって“あれはああいうことだったのか…?”と焦った経験がある。ひぃなもこと恋愛に関しては敏感でないほうなので、余計に気付き辛かった。
「紙尾ちゃん案外ぽんやりしてるところあるし、気付いてない可能性高いよ。言ってみたら? ストレートに」
「断られたら怖いですし……」
「それは大丈夫でしょ」
“カレシ”が出来て初めての誕生日に贈られたネックレスを、いまでも大事に毎日身に着けているのをひぃなは知っている。
たまに不貞腐れたり怒ったりしながらも、言ってる内容がノロケなことに紙尾は気付いていない。
「俺も怖かったけど、案外すんなり受け入れてくれたよ?」
ね? と攷斗がひぃなを覗き見た。
怖かったと思っていたのは初耳だし、正直“すんなり受け入れた”かは疑問だが、まぁ毎日楽しく、仲良くやっている。
「うん。なんとかなるもんだよ」
「そっか……じゃあ今度のデートのときに言ってみます」
おぉー、と拍手を送られた湖池が、
「で、今後の参考に聞きたいんすけど!」
いつもの調子に戻って“新婚生活”のことを聞いてきて、攷斗とひぃなは思い出したように困り顔になってしまった。
テレテレしながら嬉しそうに話す湖池は変わらず可愛らしいが、ひぃなと攷斗は少し困り始める。きっと、湖池が想像しているような“経緯”が、棚井夫妻には、ない。
「あんまりマジメな話をしないまま来ちゃったんで、いきなり言ったら驚くかなーと」
三十代で三年付き合っていれば相手だって考えているだろうから、そんなに驚かないと思うが、本人的にはやはり不安が残るらしい。
「うちは自由な社風だし、オレらの部署もお二人んときみたいにフロア違うし、社内で会うこともそうそうないから、どっちになっても気まずいとかはないと思うんだけど、やっぱ、不安なんですよね」
うんうんと攷斗がうなずく。思い当たる節がありすぎるからだ。
その隣で、遅ればせながら(やっぱりそうなんだ)とひぃなも密かに思う。
「だから、二人のなれそめっていうか、どういう流れだったのか聞きたくて……」
「なんだ、それなら最初から言ってくれればよかったのに」
「や。それが目的で誘ったんじゃないよ。普通に二人でいるところが見たかったっていうか」
「誰目線なの」
「いや、急な話だったからびっくりしてさ~」
それは当事者もだよ、と二人は思うが、口には出せない。
「差し支えなかったら、プロポーズの言葉とか~……」
「差し支えございますのでお教えできません」
攷斗が業務口調で拒否をした。
「え~、いいじゃん。参考にしたいんだって」
「参考には、ならないと思う、よ……?」
ひぃなが控えめに伝える。なんせ“ケッコン、カッコカリ”をしようと持ち出されたのだ。
この関係がカッコカリなことは、夫妻以外に堀河しか知らない。
もう、それは取れてもいいんじゃないかと思っているが、一人の意見で判断出来るものでもない、とも思っている。
「いいじゃん別に。普通に言えば」
「なんて?」
「だから、結婚しようって。ちゃんと付き合ってんだし、向こうだって言われても不思議じゃないんじゃないの?」
自分に出来なかったことを言っている自覚のある攷斗は、口の端に苦笑いを貼り付けながら湖池にアドバイスをしている。
「時森チーフもそうでした?」
「んんっ?」
飲んでいた酒を吹き出しそうになって、少し慌てて、おしぼりで口元を拭いた。
「そ、うだね…。ちゃんと付き合ってる上で、そう言われたら、不思議だとは思わないかな。二人とももう大人だし、紙尾ちゃんだって考えてないわけじゃないと思うけど」
「そうですかねぇ……」
当事者は、周りにどんなに言われても不安を拭えない。
おしぼりを置いて、自分と話しているときの堀河はこんな気持ちなのかな、などと考えてみる。
紙尾には、あまり踏み込むのも悪いかと思って、プライベートな話は向こうからされるまで聞かないようにしていたが、そろそろ年齢的にもなーなんて話を聞いたことがあるので、湖池にその意思があるなら早いほうがいいと思う。
湖池が不安なのもわかるが、やはり出来れば、男性からビシッと言ってもらったほうが女性的には安心するものだ。
が、それをどう伝えよう。
「あっちはあんまり結婚願望なさそうなんですよね……」
「そうなの?」
「さりげなく話振ったりしてるんですけど、あんまり乗ってこないというか……」
「さりげなさすぎて気付いてないだけなんじゃない?」
「えー? そんなことありますー?」
「人によってはある」
実際、ひぃなの元婚約者が回りくどいタイプで、遠回しすぎて言われた瞬間に気付けず、あとになって“あれはああいうことだったのか…?”と焦った経験がある。ひぃなもこと恋愛に関しては敏感でないほうなので、余計に気付き辛かった。
「紙尾ちゃん案外ぽんやりしてるところあるし、気付いてない可能性高いよ。言ってみたら? ストレートに」
「断られたら怖いですし……」
「それは大丈夫でしょ」
“カレシ”が出来て初めての誕生日に贈られたネックレスを、いまでも大事に毎日身に着けているのをひぃなは知っている。
たまに不貞腐れたり怒ったりしながらも、言ってる内容がノロケなことに紙尾は気付いていない。
「俺も怖かったけど、案外すんなり受け入れてくれたよ?」
ね? と攷斗がひぃなを覗き見た。
怖かったと思っていたのは初耳だし、正直“すんなり受け入れた”かは疑問だが、まぁ毎日楽しく、仲良くやっている。
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