偽装結婚を偽装してみた

小海音かなた

Chapter.68

 神社が近くなってくると、出店や人通りがだんだんと増えていく。
「すごい人……はぐれそう」
 思ってたよりも盛況で、ひぃながぽつりと呟いた。
 それを聞き逃さなかった攷斗が、じゃあ、とひぃなの手を取り、繋ぐ。
 はぐれたら電話で連絡とればいいか、と言おうとしてたのに、先手を取られてひぃなが少し慌てる。でも、冷えた指先に攷斗の手の温度が沁みて離す気が起きない。
攷斗はそのまま、自分が着ているオーバーサイズのコートのポケットに手を入れた。
「出したくなくなるね」
 その温かさは、棚井家にはないコタツのような魔力があるように感じる。
「ほんとだね」
 二人で寄り添って神社の境内へ入り、一般的な参拝の順路を辿る。手水舎の水が思いのほか冷たくて二人で声を出さないよう我慢したり、お守りを贈りあったりしてから、少しだけ出来ている待機列に並ぶ。ほとんどの参拝客は二年参りで昨晩訪れているらしいが、それでもなかなかの盛況ぶりだ。
 おみくじは二人とも【大吉】で、家内安全、商売繁盛、今年一年無病息災とのこと。
「“【待ち人】すでにあり”、だって」
「え、私も」
「え。ほかのとこは?」
「えーっと……あ」
「ん?」
「“【愛情】心を尽くせ 言葉で伝えよ”……」
 二人の内容を見比べるが、番号は違っている。その他の項目やお告げの内容も違うのに、【待ち人】と【愛情】だけが一致していた。
「……持ち帰ろうか」
「そうだね」
 顔を見合わせた二人は、各々の財布におみくじを丁寧に折り畳んで入れた。
 境内を出てからも、攷斗はひぃなの手を取り、繋いで歩く。
(もう大丈夫なんだけどな)
 と思いつつ、暖かさや手の感触が心地良いのでひぃなも言わない。
「ついでに買い物していく?」
「うーん、特に大丈夫かなぁ」
 年始用の飲み物は、大晦日の買い出しでケース購入したので充分足りる。
「どっか寄りたいところあったら言ってね」
「はーい」
 二人は普通の夫婦のように仲睦まじく歩を進めている。
 心の中にいつもある“願い”も一緒。
 ――このまま、本当の夫婦になれますように。
 密かに抱いたその願いは、一緒に暮らしていくうちに、大きくなっていた。

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